京都『京菓子處 名月堂』は気負わず通える、宮川町の「おまんやさん」

京都五花街の一つ・宮川町で、格式ある贈答菓子ではなく、普段のおやつとして親しまれる和菓子を作り続けてきた『京菓子處 名月堂』。昭和25年(1950年)創業、昭和54年(1979年)からこの地域に根差した「おまんやさん」として、今も変わらぬ味を届けている。

花街で愛される和菓子店として

創業して75年、宮川町に暖簾を掲げて46年。京都には老舗の京菓子店が数多くあるが、こちらが目指してきたのは、日々の暮らしの中で気軽に立ち寄れる菓子店だった。

近所の人がおやつを買いに訪れ、芸舞妓が足を運ぶこともある。肩肘張らずに和菓子を楽しんでもらいたいという思いから、手に取りやすい価格を守りながら、一つひとつ手作りを続けてきた。その変わらない姿勢が、地域に親しまれる理由になっているのだ。

名月堂外観
昭和25年創業。地元で親しまれている和菓子店。
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発想の転換が生んだ銘菓

「父親が和菓子づくりを始めた頃、餅で餡を包もうと試みたものの、思うように形にならなかったそうです。そこで発想を変え、餡を生地へ練り込んだところ、独自の味わいが生まれたというのが『ニッキ餅』の始まりです」。そう語るのは、二代目店主の折田孝一さん。さらに京都名物・八ツ橋から着想を得てニッキ(肉桂)を加え、現在の看板商品「ニッキ餅」の原型ができあがったのだそう。

その味を受け継いだ折田さんは、先代の製法を土台にしながら改良を重ねた。羽二重粉を蒸して練り上げた求肥に、最後にメレンゲを加えることで、ふんわりと軽く、口の中でほどけるような食感へ。「親父は親父の商品。私は職人として、より良いものに変えていこうと思いました」。

先代は"包む"という発想を転換して「ニッキ餅」を生み出し、二代目はその味を受け継ぎながら口どけを磨いた。守るだけではなく、その時代に合ったおいしさを今でも追い求めている。

名月堂折田さま
二代目・折田孝一さん。先代の味を受け継ぎながら、時代に合わせて磨き続ける。
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前日に仕込んだ生地。蒸し上げる前の大切な工程。
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名月堂機械
先代の頃から使い続ける道具たち。変わらぬ味を支える相棒だ。
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松下幸之助も愛した味

長年語り継がれている話の一つが、経営の神様として知られる松下幸之助との縁だ。 店主によれば、先代の時代には卸先から急な注文が入ることもあり「松下さんとこからの注文、持って行って」と頼まれることがあったという。「ニッキ餅」は彼の好物だったと伝えられており、家族にとってはごく自然な出来事として受け止めていたそうだ。

「我々は当たり前と思っていたから、そんな話とは思ってなかったんですよ」。何気ないひと言からも、長年地域に根付いてきた店の歩みが伝わってくる。

名月堂陳列
松下幸之助も好んだと伝えられる「ニッキ餅」は今も変わらず愛されている。
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定番に加わる季節の味わい

看板商品の「ニッキ餅」に加え、季節の菓子も楽しみの一つだ。
冬限定で並ぶ「京雪路」は、白味噌と丹後・白杉酒造の酒粕を合わせた餅菓子。酒粕の酵母は温度によって水分を多く出すため、開発当初は餅が思うように固まらず、何度も作り直したという。試行錯誤を重ねて完成した味は、毎年販売を心待ちにする常連客も多い。

一方「生キャラメル餅」は、牛乳を長時間かけて煮詰めて餅へ練り込んだ人気商品。「飴のような風味なのに歯につかない」という発想から生まれ、若い世代からも好評を集めている。店主の遊び心と職人らしい探究心が感じられる和菓子に出会えるのもこの店の魅力だと言えるだろう。

名月堂内観
定番から季節限定の和菓子まで並ぶ店内を覗くのも楽しい。
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町の日常を支え続ける一軒

「食べてもらったら『間違いない』と思ってもらえる和菓子を作るだけです」。

「味で選ばれる」。それが創業以来、大切にしてきた姿勢だという。宮川町で暮らす人々や芸舞妓、そして一度味を知った常連客が何度も足を運ぶ。その積み重ねが、この店の歴史を支えてきた。

華やかさを競うのではなく、毎日でも食べたくなる菓子を真面目に作り続ける。その変わらない姿勢が「宮川町のおまんやさん」として地域の人々の日常を支え続けている。

「味で選ばれる和菓子を」。変わらぬ思いで暖簾を守る。
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