お値打ちコースを隠れ家的新店・京都『鮨 いい村』で。天然物のネタと旨しシャリで魅せる
旨しネタとシャリでもてなす店主は朴訥な人柄
多くの車が行き交う河原町通に面しているものの、通り過ぎてしまいそうなさりげない構え。「特に夜は人通りが少なくて」と苦笑する店主の飯村貴則さんは茨城県出身。「海からも遠く、飲食店なんて1軒もない過疎地に育ったので、寿司職人になれば思い切り食べられると思い」、料理人を志した。
18歳で築地に本店を構える大手寿司店に就職。その後、銀座や六本木などの個人店で腕を磨く。数年前、とある店の京都店を任され、移り住んだ京都の居心地が良く、「ここに店を構えようと思いました」。
飯村さんは人見知りを自認するが、「料理と酒でもてなしたい」と思う気持ちは人一倍。同郷の知人が勤める京都中央市場の鮮魚卸店を始め、大阪の中央市場などから天然物のみを仕入れている。ドリンク類も「日本酒は常時30銘柄以上。焼酎、ワイン、ウイスキー、リキュール類など、幅広いリクエストに応えられるよう」準備を整えている。
ツマミで始まるコース
キンキンに冷えたビールで乾杯した後、超辛口の純米酒、宮城県『平孝酒造』の「日高見」を常温でリクエスト。魚介類との相性が良いと言われる透明感のある味わいを天目盃で楽しませてもらおう。
コースは、北海道から届いたシラウオの造りで幕を開けた。透明感が食欲をそそる、頭と尾を取っても5~6cmある特大サイズはのど越し抜群。ショウガ醤油が身の甘みを引き立てる。
握りは淡路揚がりの鯛からスタート。シャリには、宮城・石巻市の農家である太田俊治さんが開発した新品種米、無農薬&無肥料で栽培された「瑞穂の夢」を使用。陶器の羽釜で炊き、赤酢と米酢を自家ブレンドした合わせ酢で味付けされ、一粒一粒が立っていて、適度な歯ごたえ。鮮度の良さがわかる鯛のコリッとした食感と相まって頬を緩ませる。
2カン目は九州揚がり、肉厚でねっとり甘いアオリイカ。3カン目は北海道産・生のツブ貝。コリコリとした食感と磯の香りを味わっていると、4カン目に脂の乗ったアジの握りが登場。「続いて、こちらも北海道から。北寄貝です。軽く炙りました」。噛みしめるほどに旨みが迸る。
マグロ3兄弟で最高潮に
中盤のハイライトはマグロ3兄弟。赤身のヅケ、中トロ、大トロがテンポよく繰り出される。飯村さんは、マグロにはワサビではなく、伝統的な製法で作られる地ガラシを使う。中トロのほのかな酸味と地ガラシ特有の微かな苦みがまさにベストマッチ。
「大トロは、天日干しした大根をじっくり漬け込んだ、カリカリ食感のたくあんを混ぜてトロタクにすることもできますよ」
魅力的な誘いに心が揺れ動く。
ベテランらしい仕事が光るネタが続々と
中締め的存在のツマミ2品目はシンプルな茶碗蒸し。マグロ3兄弟でピークに達したテンションを落ち着かせてくれる。
後半の幕開けはコハダ。十数センチに育った身を開いて塩で締めること30分。その後、酢でも20分締め、ザルに身を立てかけて酢を程よく抜きつつ、しばらく数日寝かせて仕上げている。飾り包丁が入れられた、黒い斑点が規則的に並ぶ銀白色の身は食べるのが惜しくなるほどの美しさだ。
10カン目の生ウニ、11カン目のイクラと、魚卵が続いた後の12カン目は車エビ。曙色に茹でられた身はムチムチ。濃厚な甘みが楽しめる。
13カン目は、北海道揚がりのキンキをヅケに。脂の乗った白身が口内でとろける。14カン目は皮目を香ばしく焼いたタチウオ。「2通りの食べ方をされてみますか」の言葉に甘え、まずはふわふわの身をそのまま味わう。半分になったタチウオにシャリを添えてもらい、握りというか、ひと口丼のようなスタイルに。シャリの酸味が加わることで、太刀魚の風味に奥行きが生まれた。
最後は巻物。甘辛味に仕上げた鰻を巻いた小巻だが、甘煮のシイタケや玉子焼き入りの太巻に変更してもらうことも可能だ。
〆はアオサ入りの吸物と季節の果物。それにしても、にぎり15カンにツマミ2品、吸物と水物も付いて13200円とはいつも驚かされる。ちなみに『日高見』は一合1430円なので、この日のお会計はビール中瓶1本に日本酒1合を二人でシェアしてひとり約14400円。物価高の折ではあるが、このお値打ち感を維持し続けて欲しいと願って止まない。次は寿司好きのあの人を誘おうか。いや、家族が先か。同行したい人の顔を次々と思い浮かべながら、人通りの少ない河原町通をぶらぶら歩いた。
data
- 店名
- 鮨 いい村
- 住所
- 京都府京都市上京区梶井町448-33
- 電話番号
- 075-755-3177
- 営業時間
- 12:00~13:00入店(前日までに要予約)、17:30~20:00入店(予約優先)
- 定休日
- 水曜
- 交通
- 京阪出町柳駅から徒歩5分
- 席数
- カウンター8席
- メニュー
- 昼/コース5500円~、夜/コース13200円~。
- 外国語メニュー
- 英語、中国語、韓国語
- https://www.instagram.com/sushiiimura

writer

小林 明子
kobayashiakiko
京都在住フリーライター。缶入りクッキー、ワッフル、薯蕷饅頭、そば餅…、これらの名店に徒歩で行ける京都市の烏丸御池近くに生まれる。自動的に甘いもの好きが出来上がりました。
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