暖簾分けの原点を継ぐ京都・西陣『京菓子司 千本玉壽軒』

昭和13年、本家で修行を積んだ初代が、かつて店の一部があった西陣の地に戻る形で暖簾分けし、創業した『千本玉壽軒』。黒ごまが香る代表銘菓「西陣風味」と、四神をまとう干菓子「日月菓」など、三代にわたり町に根付いた菓子づくりが受け継がれている。

本家から暖簾分けした地

『千本玉壽軒』の歴史は、江戸時代後期の寛政年間にまでさかのぼる。綴織を織っていた『井筒屋』という機屋が、機仕事のかたわらに一文菓子を置いたのが評判となり、幕末には菓子仲間に名を連ねるまでになった。これが『玉壽軒』の菓子屋としての原点だ。

大正の中頃、道路拡張によって店舗の半分以上が削られるという出来事があり『玉壽軒』は今出川大宮へ移転する。取り壊しを免れた建物の一部で菓子作りは続けられていたが、昭和13年、本家で修行を積んだ初代が独立し、かつて本家があったこの千本今出川の地で暖簾分けという形で創業したのが『千本玉壽軒』だ。発祥の土地に戻って店を構えたことになる。

三代目である元島真弥さんは、もともとはサラリーマン。家業を継いでからは裏千家茶道を学び、菓子づくりと茶の湯の関係を深めてきた。その姿を間近で見て育ったのが、次期四代目となる淳一郎さんだ。

淳一郎さんは大学卒業後には一度、別の業界へ出たものの、店へ戻った。幼い頃から見てきた作業風景は今も変わらないと言う。

千本玉壽軒内観
カウンターに腰掛けて店の人と言葉を交わしながら菓子を選ぶひとときも、この店ならではの魅力だ。
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千本玉壽軒内観2
掲げられた「玉壽」の看板が、暖簾分けから続く店の歩みを静かに物語る。
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西陣という土地に育まれて

同店では京都の人々が持つ高い美意識と味へのこだわりに応えながら、京菓子づくりの技を磨いてきた歴史がある。また有名社寺への菓子の納入も続けており、寺院や茶道の世界との関係を長く築いてきた。

「西陣という町のおかげで、お店もここまで続けてこれたのだと思います」と淳一郎さんは話す。

千本玉壽軒外観
千本今出川、かつて本家があった発祥の地に暖簾を掲げる。
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守りながら、新しい風も取り入れる

「基本的には手作りでなければならないと思っています」。
同店が大切にするのは、手仕事を軸にした菓子づくりだ。

その一方で、昔とまったく同じことだけを続けているわけではない。守るところは守り、新しいものは取り入れていくという姿勢で、自然素材を使った製法を受け継ぎながら現代の味覚に合わせた工夫も行っている。

菓子づくりの背景にあるのは、茶の湯との関わりだ。父親と同じく淳一郎さんが裏千家の稽古を続けるなかで「お茶の邪魔をせずに存在感を出す」「茶席で食べやすいお菓子であること」を意識するようになったという。

生菓子は年間100種類ほど。定番として毎年作る菓子のほか、考案したものが新商品になることもある。季節や茶席に応じて姿を変えながらも、根底にある考えは変わらない。

千本玉壽軒ショーケース
店内に並ぶ菓子。季節に応じてその表情を変える。
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父を師と仰ぎ、次代へ仕事を紡ぐ

淳一郎さんにとって、三代目である父は一番近い存在で、一番の手本になる存在。また、新しいものを好む人でもあるようだ。
伝統を守るだけでなく、新しい試みにも目を向ける父の姿を見ながら、淳一郎さんも自分なりの仕事を考えるようになった。

2020年10月にオープンした茶寮「SENTAMA」は、父の意向から、生菓子を目の前で作って提供する場として始まった。現在は茶寮を目当てに本店を訪れる客も増え、職人がカウンター越しに直接客の反応を受け取れるようになったことも、店にとって大きな変化だった。

父から受け取ったものをそのまま繰り返すのではなく、その姿勢まで引き継ぎ、自分の時代の仕事へとつなげていく。そんな四代目の歩みが、少しずつ始まっている。

千本玉壽軒SENTAMA
茶寮「SENTAMA」に置かれた茶道具の数々。生菓子を目の前で仕立てる場となっている。
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千本玉壽軒SENTAMA2
昔懐かしい空間が広がる茶寮「SENTAMA」の客席。
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町の織物文化を菓子に映す

代表銘菓「西陣風味」はその名の通り、西陣織を思わせる姿が印象的な菓子。餡を羽二重餅で包み、その餡には黒ごまを練り込んで風味を加えている。羽二重餅を使うのは、なめらかな口当たりと食感のためだ。

反物を思わせる形に仕立て、たとう紙で一つずつ包む。紙の扱いや結びにも織物とのつながりを感じさせる工夫が施されている。西陣という土地で育まれてきた菓子であることを、味だけでなく姿や包みにも表現した一品なのだ。

町が織物で栄えた時代を知る先代から、その土地の文化とともに菓子づくりを続けてきた。細部にわたるこだわりが、この菓子を含む店の仕事に通じている。

千本玉壽軒西陣風味
反物になぞらえた化粧箱と、たとう紙で一つずつ包まれた「西陣風味」。
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千本玉壽軒西陣風味2
羽二重餅の白さの奥に、黒ごまを練り込んだ餡がのぞく。
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四神をまとう干菓子「日月菓」

「日月菓」は和三盆100%で仕上げる干菓子。
中に敷かれた紙には、京都の四方位にちなんだ四つの神が色分けして表現されている。文房具店とのコラボレーションから生まれた商品で、三代目の代からの付き合いがきっかけだったという。

一箱から選べるほか、4色セットで購入すると、手土産に喜ばれそうだ。それぞれに四神の名がつけられているが、すべて和三盆のやさしい甘みが特徴的。「日月菓」が生まれた当時は、和三盆だけで作るのは珍しい試みだったそうだ。季節に合わせてココア味や抹茶味、桜色の限定バージョンで販売されることもあり、従来の和菓子の枠に収まらない広がりも見せている。

千本玉壽軒日月菓
四神になぞらえた4色が、それぞれの物語を語る干菓子「日月菓」。
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ぶれずに、それでも前へ進む

「守るところは守り、新しいものは取り入れていく」。これが淳一郎さんの基本姿勢。
前から続けてきた菓子をつくり続けることを大切にしながらも、味への信頼を裏切らないようにという思いと代を継ぐ者としての覚悟が表れている。

近年は若いお客や、ウェブサイトを見て訪れる海外からの客も増えているという。観光のついでではなく、店を目指してやってくる人が増えている実感があるそうだ。暖簾分けから受け継がれてきた技と、代ごとに重ねられる小さな工夫。その両方があってこそ『千本玉壽軒』の菓子は今も西陣の地でつくられ続けている。

千本玉壽軒看板
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