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変わらぬ味のために変わり続ける。 京都『御菓子司 塩芳軒』が伝える京菓子の美

創業は1882(明治15)年。140年以上にわたり京菓子を作り続けてきた『御菓子司 塩芳軒』には、代々受け継がれてきた味と価値観がある。大切にしているのは、昔のままを守ることではなく「変わらないおいしさ」を届けること。その考え方は菓子づくりだけでなく、店の佇まいや文化の伝え方にも表れている。

暖簾を守り続ける西陣の菓子司

明治15年創業と聞くと老舗の立派な店構えを思い浮かべるが、その始まりはもっと素朴なものだった。
1882創業。現在のような店舗を構える以前は、自宅の表で菓子を販売し、裏で菓子を作るという小さな商いから始まった。地域の人々に親しまれながら、少しずつ暖簾を育んできた歴史を持つ。

1914年には現在の店舗が完成し、暖簾を掲げる京菓子店として歩みを進めるようになった。

代表銘菓「聚楽(じゅらく)」は古い大福帳にもその名が残るほど長く親しまれており、時代ごとに愛される味を重ねながら今日まで受け継がれている。

塩芳軒外観
大正初期に完成した店舗は景観重要建造物に指定されている。
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塩芳軒長暖簾
代々受け継がれてきた長暖簾は、店の歴史と伝統を今に伝えるシンボルだ。
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塩芳軒内観
落ち着いた空間に、老舗ならではの美意識が感じられる店内。
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変わらない味を守るため

「いつまでもおいしく、変わらない味やなと言ってもらえることが目標です」。
そう語る五代目・髙家啓太さんにとって、大切なのは昔と同じことを繰り返すことではない。オーブンが変われば焼き上がりも変わる。原材料の包装形態が変わるだけでも扱い方を見直す必要があるという。

外的な変化に合わせて調整を重ねながら、自分たちが目指す味へ近づけていく。その積み重ねが、長く愛される菓子を支えている。

塩芳軒髙家さん
「変わらない味」を目指しながら、時代の変化と向き合い続ける髙家さん。
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また同店が大切にしているのは、説明しすぎないことだ。

菓子の色合いや意匠、菓名に至るまで、すべてを言葉で伝えるのではなく、受け取る人の想像に委ねる。その背景には、「余白」や「ゆとり」を尊ぶ京都ならではの感覚がある。

華やかな装飾ではなく、控えめな表現の中に趣を見出す。そうした考え方は、店づくりにも菓子づくりにも共通している。

塩芳軒干菓子
いくつもの干菓子が重なり合い、一つの季節の情景を描き出す。
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「聚楽」が長く愛される理由

代表銘菓「聚楽」は初代から続く看板商品だ。
「最後の仕上がりばっかりが注目されるけど、それに至るまでを大事にしています」という髙家さんの言葉どおり、中に包む餡はこの菓子のためだけに炊き上げる専用仕立て。 水分量や硬さはもちろん、菓子ごとに細かく調整されており、わずかな違いでも仕上がりは大きく変わるという。

初代から受け継がれてきた製法を守りながら、目に見えない下準備の積み重ねが、長年愛される味を支えている。

塩芳軒聚楽
「聚楽」(1個)220円。
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一方、生地づくりもまた職人の経験が問われる重要な工程だ。
基本となる配合は先代から受け継いだものを守りつつも、粉と生地を合わせる最終段階では、その日の気温や湿度、餡の状態に応じて微細な調整を加える。

さらに生地と餡には計4種類もの砂糖を使い分け、それぞれの個性を重ね合わせることで、しっかりとした存在感がありながらも口当たりは驚くほどなめらか。

塩芳軒聚楽
「天正」の印を押した素朴な意匠。
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消えゆく甘みに宿る美しさ

「全部溶けて消えてなくなる、その儚さがお菓子のいいところだと思います」。
そんな思いを形にしたのが「雪まろげ」。ふわりと広がる風味と消えゆくような口溶けを追求した人気の干菓子だ。

原料に砂糖きびのみを用いた純和三盆を使用し、その上品な甘みと豊かな風味をまっすぐに引き出している。製造では水分量の見極めが重要で、そのわずかな違いが口溶けを左右するという。

塩芳軒雪まろげ
「雪まろげ」(1箱)900円。コロンとした丸いフォルムが可愛らしい。
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受け継ぐだけではなく、伝えていく

髙家さんは、和菓子そのものだけでなく、その背景にある日本文化や精神性も伝えていきたいと考えている。

和食や日本酒とのペアリングイベント、海外での講演活動などを通じて発信を続けるのもそのためだ。和菓子を入口に、文化そのものへの関心を広げてほしいという思いがある。

「和菓子界全体がもっと盛り上がってほしい」。

長い歴史の中で受け継がれてきた技術や価値観を次の世代へつないでいく。その姿勢こそが、この店の歩みを支えている。

塩芳軒陳列
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