京都『鍵善良房』が時代を超えて受け継ぐ、 祇園の美意識と菓子づくり

享保年間(1716〜1736年)創業。約300年にわたり祇園で暖簾を守り続ける老舗和菓子店は、菓子づくりだけでなく、この町に息づく文化や美意識も大切に受け継いできた。受け継ぐべきものを磨きながら、時代に合わせた新たな発信も続けている。

祇園の歴史とともに続く約三百年

創業は享保年間。資料には元禄期までさかのぼるものも残るが、菓子屋として確実に営んでいたことが確認できるのは享保年間頃だという。現在は十五代目の今西善也さんが暖簾を守り、代々受け継がれてきた菓子づくりを継承している。

花街・祇園に店を構えてきたことも、この店の個性を形づくってきた要素の一つ。芸舞妓や文化人、芝居を楽しむ人々が行き交う町で育まれた菓子は、上品さの中にも華やぎを感じさせる意匠が特徴だ。SNSのない時代には口コミで評判が広がり、多くの人々に親しまれてきた。

鍵善外観
八坂神社門前で、祇園の歴史とともに歩む老舗。
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鍵善内観
菓子だけでなく、空間のしつらえにも老舗の美意識が宿る。
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鍵善今西さま
十五代目・今西善也さん。受け継がれてきた菓子づくりを次代へつなぐ。
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素材を見極め変わらぬ味を支える

和菓子は材料が少ないからこそ、ごまかしが利かない。

その考えのもと、和三盆や本葛、小豆など、それぞれ品質を見極めながら仕入れを続ける。さらに気温や湿度、原料の状態は季節や年ごとに異なるため、水分量や力加減は毎回細かく調整。同じ配合を守るのではなく「同じ味に仕上げるために変え続ける」のが職人の仕事だという。

代表銘菓「菊寿糖」も型へ詰める力が強すぎれば口どけが損なわれ、弱すぎれば繊細な文様が表れない。その絶妙な加減は長年培われた経験によって支えられているのだ。

鍵善菊寿糖
菊の花をかたどった代表銘菓「菊寿糖」。店に残る菓子型が、その歴史を物語る。
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鍵善鍵もち
手土産としても親しまれる定番菓子「鍵もち」。
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鍵善お干菓子
四季折々の意匠を映した干菓子。祇園らしい美意識が細部に息づく。
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菓子とともに伝える祇園の文化

店内には木漆工芸家・黒田辰秋による大飾棚が据えられ、2021年に同店がオープンした美術館「ZENBI」ではゆかりの作品も公開している。

きっかけは、代々受け継いできた美術品や祇園の文化を、この先も残していきたいという思いから。古いものを保存するだけではなく、現代の作家とも交流を重ね、包装紙や意匠にも新しい感性を取り入れている。

和菓子だけでは伝えきれない、この町に育まれてきた芸術や文化まで含めて楽しんでもらうこと。それもまた、長年この地で暖簾を守り続けてきた役割だと考えている。

鍵善大飾棚
木漆工芸家・黒田辰秋による大飾棚。店内を象徴する存在の一つ。
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鍵善木型
店内に並ぶ歴代の菓子木型。受け継がれてきた職人の技と歴史を今に伝える。
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喫茶で味わう出来たての「くずきり」

喫茶の看板を飾る「くずきり」は昭和初期、お茶屋や南座への出前をきっかけに評判となった一品だ。

奈良・大宇陀の吉野本葛と水だけで仕立てた「くずきり」は、注文を受けてから仕上げるため、店内でしか味わえない。つるりとした喉ごしと程よいコシを引き立てるのは、沖縄・波照間島産の黒糖を用いた黒蜜。原料の状態に合わせて味を整え、変わらぬおいしさを守り続けている。

器にもこだわりがあり、現在も黒田辰秋が手掛けた意匠を受け継ぐ器で提供される。菓子だけでなく、器や空間まで含めた体験が、この店ならではの魅力になっている。

鍵善喫茶
中庭を望む喫茶スペース。ゆったりと流れる時間も、この店ならでは。
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鍵善くずきり
注文ごとに仕上げる名物「くずきり」。店内でのみ味わえる一品。
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「私は長い歴史の一人であればいい」。

今西さんはそう静かに語る。
和菓子を取り巻く環境は変化を続けているが、大切なのは流行を追うことではなく、長く親しまれてきたものを忘れられない存在として伝え続けること。そのために、店へ足を運び、空間の雰囲気や菓子を味わってほしいという。

約300年積み重ねてきた歴史は、次の世代へ受け継がれながら、これからも祇園の風景の一部としてあり続ける。

鍵善今西さま
「私は長い歴史の一人であればいい」。その言葉に、暖簾を守る覚悟がにじむ。
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