想像を超えてくる、夜の『一粒一粒』。メインディッシュは花畑⁉

大阪・福島の『一粒一粒』は土鍋ご飯に多種のおかずが付く朝食の「朝御膳」がバズっている。その人気に押されて夜の部は影を潜めているが……実は朝とは料理長が異なり、全く別のコンセプトで客を魅了する。森のクマさんや花畑が次々と現れる、固定概念を覆す「五感コース」とは。

クマさんから始まる13200円のコース

築78年の古民家の表には小さな看板だけ。いかにも隠れ家風なガラス戸を入ると、目の前に調理場を望むオープンキッチンのカウンターが迎える。炭火を熾したり、魚を串打ちしたりと、料理人たちがせわしなく立ち回る。調理台を見ると、並んでいるのは、森に見立てた野菜にちょこんとクマさんが鎮座するプレート。あれ食べられるの?と思っているうちに現れるのは、アミューズプレート。

古民家をモダンにリノベーションした建物。
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シェリービネガーを使った鯛の握り寿司、驚くほど甘いトマトのコンポート、ウニを乗せた炒り胡麻のケークサレ、トウモロコシのパンナコッタなどが、角皿の上に整然と並ぶ。コースの始まりから、すでに楽しい。

五感コースの口開けは、小さな料理が並ぶアミューズプレート。河内鴨の一口ハンバーグ、明石タコの柔らか煮など、なんと仕事の細かいこと……!
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続いて登場するのが、出番を待っていた森のクマさん。実はクマは最中で、中にはフォアグラのテリーヌと松の実、スモモのコンフィチュールが詰められている。見た目はメルヘン、中身は大人の酒肴。白ワインが欲しくなる。

フォアグラのテリーヌを詰めたクマ型の最中。周りの野菜も火入れや調味されており、土に見えるのは食べられるパウダーなのでご安心を。
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森の後は海。「でかっ!」と声を上げるほどビッグサイズな蝦夷鮑は、出汁と共に5時間スチームをかけて柔らかく仕上げられている。緑と茶色のコントラストが美しい皿は、1枚の絵画のよう。流線形を描いているのは肝ソースで、鰹、みりん、醤油などを使った和のテイストに。「磯っぽさをと生臭さをマスキングするためです」と料理長の柏木昇太さんは話す。

蒸した後はバターソテーに。下は1年熟成した北海道ジャガイモのマッシュ。
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ミシュランシェフの個性が炸裂

実は柏木さんは2013年から2024年まで神戸でイノベーティブレストラン『柏木』を営んでいた人物。高校在学中から日本料理店で学び、イタリアンやスペイン料理でも経験を重ね、26歳で神戸の人気店『トラットリア バンブー』のシェフに就任。28歳の若さで『柏木』を開店し、ジャンルに縛られない料理でファンを増やした。「ミシュランガイド関西2014」にビブグルマンとして掲載されている。

コロナ禍後に思うところあって店を閉め、知人を通じて親交を深めた『一粒一粒』のオーナーに誘われ転身したという。

料理長の柏木さん。神戸『柏木』で築き上げた感性を、『一粒一粒』の夜に落とし込む。
2階の吹き抜けから厨房が見える、ユニークな造りの店内。
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メインディッシュは“食べる花畑”

「固定概念を覆す料理を」の意気込み通り、コースは独自の世界観が投影された品々を連打。フルーツトマトが主役と言えるほど鮮烈なインパクトを与えるパスタの後は、シグニチャーと言える「野菜プレート」がドーンと。スナップエンドウ、さつまいも、芽キャベツ、バターナッツ、ロマネスコ、ピーナッツもやし……馴染み深いものから未知の野菜まで、色も形も異なる野菜がキラキラと輝く。まさに食べる花畑。「この野菜何?」と聞かれるのは常のことで、「中には全部教えて!と仰る方も(笑)。つい調理の手を止めて説明してしまいます」と嬉しそうに話す。

30種類以上の野菜を盛り込んだ名物プレート。フレッシュ、ピクルス、マリネ、ソテーと、あの手この手で野菜の表情を引き出し、食べ手を飽きさせない。
目を引くのが、カラフルなピュレ。人参にはクミン、オレンジにはシナモン。「ピュレが好きなんです」と柏木さん。単なる彩りではなく、自作の調味料であり、野菜の味を広げる武器なのである。
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花畑がメインディッシュかと思いきや、真打はカドワキ牛のイチボ。敢えて手を加え過ぎす、クラシカルにグリルする。しかし、ただ焼くだけではない。オーブンに入れては出し、入れては出しを繰り返し、こまめに温度を上げ下げ。「ジグザグ火入れと呼んでいます。こうすることで肉がしっとり、内側に水分を抱えたまま火が入るんです」。ソースは肉の出汁を加えたフォンドボーソースでコクを濃縮させる。

三重県四日市のカドワキ牧場の牛肉。赤身がちであっさりながら重厚感のある肉質。
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全てが、“米一粒”のために

もう腹9分目……と息をつく頃に、最後の主役が現れる。鰻の土鍋ご飯だ。そうだ、店名の由来を思い出した。「お米の一粒一粒まで大切に味わえる料理」。蓋がご開帳され、炭火で焼いた鰻の香ばしさが立ちのぼると、俄然食欲が再燃する。季節によって具材はしらすだったり、タケノコだったり、トウモロコシだったり。まずはそのまま味わい、最後は出汁をかけてお茶漬け風に。確実に最後の一粒まで味わえる仕掛けである。

炭火で焼いた鰻を炊き込んだ土鍋ご飯。バルサミコやビネガーを利かせた、ほんのりイタリアンテイストな味わい。
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出汁をかけてひつまぶし風に。
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締めの締めに、バスクチーズケーキとフィナンシェが現れた。これも手作りというから頭が下がる。仕込みの手間を労うと、「好きなんです。“変態”級ですね(笑)」。確かに……。

腹12分目だが、とどめ(?)に供されたフィナンシェの焼きたての香りが「デザートは別腹」と誘う。そう、食とは味だけではないのだ。華やかな見た目、鼻を抜ける香り、素材をソテーする音や煙。さらに、料理を通じて生まれる会話。朝に訪れたことがある人は、夜の魅力を知れば違いに驚くはずだ。『一粒一粒』は、まさに一粒で二度美味しい店なのである。

紅茶のバスクチーズケーキ、塩バターのフィナンシェなど食後の小菓子まで抜かりない。
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ちなみにワインペアリングは6杯6000円で、50〜60mlと言いながら「つい注ぎすぎてしまいます。自分が好きなので」と一緒に調理場に立つ奥山竜地さん。単品なら「赤屋根 山椒ハイボール」1100円がイチオシ。「宇治玉露茶 玉兎」などノンアルコールにも力を入れている。

「勝駒」「風の森」「冩樂」など日本酒990円~。お茶の概念を変える「宇治玉露茶 玉兎」880円も人気。
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相棒のような存在の奥山さん(左)。実は8月にトンカツ店をオープンさせる予定で、そこでは奥山さんが腕を振るうという。それにしても、楽しそう(笑)。
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writer

猫田しげる

nekota shigeru

北海道出身。20年以上、グルメ誌、新聞地域面、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。各地を転々とした挙句、現在は関西在住。「FRIDAYデジタル」などのweb媒体で記事執筆。めったに更新しない猫田しげるの食ブログ 「クセの強い店が好きだ!」と恐ろしくフォロワー数の少ないInstagramをヨロシク!

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