想像を超えてくる、夜の『一粒一粒』。メインディッシュは花畑⁉
クマさんから始まる13200円のコース
築78年の古民家の表には小さな看板だけ。いかにも隠れ家風なガラス戸を入ると、目の前に調理場を望むオープンキッチンのカウンターが迎える。炭火を熾したり、魚を串打ちしたりと、料理人たちがせわしなく立ち回る。調理台を見ると、並んでいるのは、森に見立てた野菜にちょこんとクマさんが鎮座するプレート。あれ食べられるの?と思っているうちに現れるのは、アミューズプレート。
シェリービネガーを使った鯛の握り寿司、驚くほど甘いトマトのコンポート、ウニを乗せた炒り胡麻のケークサレ、トウモロコシのパンナコッタなどが、角皿の上に整然と並ぶ。コースの始まりから、すでに楽しい。
続いて登場するのが、出番を待っていた森のクマさん。実はクマは最中で、中にはフォアグラのテリーヌと松の実、スモモのコンフィチュールが詰められている。見た目はメルヘン、中身は大人の酒肴。白ワインが欲しくなる。
森の後は海。「でかっ!」と声を上げるほどビッグサイズな蝦夷鮑は、出汁と共に5時間スチームをかけて柔らかく仕上げられている。緑と茶色のコントラストが美しい皿は、1枚の絵画のよう。流線形を描いているのは肝ソースで、鰹、みりん、醤油などを使った和のテイストに。「磯っぽさをと生臭さをマスキングするためです」と料理長の柏木昇太さんは話す。
ミシュランシェフの個性が炸裂
実は柏木さんは2013年から2024年まで神戸でイノベーティブレストラン『柏木』を営んでいた人物。高校在学中から日本料理店で学び、イタリアンやスペイン料理でも経験を重ね、26歳で神戸の人気店『トラットリア バンブー』のシェフに就任。28歳の若さで『柏木』を開店し、ジャンルに縛られない料理でファンを増やした。「ミシュランガイド関西2014」にビブグルマンとして掲載されている。
コロナ禍後に思うところあって店を閉め、知人を通じて親交を深めた『一粒一粒』のオーナーに誘われ転身したという。
メインディッシュは“食べる花畑”
「固定概念を覆す料理を」の意気込み通り、コースは独自の世界観が投影された品々を連打。フルーツトマトが主役と言えるほど鮮烈なインパクトを与えるパスタの後は、シグニチャーと言える「野菜プレート」がドーンと。スナップエンドウ、さつまいも、芽キャベツ、バターナッツ、ロマネスコ、ピーナッツもやし……馴染み深いものから未知の野菜まで、色も形も異なる野菜がキラキラと輝く。まさに食べる花畑。「この野菜何?」と聞かれるのは常のことで、「中には全部教えて!と仰る方も(笑)。つい調理の手を止めて説明してしまいます」と嬉しそうに話す。
花畑がメインディッシュかと思いきや、真打はカドワキ牛のイチボ。敢えて手を加え過ぎす、クラシカルにグリルする。しかし、ただ焼くだけではない。オーブンに入れては出し、入れては出しを繰り返し、こまめに温度を上げ下げ。「ジグザグ火入れと呼んでいます。こうすることで肉がしっとり、内側に水分を抱えたまま火が入るんです」。ソースは肉の出汁を加えたフォンドボーソースでコクを濃縮させる。
全てが、“米一粒”のために
もう腹9分目……と息をつく頃に、最後の主役が現れる。鰻の土鍋ご飯だ。そうだ、店名の由来を思い出した。「お米の一粒一粒まで大切に味わえる料理」。蓋がご開帳され、炭火で焼いた鰻の香ばしさが立ちのぼると、俄然食欲が再燃する。季節によって具材はしらすだったり、タケノコだったり、トウモロコシだったり。まずはそのまま味わい、最後は出汁をかけてお茶漬け風に。確実に最後の一粒まで味わえる仕掛けである。
締めの締めに、バスクチーズケーキとフィナンシェが現れた。これも手作りというから頭が下がる。仕込みの手間を労うと、「好きなんです。“変態”級ですね(笑)」。確かに……。
腹12分目だが、とどめ(?)に供されたフィナンシェの焼きたての香りが「デザートは別腹」と誘う。そう、食とは味だけではないのだ。華やかな見た目、鼻を抜ける香り、素材をソテーする音や煙。さらに、料理を通じて生まれる会話。朝に訪れたことがある人は、夜の魅力を知れば違いに驚くはずだ。『一粒一粒』は、まさに一粒で二度美味しい店なのである。
ちなみにワインペアリングは6杯6000円で、50〜60mlと言いながら「つい注ぎすぎてしまいます。自分が好きなので」と一緒に調理場に立つ奥山竜地さん。単品なら「赤屋根 山椒ハイボール」1100円がイチオシ。「宇治玉露茶 玉兎」などノンアルコールにも力を入れている。
data
- 店名
- 一粒一粒(ひとつぶひとつぶ)
- 住所
- 大阪市福島区福島3-11-6
- 電話番号
- 06-6225-8673
- 営業時間
- 7:00~12:00(11:00LO)、18:00~22:00(20:00LO)
※朝は1時間ごとの予約制、夜は18:00・20:00の二部制。
- 定休日
- 不定休
- 交通
- JR東西線新福島駅3番から徒歩3分、阪神福島駅から徒歩6分、JR福島駅から徒歩9分
- 席数
- 11席
- メニュー
- 健康と五感の和食御膳(朝)2500円、ディナーショートコース8800円、五感コース13200円、ペアリングコース19800円。生ビール880円、日本酒990円~。
writer

猫田しげる
nekota shigeru
北海道出身。20年以上、グルメ誌、新聞地域面、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。各地を転々とした挙句、現在は関西在住。「FRIDAYデジタル」などのweb媒体で記事執筆。めったに更新しない猫田しげるの食ブログ 「クセの強い店が好きだ!」と恐ろしくフォロワー数の少ないInstagramをヨロシク!
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