大阪名産×日本酒ペアリングが愉しい『おおさかもん料理 鮨 守屋』
1杯30㎖400円の日本酒ペアリング
寿司屋の屋号に冠したるは“おおさかもん料理”。確かに大阪湾は、淀川や大和川が流れ込む豊かな海。「魚庭」と書いて「なにわ」と呼ばせるほど魚種も多いけれど…。どうやら寿司ダネのハナシばかりではなさそうで。はて、どんな料理が出るのやらと興味津々で訪ねたのは、御堂筋線の終点・なかもず駅から徒歩7分の『おおさかもん料理 鮨 守屋』。
平日ならば、12000円のライトコースがある。私のような左党の場合、around10000円では済まないか…と思いきや、なんと日本酒のペアリングがおすすめとな。しかも1杯30㎖で400円。5杯呑んで1合弱でお会計は14000円。ギリギリのラインだが、近頃の寿司のハイプライス化を想えば、願ってもないお値段だ。
一品目は、季節のお椀。主役は、かの太閤はん(豊臣秀吉)が飼育を奨励し、大阪名産となった河内鴨だ。春ならば泉州は木積(こつみ)の筍、初夏の今頃なら地のナスを翡翠(ひすい)仕立てにして取り合わせる。なるほど、いきなり“おおさかもん”尽くしだ。
しかも、河内鴨の火入れが攻めている。松原の『ツムラ本店』から仕入れたロースを湯引きし、濃いめの吸い地で軽く下味を入れている。噛めば中は完全な生で、ピュアな素材感が躍動する。
この一椀に合わせて、唎酒師でもある店主の守屋栄一さんが薦めてくれた日本酒は、和歌山「紀土KID」。爽やかな吟醸香が、お椀の底に忍ばせた、うすい豆豆腐の青々しい風味とリンクする。
呑ませる八寸と“渦巻き処理”の寿司ネタ
八寸として供された青い皿には、酒肴が3つ。今月なら、水ナスの天ぷらにヒイカの沖漬け、コチ昆布〆の梅肉和えだそう。なんとも呑ませる取合せだ。
この一皿に1杯30㎖では、ちと足りない。そんな左党も多かろうと、「八寸用に2~3種類をセレクトしてます」と守屋さんがニカッと笑う。京都「玉川」や滋賀「松の司」など、旨みの充実した地酒をくいくいっとやって、お次の寿司を迎え撃つ。
「12日熟成です」という地物の鯛が、野太い旨みだ。聞けば“渦巻き処理”という活締めを施しているそう。脳の組織と中枢神経を専用吸引機で吸い取り、必要最小限の血抜きをする画期的な技術で、守屋さん曰く「魚が死んでいることに気が付かないので、死後硬直しないんです。わずかに血を残すことが大事で、これが旨みに繋がるんですよ」。
魚の獲り方やその後の扱いも重要だそうで、大阪で渦巻き処理ができる魚屋は、田尻漁港に1軒しかないという。「独立前から通っているので、いい魚を選ってくれるんですよ」。守屋さんが“おおさかもん”を謳う寿司屋を開いた背景には、この泉州の漁港との繋がりがある。
渦巻き処理をした魚は日持ちがするため、熟成に向く。「イカってる魚ではなく、熟成させて旨みが増したものでないと。シャリとのバランスが崩れるんです」。寿司酢は、3種の「富士酢」のブレンド。京都・宮津の『飯尾醸造』を訪ねて入手を許された、プレミアムな赤酢も使われている。 この日の白眉は、〆て6日目の鯖。奥行きのある味わいが、キレのある旨みの強いシャリに映えていた。
おおさかもん+αのお得感
守屋さんが寿司職人となるべく修業を始めたのは26歳。大卒で脱サラという遅いスタートだ。体操を続けるため体育大学に入り、営業マンとして数年働いたが、「なんかちゃうな…」と密かに夢見ていた寿司の世界へ。今はなき本町の『なる山』を皮切りに、寝屋川『寿司ほまれ』など府内の寿司屋で修業を積み、鮮魚店で目利きも学んだ。
「できるだけ地物を使いたい」と休日は泉南の漁港に通い、河内鴨やなにわ黒牛、地野菜の農家とも関係値を築くこと2年。2020年の年末に“おおさかもん料理”を謳う寿司屋を地元なかもずで開いた。
大阪湾のネタは地元流通のものも多い。鮮度もさることながら、全国ブランドではないからこそ値ごろ感がある。そこに、手頃なネタを昇華させる守屋さんの創意が加わり、良心的なコースは成り立っている。
例えば、バナメイエビは自家製のカラスミをたっぷりかけて供す。優しいエビの持ち味を補う工夫だが、赤酢の利いたシャリと相まって多層的。山形「黒ばくれん」の超辛口吟醸と合わせると、ムフッと頬が緩む相性だった。締めの細巻きが、椎茸旨煮と大葉というのもニクイ。アテ感強めで、さらにもう1杯。もはやaround10000円の制限はどこへやら。はて、何杯目だっけ?と思いつつ、すっかり上機嫌に。
実は守屋さん、なんとデザート用の日本酒までスタンバイしている。日本酒党ならば、ちょいと財布の紐を緩めて、コース7品に9杯合わせて計1.5合。ペアリングの全種制覇、相当に楽しいですぞ。
data
- 店名
- おおさかもん料理 鮨 守屋
- 住所
- 大阪府堺市北区百舌鳥梅町3-21-9 ハイツプラムナイン1階
- 電話番号
- 072-252-8989
- 営業時間
- 12:00~14:00、18:00〜22:00 ※完全予約制
- 定休日
- 不定休
- 交通
- 地下鉄御堂筋線なかもず駅・南海電鉄中百舌鳥駅から徒歩7分
- 席数
- カウンター9席、テーブル10席
- メニュー
- 昼/寿司屋の海鮮丼3000円、なにわ黒牛ローストビーフ丼5000円、上にぎり寿司ランチ5000円、特上にぎり寿司ランチ8000円。夜/八寸付きおまかせにぎりコース15000円、おまかせにぎり15貫コース16000円、八寸付きおまかせにぎり15貫コース18500円。ビール小瓶800円。※ライトコース12000円は昼も注文可。
- https://www.instagram.com/sushi_moriya/

writer

中本 由美子
nakamoto yumiko
青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。
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