京都のショコラティエが作るカレーと、パフェ。『SHiQ』が描く“食の風景”

ショコラティエが手掛けるカフェは、なぜカレーまでおいしいのか——。
西陣の住宅街にオープンした『SHiQ(シック)』。営むのは、ショコラトリー『織 SHIKI』のオーナーショコラティエ・奥野光さん。チョコレートの世界で数々の賞を受賞してきた奥野さんの次なる舞台はカフェだった。季節の果実を使ったパフェ、本格的なカレー、そしてこれから始まるパン作り。ジャンルは違っても、その根底には一つの思いが流れている。

看板のないショコラショップが、西陣の日常を変えた

西陣の住宅街を歩いていると、「ここがお店だろうか」と思う建物に出会う。控えめな外観に、大きな看板はない。それがチョコレート専門店『織 SHIKI』だ。奥野さんは、あえて看板を掲げない。店そのものが街並みの一部になり、建物の佇まいがブランドになるよう設計した。西陣には古くからの町家が残り、ゆっくりと時間が流れる。その景観を壊したくないという思いもあった。
「看板のないショコラショップ」。
そんな口コミが少しずつ広がり、今では京都だけでなく全国からファンが訪れる店になった。店を知る人が訪ねてきてくれる、その距離感が心地よいのだという。
店が建つ場所は、かつて実家があった場所でもある。祖父や父は、京都を代表する老舗喫茶店『六曜社』を営んできた。幼い頃からコーヒーや喫茶店が身近にあり、人が集う光景を見て育った。その記憶は、形を変えながらも今の店づくりへとつながっている。

『SHiQ』のスイーツ
ショコラマダガスカル667円、タルトマロンアプリコ740円など、季節のケーキが並ぶ。
10

ショコラティエという肩書の先へ

奥野さんは大阪の洋菓子店で経験を積み、チョコレートブランドの立ち上げにも携わった。独立後はショコラティエとして国内外のコンテストへ挑戦し、数々の賞を受賞。「仕事だけでは身につかない技術を、コンテストを通して学びたかった」という言葉どおり、奥野さんにとって受賞はゴールではなく、新しい技術や表現に出会うための通過点。大人になっても競い合える場所があることが、自分を成長させてくれると話す。
その探究心は、ショコラだけに留まらなかった。「食に関わることは基本ひと通りやりたい」。そう考えるようになった先に生まれたのが、『SHiQ』だった。

『SHiQ』のオーナーショコラティエ・奥野光さん
オーナーショコラティエ・奥野光さん。世界最大級のチョコレートの祭典「サロン・ドゥ・ショコラ」での金賞受賞歴も持つ。
10

ショコラ作りの経験を生かした、本気のカレー

『SHiQ』は『織 SHIKI』から500mほど離れた場所にある。訪れてまず驚いたのは、カレーだ。ショコラティエのカフェは、パフェやケーキが主役だろうと思っていた。その予想はいい意味で裏切られる。
ビーフカレーには、牛骨だし、牛すじだし、赤ワイン煮込みの煮汁という3つの旨みを重ねる。その味を生み出すために、奥野さんは京都市内のカレー店で約2年間、朝の仕込みから学んだ。
夏限定のキーマには、鶏の首皮から取るだしを使い、仕上げには青実山椒をワインビネガーに漬けた特製のアクセントを添える。スパイスを重ねるだけではない、だしの文化を感じさせる一皿だった。

『SHiQ』のローストビーフ&和牛欧風カレー
「ローストビーフ&和牛欧風カレー」1800円、ドリンクセット2300円(選べるソルベ付)。隠し味にはチョコレートが使われている。「隠し味にはとどまらないくらい結構、たくさん入っています」と奥野さん。
10

四季の旬を味わうパフェ

店名の『織 SHIKI』には、「四季」への思いが込められている。その考え方は『SHiQ』でも変わらない。初夏はレイニアチェリー。夏は和歌山・荒川の桃。秋になれば栗やりんご、かぼちゃ。定番メニューを増やすのではなく、その時季に最もおいしい素材を主役に据える。

『SHiQ』の季節のパフェプレート
果実の香りを引き立てるよう自家製アイスが寄り添い、旬そのものを味わうための一品。季節のパフェプレート(プティフルール付)2800円。写真は宮崎マンゴーと沖縄県産パッションフルーツ(季節の旬の素材を使い、メニューや価格は変わる)。
10

次はパン作りへ。フレンチトーストのパンも自家製

SHiQは、まだ完成形ではないと言う。店内にはすでに製パン設備が入り、次はクロワッサンをはじめとするパンづくりを視野に入れている。チョコレートを学び、カレーを学び、季節の果実と向き合う。 そして次はパンへ。ジャンルが変わっても、ものづくりへの姿勢は変わらない。

『SHiQ』の「フレンチトーストプレート 季節のフルーツ添え」
SHiQ自家製トーストとフレンチ液を使った「フレンチトーストプレート 季節のフルーツ添え」1700円。
10

祖父や父が育んできた喫茶文化、ショコラティエとして培った技術、そして新たな挑戦。そのすべてが重なり合って、SHiQという場所は少しずつ形になっていく。
「食に関わることは、できるだけ自分たちの手で」。奥野光さんが描く「食の風景」の発信をこれからも楽しみにしたい。

『織 SHIKI』の外観
看板のない『織 SHIKI』。イートインスペースはないので持ち帰りのみ。
10
SHiQの外観
智恵光院通に面する『SHiQ』はカウンターとテーブル席でゆったりスイーツを味わえる。『織 SHIKI』のケーキの持ち込みもOKだそう。
SHiQの内観
10

※記事内の写真やメニュー、価格等はすべて取材時の内容です。最新の情報とは異なる場合があります。

writer

中野 弘子

Nakano Hiroko

京都コーディネーターⓇ&フリー編集者。京都の月刊情報誌「Leaf」編集長時代に「町家でごはん」を企画。京都の日常暮らしから全国の伝統文化、エンタメなどを多数取材。著書「よそさんが心地いい京都」(交通新聞社)、ペンネーム古瀬ヒロ著「京都謹製きもの和こもの」「京都いっぴん日用品」(淡交社)などがある。

recommend

読まれている記事

『あべのハルカス近鉄本店』お菓子売り場がリニューアル。百貨店初&関西初が続々!

兵庫・伊丹『KUROPURI』。フレンチのシェフが手がける「クロワッサン」と「プリン」の専門店

京都『和菓子&ワイン 養老軒』が届ける フルーツ大福とワインの楽しみ方

「りくろーおじさんのチーズケーキ」おいしい理由&並ばず買える方法も

安田淳一監督【前編】待ってました! 日本アカデミー賞「侍タイ」スピンオフドラマ放送。独占インタビュー

『資さんうどん』広報がこっそり教える!「実はコレも食べてほしい」隠れた名物

『粟玄』の和洋[大阪]老舗おこし屋のモダンな名品

絶対に失敗しない「くたくたブロッコリーのタラコスパゲッティ」『寺町コロンボ』のひと手間レシピ

【番外編】俳優・津田寛治さん絶賛の「おたべ」。進化系、変化球に驚き!

ギネスビールが生む深いコク。大阪・中津『IRISH CURRY』の名物ポークカレー