京都『鍵善良房』が時代を超えて受け継ぐ、 祇園の美意識と菓子づくり
祇園の歴史とともに続く約三百年
創業は享保年間。資料には元禄期までさかのぼるものも残るが、菓子屋として確実に営んでいたことが確認できるのは享保年間頃だという。現在は十五代目の今西善也さんが暖簾を守り、代々受け継がれてきた菓子づくりを継承している。
花街・祇園に店を構えてきたことも、この店の個性を形づくってきた要素の一つ。芸舞妓や文化人、芝居を楽しむ人々が行き交う町で育まれた菓子は、上品さの中にも華やぎを感じさせる意匠が特徴だ。SNSのない時代には口コミで評判が広がり、多くの人々に親しまれてきた。
素材を見極め変わらぬ味を支える
和菓子は材料が少ないからこそ、ごまかしが利かない。
その考えのもと、和三盆や本葛、小豆など、それぞれ品質を見極めながら仕入れを続ける。さらに気温や湿度、原料の状態は季節や年ごとに異なるため、水分量や力加減は毎回細かく調整。同じ配合を守るのではなく「同じ味に仕上げるために変え続ける」のが職人の仕事だという。
代表銘菓「菊寿糖」も型へ詰める力が強すぎれば口どけが損なわれ、弱すぎれば繊細な文様が表れない。その絶妙な加減は長年培われた経験によって支えられているのだ。
菓子とともに伝える祇園の文化
店内には木漆工芸家・黒田辰秋による大飾棚が据えられ、2021年に同店がオープンした美術館「ZENBI」ではゆかりの作品も公開している。
きっかけは、代々受け継いできた美術品や祇園の文化を、この先も残していきたいという思いから。古いものを保存するだけではなく、現代の作家とも交流を重ね、包装紙や意匠にも新しい感性を取り入れている。
和菓子だけでは伝えきれない、この町に育まれてきた芸術や文化まで含めて楽しんでもらうこと。それもまた、長年この地で暖簾を守り続けてきた役割だと考えている。
喫茶で味わう出来たての「くずきり」
喫茶の看板を飾る「くずきり」は昭和初期、お茶屋や南座への出前をきっかけに評判となった一品だ。
奈良・大宇陀の吉野本葛と水だけで仕立てた「くずきり」は、注文を受けてから仕上げるため、店内でしか味わえない。つるりとした喉ごしと程よいコシを引き立てるのは、沖縄・波照間島産の黒糖を用いた黒蜜。原料の状態に合わせて味を整え、変わらぬおいしさを守り続けている。
器にもこだわりがあり、現在も黒田辰秋が手掛けた意匠を受け継ぐ器で提供される。菓子だけでなく、器や空間まで含めた体験が、この店ならではの魅力になっている。
「私は長い歴史の一人であればいい」。
今西さんはそう静かに語る。
和菓子を取り巻く環境は変化を続けているが、大切なのは流行を追うことではなく、長く親しまれてきたものを忘れられない存在として伝え続けること。そのために、店へ足を運び、空間の雰囲気や菓子を味わってほしいという。
約300年積み重ねてきた歴史は、次の世代へ受け継がれながら、これからも祇園の風景の一部としてあり続ける。
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- 店名
- 鍵善良房 四条本店
- 住所
- 京都府京都市東山区祇園町北側264番地
- 電話番号
- 075-561-1818
- 営業時間
- 販売/9:30~18:00、喫茶/10:00~18:00(17:30LO) ※混み具合により、LOは早まる場合あり
- 定休日
- 月曜(祝休⽇の場合は翌平⽇)
- 交通
- 阪急祇園四条駅から徒歩3分
- メニュー
- 菊寿糖(20個入)1,700円、鍵もち(6個入)1,400円、くずきり1,600円※イートインのみ

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