京都・西陣『KUSHI BAR串幸』で気取らずに“串揚げ×ワイン”

京都の西陣エリアに旗揚げして半世紀以上。“串揚げ×ワイン”を提案し続けている小さな専門店は、遠方から足繁く通う常連も多数。気取らない店構えと夫婦の柔らかなもてなしも、欠かせない吸引力になっている。

“串揚げ×ワイン”を昭和から提案

後鳥羽上皇が退位した後の住まい「五辻殿(いつつじどの)」跡からほど近い、京都・西陣エリアの一角。「KUSHI BAR WITH WINE」と書かれた昭和レトロな看板が興味をそそる。

『串幸』外観
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コの字形のカウンターに黒い椅子を合わせた店内も、どこか昔懐かしい昭和ムードだ。それもそのはず「創業は1972年。気付けば半世紀以上が経ちますが、店の構えはほぼそのままですね」と、目を細める店主の伊藤幸男さん。伊藤さんがお父様と共に店を開いたのはまだ若かりし20歳のときだ。

『串幸』店内
店主の伊藤幸男さんと奥様の幸世さん。お二人とも京都生まれ京都育ち。
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看板に銘打つ通り、こちらは串揚げとワインの店。開業した1970年代は、ちょうど甘口のドイツワインブームの真っ盛りだった。「ドイツの白ワイン『シュタインベルガー』を飲んで、こんな旨い飲み物があったとはと目覚めてしまって。流行にのったというより、自分好みのワインを自分の串揚げに合わせたくなっただけですね」と伊藤さん。

串揚げの油に合うワインを追求してせっせと買い集めるうちに日に日にストックは増え、地下のセラーには400本ものワインが眠るまでに。当初はドイツワイン中心だったけれど今のメインはフランスワイン。ラインアップはその時代のニーズに合わせて柔軟に変えているそうだ。

「もちろんご相談にものりますが、何をどう合わせるかはお客様の自由です。その方が楽しいでしょう」と伊藤さん。ワイン初心者にも優しい気負いのないスタンスが心地よい。

『串幸』のワインサーバー
ワインサーバーを置き始めたのは1989年から。「最初はドイツワイン2種類だけで、今はフランスワイン4種類。サーバーは3代目になりますね。よう働いてくれています」と相棒を愛でる伊藤さん。
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エビは天然、牛肉は鹿児島産

串揚げは席に座ったら自然と始まるおまかせスタイル。王道のエビは「冷凍ではありますが飛び切りの天然物を取り寄せています。身がプリっとして甘みが違いますよ。僕の孫も大好き」と自慢する逸品だ。

牛肉のヘレは懇意にしている京都の老舗精肉店に脂のりがよくて旨みが強い鹿児島産黒毛和牛を指定。あえて繊維を生かした方向に切ることで程よい噛み応えを出している。「肉や魚介は素材の良さを生かしたいから、味付けは塩だけ。もちろんソースを付けてもいいですが、そのままでも充分おいしいですよ」。

『串幸』のエビ
エビは序盤に登場。サクサクの中挽きパン粉と隠し味に牛乳を加えたバッター液もおいしさの秘密。エビは全卵で作る自家製のマヨネーズ風ソースを付けるのもおすすめ。
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『串幸』の牛ヘレ
旨み豊かな牛ヘレはドミグラスソースやケチャップをブレンドした特製ソースを付けても美味。
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和風だしの下味にほっこり

肉や魚介の下味は塩だけに留める一方、野菜や湯葉などはカツオや昆布の和だしを煮含めているのも、ここならではだ。「父の和食歴が長かったことから、自然とこの味付けになりました」と伊藤さん。

カボチャはほっくりとしっとりの中間ぐらいの絶妙な煮込み具合。渦巻き状に巻いた生湯葉はむきゅっと、粟麩はもっちもち。どちらも独特の食感が楽しい。素材の味を引き立てるほんのり甘いだしが、すっきりとしたアルザスの白ワインにも難なく寄り添ってくれるのは、ワイン好きの伊藤さんならではの磨かれたバランス感覚が成せる業だろう。

『串幸』の栗
野菜系はカボチャやレンコンなどの定番のほか、秋ならイガグリを模した栗が登場。春はフキノトウや空豆、夏は水ナスや鷹峯唐辛子などがある。
『串幸』の生湯葉
串揚げに生湯葉というのが、いかにも京都らしくていい。
『串幸』の粟麩
見た目は地味だけど、妙にクセになる粟麩。
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串揚げのレパートリーは常時25種前後で、中には砂ズリなどの変化球も。おまかせはお腹の具合に合わせて好きなタイミングでストップできるけれど、「次は何が来るかな」。そんな期待が止まなくて、なかなか止めるに止められない。