京都の割烹『德まる』で、芋焼酎と会席風アラカルトを

『德まる』は、京都市役所のほど近く、押小路通沿いに佇む割烹です。「冷菜・肴」「椀物・温物」と並ぶ品書きの通りにアラカルトを選べば、プリフィックスな会席のできあがり。先付+5品を、芋焼酎片手に楽しんで、14000円弱。割烹と会席のいいとこどりを大満喫の巻。

会席の流れでアラカルトを楽しむ

せっかく割烹で夜を過ごすなら、コースがあっても、やっぱりアラカルトで楽しみたい。カウンターで店主にお薦めを聞きつつ、自分なりの献立を組み立てて、好きな酒と味わうのが醍醐味ではなかろうかと思うのだ。

京都市役所前のほど近くにある『德まる』は、初めてのお客向けにコースも用意しているが、約40種の単品の品揃えが大いにそそる。「冷菜・肴」「椀物・温物」「造り」「焼物」「油物」「食事」「甘味」の項があり、その順に食べれば会席のような流れになる。「プリフィックスの会席のイメージで楽しんでいただけたら」と、店主の德丸喬大(たかひろ)さんが気さくに笑う。

京都「德まる」店主・德丸喬大さん
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鹿児島出身の40歳。京都にやって来た時は、なんとパティシエ志望だったという。その流れで、デザートワゴンで人気を博した下河原の『京料理 修伯』に入店。お茶やお花を学ぶ中で日本料理の奥深さに触れ、『祇園ゆやま』で王道の会席料理を3年ほど学んだという。

転機が訪れたのは、烏丸御池の『京料理 藤本』に移って3年が過ぎた頃。大将の藤本貴士さんが2軒目として開いた割烹『押小路 悠喜』で、アラカルトに開眼。「仕込み中心の会席の仕事とまったく違って、ワクワクしました!」。そのまま料理長となって7年後、店を引き継ぐ形で新装開店したのが『德まる』だ。

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レアな芋焼酎×京風のお椀の妙

私が『德まる』を訪れたのは、まだまだ寒さ厳しき冬の夜。日本酒党としては熱燗で一杯やりたいところだが、今夜は芋焼酎で、と決めてカウンターに陣取った。

なぜって、德丸さんのご実家は阿久根(あくね)市の『鹿児島酒造』の真裏だそうで。「父に芋焼酎を送ってもらっているんですよ」と聞いてやってきたのだ。関西ではなかなかお目にかかれぬ地の酒を、ぜひとも堪能したいではないか。というワケで、1杯目から水割りで。德丸さんのお薦めは、濾過作業を抑え、ほんのりと白濁した「にごり芋」。

芋焼酎「にごり芋」
『鹿児島酒造』は初代杜氏の黒瀬安光氏の技術を伝承する焼酎蔵。「にごり芋」は旨みが深く、香り甘やかで、どこか懐かしい味わい。1杯770円。
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まずは、お通し代わりの先付が供される。この日は、ツブ貝の酢味噌がけ。 芋焼酎も水割りだし、ちょっと温かいものを…と、「冷菜」を飛ばして「椀物」へ。必ず3種用意するというお椀は、悩ましい顔ぶれだ。

だしの味を真っすぐに堪能しようと選んだのは「ぐじと酒粕ゆば真薯の椀」。卵入りの真薯はふわっふわで、酒粕の芳醇な香りを甘やかな芋の香りが包み込む。ほぉ~、芋焼酎でお椀もいいじゃないか!と頬を緩めて、グビッと二口。顔を上げると、德丸さんが満面の笑みを浮かべていた。

京都「德まる」のお椀
「ぐじと酒粕ゆば真薯の椀」2200円。一塩したグジが力強い旨み。すり身に卵と酒粕、湯葉を加えた真薯はほろっと柔らかな食感。こちらは2月のお椀なので、3月はアオサ海苔の真薯になる。
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ひと心地付いたところで「冷菜」に戻って、「能登牛の海苔巻き すき焼き風」を。モモ肉とネギを海苔で巻き、ほんのり脂が溶ける程度にバーナーで炙って、甘めの醤油ダレをとろり。卵黄ソースを絡めて味わえば、舌の上で牛肉がとろける。

すき焼き風なのに冷製というのが面白く、磯の香りも相まってクリエイティブだ。あれば必ず食べたい一品だな、と思いつつ芋焼酎を一口。これまた、よき相性だった。

京都「德まる」の能登牛の海苔巻き すき焼き風
「能登牛の海苔巻き すき焼き風」1760円。「赤身すぎず、ほどよくサシの入った部位を選んでいます」とモモ肉で。3月は鹿児島牛に。
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締めは鰻の天むす、お得意の甘味もぜひ

德丸さん流の単品は、何人で訪れたとしても、必ず1人一皿ずつ供される。「焼物」から選んだマナガツオ味噌漬けは、手のひらサイズの皿に1人前の切り身。シェアではないスタイルが、なるほど会席流で気が利いている。

続く「油物」の項で、異彩を放っていたのは「くまメンチカツ」。興をさかされ注文すると、3口サイズのが、ころんと一つ。ジビエとは思えぬ品のいい熊肉は、肉自体の風味が豊かだ。玉ネギに、なんと山菜のウルイも加え、ナツメグに実山椒。こちらにも甘い醤油ダレがかかっている。これが、ほんのり甘やかな芋焼酎と手を繋ぐ、という寸法だ。

「德まる」のくまメンチカツ
「くまメンチカツ」1650円。熊肉は、ネック(首)のミンチ。ほどよい弾力で、ジューシー。3月のお薦めの油物は、毛ガニのクリームコロッケ。
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締めは、定番人気の「うなぎの天むす」。海苔巻きスタイルで、こちらも粉山椒と甘ダレの組合せ。最後まで芋焼酎で通して大正解だった。

「德まる」のうなぎの天むす
締めの定番「うなぎの天むす」1650円。
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この夜は、先付+5品に、芋焼酎3杯で締めて14000円弱。德丸さんに聞けば、この日、飛ばしちゃったお造りと甘味を頼んでも16000円くらいだそう。

コースは11000円から数種が揃い、「ハーフコースも始めようと思ってます」。アラカルトも開店時から品数が倍増し、充実の一途だ。その調理をワンオペでこなしながら、バタつくことはなく、德丸さんは実にカウンター上手だった。お客を和ませる姿は自然体で、心ばえのよさが伝わってくる。

私は左党なので、甘味の代わりに芋焼酎を1杯多めにいっちゃったけれど、なんせ德丸さんは元パティシエ志望。「黒糖わらびもち」や旬の果実のアイスが並ぶ、品書きの最後の項もお見逃しなく!

writer

中本 由美子

nakamoto yumiko

青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。