220年の伝統を守りながら進化を続ける 京都『京菓子司 亀屋良長』の挑戦

創業220年以上を誇る京都・四条醒ヶ井の老舗『亀屋良長』。店先に湧く醒ヶ井水とともに菓子づくりを続けながら、時代ごとの価値観や暮らしに寄り添う和菓子を生み出してきた。受け継がれる伝統と、変化を恐れない挑戦。その歩みをたどる。

約220年続く挑戦の系譜

江戸時代にはすでに現在の和菓子の原型がほぼ完成していたといわれる。その一方で、京都・四条醒ヶ井に店を構える『亀屋良長』には「和菓子は変わり続けてきたもの」という考えが息づいている。
創業は1803年。店には当時の配合帳が今も残り、そこにはビスケットやチョコレートといった西洋菓子の記録も見られるという。海外からもたらされた技法や食材を柔軟に取り入れながら、時代ごとの挑戦を重ねてきた歴史は、現代の商品づくりにもつながっている。

伝統を守ることと新しい価値を生み出すこと。その両方を自然な流れとして受け入れる八代目当主・吉村良和さんの姿勢こそが、220年以上続く老舗の根幹にある。

亀屋良長外観
京町家の趣を残した店構え。暖簾をくぐれば、220年以上受け継がれる和菓子の世界が広がる。
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亀屋良長内観
伝統と現代性が調和する店内。季節の生菓子から定番銘菓まで、多彩な和菓子が並ぶ。
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醒ヶ井の名水が支える味

創業の地である四条醒ヶ井を語るうえで欠かせないのが、水の存在だ。初代・文平がこの場所を選んだ理由も、良質な水を求めたからだという。
店先には今も醒ヶ井水が湧き、220年以上にわたり菓子づくりを支え続けている。

和菓子というと小豆や砂糖に目が向きがちだが、吉村さんは「小豆と同じくらい大切な材料が水」と話す。餡を炊く際には何度も水を替え、餅や米を炊く工程にも欠かせない。さらに蒸し菓子においては蒸気そのものが味わいを左右するため、水質の違いが仕上がりに大きく影響するのだという。
目立つ存在ではないが、水は和菓子の土台そのもの。醒ヶ井の名水を使い続けることは、単なる伝統ではなく、おいしさを支える根幹でもある。

季節感を映し出す意匠や職人の手仕事とともに、創業以来変わらず受け継がれてきたこの水こそが、菓子づくりの原点なのである。

亀屋良長醒ヶ井水
創業以来、菓子づくりを支えてきた醒ヶ井水。まろやかな名水が『亀屋良長』ならではの味わいを育んでいる。
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看板菓子に息づく創業の精神

創業以来受け継がれてきた「烏羽玉(うばたま)」は、こちらの歴史そのものを映し出すような存在だ。

当時は白砂糖がまだ高価だったため、比較的手に入りやすい黒糖を用いた菓子として考案されたという。なめらかなこし餡を寒天で包み、けしの実を添えた漆黒の姿は、アヤメ科の植物・ヒオウギの黒い実に由来するもの。
小ぶりな一粒ながら、その佇まいには京菓子ならではの美意識が息づいている。

亀屋良長烏羽玉
黒糖あんを寒天で包んだ代表銘菓「烏羽玉」。創業当時から愛され続ける、亀屋良長の看板菓子だ。
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また、その味わいを支えているのが波照間島産黒糖への強いこだわりだ。

産地によって風味が大きく異なる黒糖の中から、和菓子に最も合うものとして選び続けてきた。
かつて不作で入手が困難になった際には、製造中止も覚悟しながら各地を探し回ったという逸話も残る。時代とともに新たな商品を生み出してきた一方で、守るべき味には決して妥協しない。

その姿勢は創業から220年以上経った今も変わることなく「烏羽玉」という一粒の中に受け継がれている。

亀屋良長烏羽玉
「烏羽玉」(6個入)540円。
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和菓子の可能性を広げて

「暮らしの中に和菓子を届けるために」。
そうした柔軟な発想から生まれた商品の一つが「スライスようかん」だ。

朝食の準備中、食パンにスライスチーズをのせる光景を見て「あんこも同じように使えたら」という女将のひらめきから誕生。トーストにのせて焼くだけで小倉バタートーストのような味わいが楽しめる手軽さは、和菓子を日常の食卓へと引き寄せた。

さらに近年はパッションフルーツ味も登場し、伝統的な餡づくりの技術を生かしながら、新たな味わいにも挑戦している。

スライスようかん
パンにのせて焼くだけで楽しめる新感覚の和菓子。和と洋の発想を融合させた人気商品として話題を集めている。
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亀屋良長パッションフルーツ
「スライスようかん〈パッションフルーツ〉」594円。夏季限定の爽やかな味わい。
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一方で、小豆そのものと向き合う姿勢から生まれたのが「あづき餅」だ。
餡炊きの際に生じる丹波大納言の煮汁に着目し、求肥に活用することで、小豆の恵みを余すことなく生かした。

人気商品でありながら、その根底にあるのは派手な話題性ではなく、素材への敬意と探究心なのである。

亀屋良長あづき餅
「あづき餅」270円。
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伝統と挑戦、そのあいだで

「こだわりを捨てなさい」。
病気をきっかけに始めたヨガで先生から掛けられたこの言葉が、吉村さんの考え方を大きく変えたという。

百貨店のバイヤーから、それまで京菓子ではあまり用いられなかった果物を使った商品開発を依頼された際も、当初は「京菓子らしくない」という思いがあった。しかし、それこそが自分の固定観念だと気付き、一歩踏み出してみることに。結果として新しい菓子が生まれ、多くの人に喜ばれたという。

その経験は、人気商品の「スライスようかん」や、季節の素材を取り入れた新たな菓子づくりにもつながっている。伝統を守ることと挑戦することは相反するものではなく、むしろ両立できる。その考え方が現在の商品にも色濃く表れている。

亀屋良長菓子型
インテリアとして配された菓子型が、和菓子文化の奥深さをさりげなく伝えている。
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受け継ぐために変わり続ける

220年以上の歴史を持ちながら、大切にしているのは「昔のままでいること」ではない。創業以来守り続けてきた技術や精神を礎にしながら、新しい素材や発想にも柔軟に向き合ってきた。

醒ヶ井の名水、受け継がれる職人技、そして時代の変化を受け入れるしなやかな姿勢。そのすべてが重なり合い、今日の菓子づくりへとつながっている。

伝統と革新。その両方を自然に抱きしめながら歩み続ける姿こそが、長く愛される理由なのだろう。

亀屋良長陳列
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