発明家の“新古典和食”を体感。大阪・豊中『とよなか桜会』

フレンチのエスプーマにヒントを得て開発した泡醤油や泡ポン酢。揚げない低温油調理で素材の味わいを活かしきる大根などなど。斬新なアイデア調理法を使った“新古典な和食”で話題をさらう『とよなか桜会(さくらえ)』。28年目の今、新しくて面白くて益々おいしい料理が揃っています。

店主・満田さんは“発明家”

創業28年目になる『とよなか桜会』。店主・満田健児さんは、静岡県出身。調理師専門学校を出て、大阪を代表する日本料理店『桝田』店主・桝田兆史さんの元で8年学び、その後『なだ万』でも腕を磨きました。師匠・桝田さんはじめ、『なだ万』時代の先輩後輩や、ご近所北摂の和洋の飲食店主など、交友範囲がとっても広い方。様々なジャンルの料理人とのコラボ・イベントや、真夜中の飲み会など、エネルギッシュに活動する料理人です。

満田さんは、“発明家”としても知られています。それは、食材のおいしさを活かしきるための、今までになかった新しい調理法を続々と考案し続けているから。この夏も驚きの料理を披露してくれました。

大阪・豊中『とよなか桜会』店主の満田健児さん
“発明家”の異名を持つ料理人、店主の満田健児さん。満田さんの元で修業して巣立っていった卒業生には、福島の『楽心』、中津の『かわ原』、蛍池の『蕎麦藤』、香住の旅館『お宿 まる屋』など、話題の店多数。
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夏の名物・満田流「ハモの油チリ」

朱塗りのカウンター席につくと、目の前で満田さんがハモの骨切りを始めました。ハモは関西の夏の味としてお馴染み。骨切りした身を湯引きして、すぐに氷水で締める“落とし”と呼ばれる調理法で登場するのが一般的。梅肉などですすめられることが多い料理です。今日のお造りの一つはハモの落としかなと思っていると、満田さんのハモ料理は、ひと味もふた味も違っていました。

大阪・豊中『とよなか桜会』ハモの骨切り
シュッシュッと小気味よく、ハモの骨切り中。
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何とハモの「油チリ」だというのです。

「落としって水っぽくなるなと思って。ハモのおいしさをもっともっと生かす方法があるんじゃないかな」と、試行錯誤。「以前、有機で大切に作られた大根のおいしさに感動して、この大根をそのまま生かす料理法として考案した油チリでやってみたんです」と満田さん。骨切りしたハモの身を100℃の油でゆっくり火を入れます。100℃以下だと水分が残り過ぎるし、100℃を超えると水分が蒸発してパサついてしまう。100℃の油でコーティングすると旨みが外に出て行かず、食感も良い感じに仕上がるんですよ」。
温度を1度ずつ上げ下げして実験試食を繰り返し、最適を見つけ出したのだそう。そのハモは、旨みをしっかり感じさせつつ、皮目は程よく柔らかく身はふっくらしっとりとして、ハモってこんなにおいしかったっけと思わせてくれました。

大阪・豊中『とよなか桜会』お造り
料理は、8月の夜のコース13860円(全9品)から。お造り2品のうちの一品。油チリハモと生湯葉の琥珀ゼリー掛け。驚異的に旨みがほとばしるハモにウニをのせて。
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ひと口の宝石が詰め込まれた八寸

大きな漆塗りの箱が卓上に運ばれてきます。蓋を開けると歓声が。コース中盤の花形・八寸。ほおずきの中はトマトの蜜煮。八ツ橋の上は、鯵の酢〆。ソースのように掛かっているのは、「鮒ずしの飯(いい)をペースト状にして生クリームと合わせました」と満田さん。甘酸っぱいヨーグルト風味が爽やかです。
キュウリの軍艦巻は、酢飯代わりのオカラが下に潜んでおり、イクラがトッピングされています。茹で落花生は、満田さんの故郷・「静岡富士市でよく食べられるものです」と。
味わいが濃厚だと思ったら、「2.1%の塩水に漬けたまま、100℃のオーブンで90分温めます」。何とこの一粒に90分も掛けているのです。「100℃にすると芯温が98℃になり、水分が蒸発しないんですよ。101℃も99℃も試して、100℃がベストでした」。いやはやさすが発明家です。
左端の器はタコ。これまた手が込んでいます。「1日目は砂糖水で梅干し炊き、2日目にその煮出した汁でたこを炊きます」。甘酸っぱいタコは、食感もほどよくて、食べたことのない未知の味わいです。
どれもこれも、一つひとつが実に手間掛かりのおいしい宝石のようです。

大阪・豊中『とよなか桜会』八寸
八寸。左から、梅の風味のタコのうま煮、八ッ橋の上は、トウモロコシの和え物、とはいえ、トウモロコシはミキサーに掛けて裏漉しし、粒のままのものと合わせてあり、白味噌を入れて衣に仕立てるという凝りよう。茹で落花生、キュウリの軍艦巻、ガラス器の中は、冷やしゴーヤチャンプル、鯵の酢〆ほか。
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ごはんの前に、もうひと盛り上がり。グツグツと湯気を上げて登場したのは、炊合せ代わりの煮物!? 甘鯛と松茸に、冬瓜やジュンサイ、生なめたけ、万願寺唐辛子の緑が目にも鮮やかです。トロトロの葛煮は、何とも滋味深く、記憶に残る一皿です。

大阪・豊中『とよなか桜会』葛煮
甘鯛と松茸の葛煮。存在感のある作家物の陶器の皿にて(2人前)。グツグツと泡立っています。
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「僕は今、古典を創っているつもりなんです」と満田さんは言います。
満田さんが発明する、食材のおいしさを活かしきるための、今までになかった新しい調理法は、「大層な設備がなくても誰でもできる。100人いれば100人同じに作れるはず」のレシピです。つまり、ハモの油チリが100年後、和食の世界で、古典として継承されているかも。未来の古典をいま、体感してみてください。
豊中が遠いなという方は、2020年にオープンした西天満店へ。こちらは、カウンターとテーブル席中心。豊中店に前日までに要予約。

大阪・豊中『とよなか桜会』内観
個室が大小あり、お子さまオーケーだから週末は家族連れで賑わいます。コースだけでなく、出汁巻き卵などの一品にも気軽に応じる、意外なほど敷居の低い日本料理店です。
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大阪・豊中『とよなか桜会』外観
店内レイアウトがデザインされたユニークな扉。「ちょっと変わった和食店ですよ」というアピールなのかも。
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