駅近に隠れた魚自慢の和食処、姫路『廚おとと』

JR姫路駅北側の繁華街にある『廚(くりや)おとと』。初めて訪れる人は、思わず通り過ぎてしまいそうなほど控えめな店構え。しかし、一歩足を踏み入れると、そこには期待をはるかに超える、鮮魚をメインにした和の馳走が溢れています。

魚料理やアテなどの一品が50種

扉を開けば、シックでモダンな空間が目の前に。奥へと続くカウンターには、ゆったりと席が配され、その中で店主の寺本勝己さんが、きびきびと、流れるような所作で調理を進めています。

『廚おとと』の外観
街中に溶け込む、まさに“隠れ家”のような店構え。入口に掲げたご主人が毎日手書きするメニューからおいしい予感が。
『廚おとと』の店主・寺本勝己さん
相生の魚屋の次男坊として生まれた寺本勝己さん。魚は食べるより触るのが好きで、調理師学校を経て料理人の道へ。
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相生市の魚屋に生まれ育ち、幼い頃から魚に親しんだ寺本さんは、神戸や大阪の和食店での修業を経て、姫路市飾磨(しかま)に自店をオープン。2012年に現在の場所に移ってきました。メニューは、日替わりの品が50種ほど。それを全て一人で手掛ける寺本さんの料理は、品書きからイメージした以上の嬉しい驚きに満ちています。

「まずは、これを食べてみてください」と供されたのは、一見したところ普通のゴマ豆腐。でも、ひと口食べてびっくり! 香ばしいゴマの風味の奥に広がるのは、“ゴマのブランマンジェ”と呼びたくなるほどのクリーミーなコクと優しい甘み。「牛乳を加えてひたすら練っています」という滑らかな癒やしの味は、添えられたワサビの清涼感ともオツな相性で、虜になるおいしさです。

自慢の魚料理は、造りは氷を張った大鉢に見目麗しく盛られ、播磨灘で獲れたタコの酢の物は涼やかなジュレ状の土佐酢を纏って登場。「味は直球です」と言うとおり、造りの角はピンと立ち、身はキュッと締まったプリプリの食感。漁場の近さを感じずにはいられない新鮮な味わいです。一方、酢の物のタコは、心地よい歯応えを残しながらも驚くほど柔らかい絶妙な火入れ。魚を知り尽くした寺本さんの技が光っています。

『廚おとと』のタコ酢
前どれのタコを使用し、琥珀色に輝く土佐酢ジュレを合わせた「タコの酢の物」968円。薬味もたっぷり!
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期待以上の手間がかりの味

圧巻は、鮎の炭火焼。これも直球の味かと思いきや、「昆布を入れた塩水で一晩浸けた後にコンフィに。それを炭火で炙っています」という手間がかりの味。頭からかぶりつくと、鮎特有の香味が溢れ、身はふっくらとジューシー。110℃の低温でじっくり火入れしているので、中骨まで食べられます。メニュー名からは想像できない、この丹念な仕事ぶりこそ、寺本さんの料理に対する真摯な姿勢の証でしょう。

『廚おとと』の鮎の炭火焼
頭も骨も食べられる「丸かぶり鮎の炭火焼」990円。添えられた金山寺味噌は、気に入って長年取り寄せている和歌山『川善味噌』のもの。
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味わい豊かな地元の旬菜料理も

また、地元播磨の野菜を使った料理も見逃せません。神河町産のアスパラや伝統野菜の姫路れんこんは、持ち味を活かしてサクサクの天ぷらに。西洋野菜やハーブの栽培で知られる上郡町『門積農園』の野菜は、趣向を凝らしたサラダで登場します。旬のトウモロコシは、締めの土鍋ご飯で粒々と弾ける食感を噛み締めて。カツオ昆布の出汁とバターがトウモロコシの甘みを引き立て、ほっこり和めます。

食材への深い理解と惜しみない手間暇が込められた料理をいただく『廚おとと』での時間は、驚きや発見、そして悦びに満ち溢れています。

2階には落ち着いた雰囲気の個室があり、気の置けない仲間と寛ぐのはもちろん、大切な方をもてなす接待の場としても最適です。

『廚おとと』の枝豆と塩昆布のポテトサラダ
『門積農園』のベビーリーフを使った「枝豆と塩昆布のポテトサラダ」968円。温度玉子を割る趣向も愉しい一品です。
『廚おとと』の枝豆と塩昆布のポテトサラダ
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『廚おとと』のトウモロコシの土鍋ご飯
朝採りのトウモロコシの実がたっぷり入った「トウモロコシの土鍋ご飯」1人前1045円(注文は2人前~)。
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『廚おとと』の個室
プライベート感のある個室は5部屋あり、それぞれ2~6名と収容人数が異なります。仕切りを外せば最大10名まで可。
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