初代から続く手仕事の菓子を守る京都『京菓子 御倉屋』
初代の精神を受け継ぐ菓子屋へ
「御倉屋」の歴史を語るうえで欠かせないのが、初代・後藤常三さんの存在だ。カリスマ性があり、根っからの発明好きだったという常三さんは、理想の餡を煮るために「落差式石油バーナー」なる道具を自作し、特許まで取得した。この道具は30年程前まで使用されていたそうで、創業の精神を物語る品だ。
「よそにないものを作る」を目標に掲げていた常三さんは、独自の菓子を次々に考案した人物でもある。誰よりも早く起き、下駄の音を鳴らして仕事場へ向かい、亡くなるその日の朝まで働いていたと、若女将の昌子さんは振り返る。常三さんの厳しい指導を受けた二代目、三代目にもその姿勢が引き継がれ、同店ならではの菓子づくりに現れている。
現在の店舗は数奇屋建築の匠、中村外二工務店の初代中村外二が手がけたもので、天井の大きな一枚板をはじめ、今でも建築関係者が見に訪れるほど趣のある空間だ。
そんな中でも変わらず受け継がれてきたのが「夕ばえ」と「旅奴」。この二つの看板菓子には、店の歴史そのものが込められている。
変えないために守る手仕事
同店の菓子は、焼成用のオーブンを除いて機械をいっさい使用しない。大量生産に向けて機械を導入すれば効率は上がるが「自分の手で触らないと、生地の硬さやふくれ具合の違いがわからない」というのが変わらぬ考え方だ。季節や気温、湿度によって生地の状態は毎回違う。だからこそ、その都度手で確かめながら仕上げている。
販売方法も独特だ。ショーケースや値段の掲示はなく、訪れたお客に口頭で説明しながら、直接菓子を手渡す。「なるべくお顔を見てお渡ししたい」という想いからだ。
仕入れ先も初代の代から変えていないとのこと。一方で「夕ばえ」の主原料である大手亡(おおてぼう)については危機感も口にする。
小豆は需要が大きいため品種改良が進むが、大手亡は需要が少なく、改良に力を注ぐ人が少ない。温暖化の影響で北海道でも育てることが難しいのだそうで「幻の夕ばえになるかもしれないと思って、日々大切に作っています。素材を変えると味も変わってしまうので、そこは信じてできるだけ変わらない味を作り続けたいです」という言葉には、変わらぬ味を守る覚悟がにじむ。
女将が背負った三代の物語
嫁いだ当初から今のように店に打ち込んでいたわけではないと昌子さんは明かす。転機になったのは、3人の子育てがひと段落した15年前、これからの人生これで良いのか思い悩んだ末『御倉屋』の看板を背負って生きていく覚悟をした。
菓子の名を大きく入れたTシャツを着るようになってから約10年、昌子さんの心境の変化とともに、店の空気も変わっていった。
現在は夫の嘉之さんとともに、息子、妹、母とともに、家族総出で製造と販売を担う。次の代への継承もすでに動き出しているようだ。
「最期まで働く覚悟です」。そう言い切る昌子さんの言葉には、初代から続く職人気質がまっすぐに息づいている。
儚い口どけが唯一無二の「夕ばえ」
看板菓子となった「夕ばえ」は、大手亡と高純度の砂糖、卵黄、蜂蜜などを使った焼き菓子だ。大手亡の白餡を焼き上げると、見た目は黄身しぐれに似るが、口に入れた瞬間の印象はまるで違う。
指で触れただけで、ほろほろと崩れていくほどのやわらかさ。あっという間に姿を消してしまう繊細な口どけは、卵を使った菓子の中では類を見ない。
餡を炊く工程は特に気温や湿度に左右されやすく、同じ大手亡でもその日ごとに焼き上がりが変わる。一筋縄ではいかない菓子だからこそ、経験を積んだ手だけが仕上げられるのだろう。
持ち帰りにも独自の工夫がある。専用の箱にきっちり収めてもまっすぐ静かに持ち帰らないと型崩れの心配がある。そのためファンの間では無事に持ち帰れるかを試す「夕ばえチャレンジ」という遊び心のある呼び名までついているという。
発送を始めたきっかけも印象深い。お客さんから「遠方に住む高齢の親に最後に食べさせてあげたい」、「病気の妻に最後に食べさせてあげたい」など心情に訴える声がとても多かったことから、専用のカップに入れて配送する方法を編み出した。賞味期限は4日と短いが、それだけに届いたその日にすぐ味わってほしいという思いが込められている。
初代が考案した黒糖の味「旅奴」
もうひとつの代表格が「旅奴」だ。
名前は、大名行列にお供をした「奴」にちなみ、「旅のお供に」という願いを込めて名付けられたという。生地は小麦粉、卵、砂糖を合わせたボーロで、そこに沖縄・波照間島産の黒糖をたっぷりとまとわせる。見た目はごろりとして硬そうだが、口に含むとスッとほどけていく。軽さがありながら、黒糖の甘みがしっかり感じられる味わいに「もうひとつ」と思わず手がのびてしまう。
黒糖にこだわるのには理由がある。「黒糖は島によって味が違う」という考えから、以前より波照間島産を選び続けている。
賞味期限は10日で「夕ばえ」に比べると気負わず贈れる手土産として重宝されている。レトロな風合いの包み紙も昔のままで、改まらずに渡せる気安さが魅力だ。
変わらぬ味を守り抜く覚悟
新しいことに挑もうかと考えた時期もあったというが、たどり着いた結論は「変わらずずっと続けていくのが一番いい」というものだった。あえて変えないことこそが「御倉屋」の在り方なのだ。
近年は思わぬ形で店の名を知る人が増えた。ある著名人がふらりと訪れたことがきっかけで、翌日から行列ができるほどの反響があったという。しかしメディアで話題になっても、いつも通りの接客を貫いているところに、この店らしさが表れている。
「喜んでもらえるのが一番好き」。そう語る昌子さんの言葉に、飾らない人柄がにじむ。家族だけで営み、三代にわたり守られてきた味と若女将が背負ってきた覚悟。その両輪があるからこそ、「御倉屋」の菓子は今日も変わらぬ姿で客を迎えている。
data
- 店名
- 京菓子 御倉屋
- 住所
- 京都府京都市北区紫竹北大門町78
- 電話番号
- 075-492-5948
- 営業時間
- 9:00~18:00
- 定休日
- 毎月1・15日、8月15日、1月2・3日、その他臨時休業あり
- 交通
- 京都市バス下岸町バス停留所から徒歩8分
- メニュー
- 夕ばえ(1箱10個入)3,348円、旅奴(1袋)1,080円 ※事前予約が望ましい
- 公式サイト
- https://mikuraya.jp/
- https://www.instagram.com/mikuraya1947
recommend






