復活『いなの路』大阪・吉本芸人が愛した肉うどん

吉本芸人御用達、名物・肉吸いの店として、あまりにも有名な『信濃そば』が、店主高齢のためと、閉店したことはニュースにもなりました。5年後の2022年9月、復活のニュースに喜んだ人も多いはず。
信濃そば社長の姪のご主人にあたる山根正也さんが、“あの味”を再現。昔馴染みは「懐かしい!」、若い世代は「何だかホッとする味」と、老若男女に大受けしています。

復活劇の裏側に、決意と試行錯誤が

「『これこれ、こんなんやったわ!』って、泣きながら食べてくれた人もいます」と、店主の山根正也さんはニッコリ。
『信濃そば』は、『なんばグランド花月』のすぐそばで、創業から50年の歴史を刻んできました。吉本芸人が足繁く通い、そのお気に入りの一杯や思い出の味がメディアに取り上げられることも多い話題の店でした。ところが、店を継ぐ人がおらず、店主高齢のためと2017年閉店。
「惜しまれつつ閉店ってきれいな話やけど、それって文化をひとつ失くしてるってこと。僕は、このホッとする味をなくしたらあかんと思って」と、創業者の姪にあたる宏美さんの夫・山根さんが一念発起。

でも、当初ご家族は「復活したところでそんなにお客さん来てくれるかな」と不安そうだったとか。「家族にとっては身近過ぎて、スゴイ価値を実感できてないんやなと思いました」という山根さんは、宏美さんとの結婚前、28歳で初めて信濃そばでカレーうどんを食べ、「うわっ旨っ!」と感激したのだそう。その想いを糧に、味の再現に取り組みました。

まずはだし作り。レシピはなく、当時の仕入れ先もなくなっていました。昆布にかつお節にサバ節、もしかしてイリコも入っていたかもと、足したり引いたり配合を変えたり。「ああでもないこうでもないとやってると、義父や義母が味見をして、もっと昆布入れたらとか、こんな匂いじゃなかったでと」アドバイスをしてくれるようになったとか。
とうとう4年の歳月を掛けて、みんなが、うん、これこれと納得の味が再現できました。

大阪 なんば 千日前『大阪うどん いなの路』店主の山根正也さん
山根正也さん。かつてサラリーマンをしつつ店の繁忙期に手伝っていて見て覚えていたこともあったから、信濃そばの味が再現できたとか。
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甘めのだしをたっぷり吸った、やらこいうどん

さて、実食。まずは名物の肉うどんをいただきましょう。やらかい麺と甘めのだしが何ともほっこりする味わい。「大阪うどんはだしを吸ってナンボですから」と山根さん。肉は黒毛和牛のA3~A5を使用。とっても深い甘みを感じますが、このだしだけを飲むとさほどに甘くはないのです。肉の旨みが溶けだして、甘く感じるのですね。

大阪 なんば 千日前『大阪うどん いなの路』肉うどん、調理中
1階カウンターの内側がキッチン。ただいま肉うどんのオーダーが入りました。肉も青ネギもたっぷり。
大阪 なんば 千日前『大阪うどん いなの路』肉うどん
肉うどん1100円。やわらかい麺が、甘めのだしを吸って、止まらないおいしさ。
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もうひとつ、肉うどんに並ぶ人気のカレーうどんを。「一番再現したかったメニューです。カレーで病みつきになる人、昔から多くて。今も週に2回カレーうどん食べに来る人がいますよ」というオススメ。何だか、よく知っているカレーうどんとは違って、どこまでも優しい味。思ったよりスパイシーで、でもやっぱりほっこり、お腹も心もあったまる味わいです。「作り方もよそとちょっと違うんです。肉うどんをベースにカレー粉を混ぜてとろみをつけるんですよ」と山根さん。確かにまた食べたくなるカレーうどんです。

大阪 なんば 千日前『大阪うどん いなの路』カレーうどん
カレーうどん1155円。最後は、ご飯を頼んで、残ったカレーを掛けて食べるのが、常連のルーティンだそう。
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うどんだけじゃなく居酒屋づかいも

復活した場所は少し移動して、相合橋筋商店街の中へ。店名も変わりました。
「『前のイメージを引きずるより若い感性で新しいこともしたらええ』と店名を変えるように義父に強く勧められました。いなの路とは、先代の家族の故郷・長野県伊那市と、自分の故郷・姫路を合わせて考えました。やっぱりリスペクトありきで始めたから、全然関係ない名前は付けられなかった」と山根さん。

大阪 なんば 千日前『大阪うどん いなの路』外観
商店街にしっくり溶け込んだ店。
大阪 なんば 千日前『大阪うどん いなの路』内観
1階はカウンター、2階にはテーブル席があります。
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『いなの路』の品書きには昔ながらの大阪のうどん屋のメニューがズラリと並んでいます。きつねとたぬきの違いは分かっても、はいから、きざみは若い世代には馴染みがないかも。(ちなみに、はいからは天かす、きざみは細かく刻んだ油揚げをトッピングしています)。
こんぶ、ざる、わかめ、とりなんばに加え、アナゴ一本天ぷらや炙りチーズカレーなんて最近の流行り物のほか、冷めたいメニューも増やしたそう。「昔はざるうどんやそばくらいやったけど、僕らがおいしいと思うものを出したいなと。このだし在りきで、だしに合うメニューを考えました。冷やし担々麺とか自信作です」と山根さん。
さらに、丼物に海鮮ごはん、17時からの飲みメニューとして刺身や唐揚げなど、実にバラエティー豊か。お昼のうどんやそば、丼物だけでなく、居酒屋づかいもできますね。

大阪 なんば 千日前『大阪うどん いなの路』おにぎり、だしまき
人気のおにぎり165円。米は上等なコシヒカリだそう。海苔が味付け海苔ではなく焼きのりなのは、創業者の故郷・長野県にならって。だしまき660円。アルバイトの女性スタッフが「見た目イマイチなんですけどー。味は一緒です!」と運んできてくれました。彼女は吉本の漫才師・紫式部のほまりさん。「芸人やけど(?)真面目な子です」と山根さんのお墨付き。
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お客さんは、10代から、上は子どものころから信濃そばに通ってたという80代まで。以前より入りやすくなったと、女性の一人客も目立ちます。オンラインで冷凍うどんも販売中ですので、チェックしてみてくださいね。