『京都くりや』自然の風味を大切に、郷愁をそそる栗の菓子

京都府園部町にあった本家からの暖簾分けで大正年間に開業した栗菓子専門店。秋の味覚の代表である栗を使い、素朴な味わいの菓子を3代にわたって作り続けている。通年販売されている代表銘菓「金の実」を始め、秋から冬にかけての期間限定菓子「栗おはぎ」も大人気。手を加え過ぎない、どこか懐かしさを感じさせる和菓子の数々を求める客で日々賑わっている。

丹波の幸をふんだんに使う和菓子が並ぶ

京都・丸太町通に面して建つ店舗に掲げられている堂々たる木製看板に書かれているのは店名ではなく、看板商品である栗納豆「金の実」。大粒の国産栗をじっくり炊き、5~6回蜜漬けを繰り返してから乾燥させる、手間入りの逸品だ。

黄金色に輝く姿はまさに「金の実」。表面のシャリシャリ感と栗自体のホックリ食感は、日本茶はもちろん、コーヒーや紅茶との相性も抜群。和のマロングラッセとして、通年で幅広い世代に支持されている。

園部町の本家から分家して店を構えたのは100余年前。丹波産大納言小豆で作るつぶ餡と栗を挟んだ「栗どら」、栗の形が愛らしい最中「山の端」、栗がごろごろ入った「栗羊羹」など、丹波の豊かな自然に思いを馳せたくなる和菓子が並ぶ。

『京都くりや』外観
2022年の火災で店舗は全面改装が必要だったが、「看板は少し焦げた程度ですみました」と山名さん。自身も重い火傷を負い、一時は店をたたむ覚悟もしたそうだ。
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『京都くりや』金の実
「金の実」は袋入り(6個、1373円)のほか、贈答用の桐箱入りなども用意されている。日持ちは夏季7日、冬季10日。
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『京都くりや』店内
店内の一画には、失意の山名さんに向けた心温まるメッセージ入りの手ぬぐいが額装されて飾られている。
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秋冬の一番人気は栗おはぎ

「栗の収穫期である晩秋は寝る暇もないぐらい忙しいですね」と3代目店主の山名清司さんは苦笑する。産地から届く栗を「金の実」に加工する作業に加え、多くのファンが待ち焦がれる季節限定の「栗おはぎ」も仕込まねばならないからだ。

「栗おはぎ」は、栗の実から作る餡でもち米を包むシンプルな和菓子。

『京都くりや』栗の餡でもち米を包む
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「かつて日本各地で行われていた、秋の収穫を祝うために亥子の日に作るぼた餅がルーツだと聞いています。♪亥子のぼた餅 祝いましょ 蔵に千石積むように…♪などと歌いながら歩く子どもたちに渡していたそうです。ハロウィンに似ていますよね」

そんな郷土菓子をプロの味に進化させたのは初代。鬼皮ごと茹でた丹波栗を割り、中身をていねいにこそげる際、渋皮も加えることで味の奥行きを出している。グラニュー糖などを混ぜて練る栗餡作りは、山名さんが早朝2時から1人で行っている。

しっとり、みずみずしい栗餡は、秋の訪れを告げる風物詩的存在だ。

「私がこの仕事を始めた30年ほど前はお盆明けには栗が収穫できたのですが、今は9月半ばからと、作り始める時期が1ヵ月ほど遅くなりました。だからこそ販売開始を今か今かとお待ちいただいているお客様が多くいらっしゃるのは本当に有難いです」

『京都くりや』栗おはぎ
あっさりした甘さなので、2個3個と食べられる。1個302円。定期販売は12月中頃まで。それ以降は、週末限定などになる可能性あり。毎週木曜日は販売無し。午前中で売り切れることも多いので、予約(前日まで)が賢明。
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『京都くりや』作業
蒸して丸めた丹波産のもち米に栗餡を乗せて広げ、全体に広げていく。
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