大阪・ミナミのほっこり和み系割烹『東心斎橋やつづか』
意外性抜群のパクチーサラダで夏酒を
さりげなく雑居ビルにこんな割烹が潜んでいるのだから、ミナミは楽しい。『東心斎橋やつづか』がオープンしたのは2013年。6年ほど前に移転し、少しだけ広くなった店内は6席のカウンターとテーブルが2卓。「せっかく個室を作ったんですけどね、お客さんが扉を開けといてって言うんですよ」。店主の八束義徳さんがテヘヘと笑う。
てらいなく、楽し気にカウンターに立つ八束さんと、可愛らしい奥様が二人で営む割烹だ。すきっとした店内には、ほっこり和めるムードが漂っている。その気さくさが品書きにも表れていて、お造りから焼物、煮物ときっちり旬の和食を抑えつつ、アジアンテイストな一品までがスタンバイ。コースもあるが、アラカルトでどうぞ、というスタンスが何より嬉しい。
初夏の夜の突出しは、クリーム豆腐だった。わんさとまぶしたブラックペッパーがミルキーさを際立たせていて面白い。胃袋が突っつかれて、パカッと開いたところで、まずはお造りを。天然の鯛あり、本マグロや貝類ありで、この日は7種。私は真ツブ貝、連れはイカを選び、生ビールからの日本酒へ。
キリッと冷やした夏酒に合う一品を探して品書きを見れば、ん?「シラスとパクチーサラダ」!? 割烹で好物のパクチーに出合えるとは! はて、どんな一品かと興味津々で待つこと数分。
おぉ!なんという気取らぬビジュアル。ゴマ油の風味とポン酢の軽い酸味でパクチーの香味が躍動している。ブロッコリーやトマト、新玉ネギにシラスのバランスが存外によく、ホワイトペッパーでほんのり刺激もプラス。ざっくばらんに見えて、割烹の一品らしい端正さが備わっている。
割烹の定番から、中華風の蒸し物まで
八束さんが腕を磨いたのは、ミナミらしい自由闊達なアラカルトで人気を博す『島之内 一陽』。入店したのは、オープン2週間目のことだった。
面接に行くと、引き立てのだしのいい匂いが店内に立ち込めていたという。「ガチめのとこに来たなと、ビビりました(笑)」。大学を卒業したばかりの八束さんは、飲食店でのバイト計形はあれど、日本料理の片刃庖丁は握ったこともなし。しかも、左利きだった。「でも、ここで頑張りたいと思ったんですよ!」。
懐の深い師匠のもと、イチから割烹の仕事を学んで7年弱。29歳の頃、独立を視野に入れて店を辞し、フレンチや和食店で経験を積んだという。その経験が品書きには息づいている。
おススメを尋ねると、「今日は2.7㎏のマナガツオが入ってますよ。塩焼きでどうですか?」。
腹の身の分厚いこと。ジュワ~っと口中を満たす旨い脂に陶然となる。夏酒をくいっとやりながら食べ進め、あれ?そういえば、と気になったことが一つ。品書きを見ると、やっぱり他にマナガツオの料理がない。
残りはどうするの?と尋ねると、「焼き霜造りに、煮物や蒸し物。唐揚げにしても旨いですよ。料理はおまかせって言われることも多いので、いい感じで使い切ります」と八束さんが事も無げに笑う。
いいなぁ、この当意即妙こそ割烹だよなぁ~と、こちらの頬も緩む。
おススメその2の銀ダラの蒸し物は、紹興酒と香味野菜で酒蒸しし、熱した油をジュッとかけた中華風。豆豉の風味や、香ばしさを増した白髪ネギと相まって、コク旨な一品だ。
たっぷり残った汁がもったいないなーと呟けば、「少しご飯入れます?」と八束さんからまさかの提案。連れが大喜びして、ぺろりと平らげていた。
締めには手打ちの二八蕎麦がスタンバイ
さて、この夜は盃を重ねることン合。最後は、福井『黒龍酒造』定番の純米吟醸「いっちょらい」と決めていた。なんせ酒の品書きに「1合オール1100円」とある。クリアで美しい酒質の「黒龍」を、この価格で飲める割烹は多くないはずだ。
「うちの徳利、200㎖くらい入っちゃうんですよね」と、八束さんがまたしてもテヘヘと笑う。それなら、なおのことお得じゃないですか!
「いっちょらい」を2合もらって、締めは手打ちの二八蕎麦を。『四天王寺はやうち』の蕎麦教室に参加したのをきっかけに、7年ほど前から始めたのだそう。なんと蕎麦粉は、その大将が石臼で挽いたものを仕入れているとか。
「結構人気なんですよ。品切れになったら、営業中に空いているテーブルで打って、できたてをお出しすることもあります」と八束さん。
ザッとたぐれば、なるほど蕎麦の香りがいい。カツオ昆布だしがきっちり利いた関西風のつゆもほどよき塩梅だ。
ちなみに締めは、鯛茶漬けや雑炊に加え、お茶碗カレーなんて茶目っ気のある一品も。
旬の食べたいものがきっちりあって、意外な創作メニューも愉しめて。「僕の好きなものを揃えてるだけです」と照れ笑う八束さんの飄々(ひょうひょう)としたキャラが、割烹をぐっと身近に感じさせてくれる。
ちなみにこの日は、写真の4品にお造りを連れと1種ずつ、かきあげまで食べて、締めて1人13000円弱。日本酒は2人で5合以上いったかな。ほっこり和めて、満腹になって、実によい酔い心地だった。
data
- 店名
- 東心斎橋やつづか
- 住所
- 大阪市中央区東心斎橋2-5-29 日宝周防町ビル2階
- 電話番号
- 06-6213-2250
- 営業時間
- 18:00〜23:00
- 定休日
- 日曜、祝日
- 交通
- 各線心斎橋駅から徒歩8分
- 席数
- カウンター6席、テーブル8席、個室1室(3~4名)
- メニュー
- 突出し550円、造り盛合せ2200円~、おまかせコース13200円(前日までに要予約)。生ビール中660円。
writer

中本 由美子
nakamoto yumiko
青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。
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