和洋の枠を越え、自由な発想で菓子を生み出す京都『kashiya』

京都・左京区の静かな一角に店を構える『kashiya(カシヤ)』。フランス料理の世界で経験を積み、帰国後に和菓子作りを学んだ藤田怜美さんが、独自の感性で菓子を生み出している。和菓子とも洋菓子ともひと括りにできない品々には、素材や製法を探究してきた経験が生きる。厨房で菓子作りに向き合う藤田さんと、店頭で客を迎える中崎さん。二人が大切にするのはおいしい菓子をもっと自由に、身近に楽しんでもらうことだ。

和洋の枠を取り払った菓子の世界

藤田さんが和菓子に興味を持ったのは、フランスで働いていた頃のこと。製菓学校を卒業後、フランス校で学び、東京のレストランを経て再び渡仏。フランス料理のデザートに携わる中、ある和菓子の講習会に参加したことが転機となった。自国の菓子でありながら、何を材料にどう作られているのかを知らない。その気づきから、帰国後は和菓子店で腕を磨く道を選んだ。

もともと、物事の理由を知りたがる性格だという藤田さん。和菓子作りでも、なぜその形にするのか、なぜその色を選ぶのかと疑問を抱いた。さらに、果物や乳製品を取り入れれば、表現できる味はもっと広がるのではないか。フランス料理で培った知識が、和菓子の技法と結びついていった。

店名の『kashiya』には、そんな考え方が表れている。
和菓子か洋菓子かを区別するのではなく、どちらも同じ「菓子」。開店当初は和菓子の要素を取り入れることも意識していたが、やがて「和洋の融合」という言葉だけが先行することに違和感を覚えるようになったという。ジャンルを先に決めるのではなく、作りたい味や食感から発想する。それがこの店の自然な菓子作りなのだ。

kashiya店名
壁に掲げられた『kashiya』のロゴ。和菓子と洋菓子を分けず、自由な発想でおいしい菓子を作りたいという思いが店名に込められている。
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鴨川の近くで見つけた居場所

店を始める際、当初は京都の繁華街で物件を探していた。しかしなかなか条件に合う場所が見つからず、たまたま川端通から歩いてきた先で、空き物件に出合ったという。

思いのほか広い建物だったため、一人で店を営む予定だった藤田さんは、手伝ってくれる人を探すことに。そこで加わったのが中崎さんだ。

観光地の喧騒から少し離れた場所にある店内は、木造家屋ならではの落ち着いた空間。漆喰の壁に、ゆったりとした客席。開店当初は立地に不安もあったそうだが、今では近隣の客に加え、京都を訪れるたびに立ち寄る遠方の客も少なくない。街中から少し離れた場所だからこそ、時間を気にせず菓子を味わえる。偶然出合った建物が、いつしかこの店に欠かせない存在となった。

kashiya店内
木の柱や障子など、昔ながらの建物の趣を残した店内。ゆったりと配置されたテーブル席で、街中の喧騒を忘れてくつろげる。
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生地の味わいを楽しむ定番菓子

『kashiya』の菓子作りを象徴するのが、開店当初からの定番「白あんと黒豆のロールケーキ」だ。

一般的なロールケーキに多いふんわりと軽いスポンジとは異なり、こちらはしっとりとした生地が特徴。もともと生地の食感にこだわり、それを生かす形として生まれたのがこのロールケーキだという。白あんのペーストと生クリーム、黒豆を巻き込んだ一品は、生地の食感とともに、それぞれの素材の味が重なり合う。

季節には栗やいちじくなどを使ったロールケーキも登場するが、結局は定番に戻ってくる常連客も多いそうだ。

一方、和菓子の形や色だけでなく、味そのものにも新しい可能性を見いだしている。その一例が「季節のフルーツのういろう」だ。従来の和菓子では果物の姿を模していても、味は小豆や砂糖を中心としたものだった。ならば見た目だけでなく、味も果物にできないか。そんな発想から生まれた一品である。和菓子の技法にフランス料理で培った素材へのアプローチを取り入れる。藤田さんの自由な菓子作りが、ここにも表れている。

kashiyaロールケーキ1
開店当初から愛される「白あんと黒豆のロールケーキ」1,000円。しっとりとした生地に白あんと生クリーム、黒豆を巻き込んだ。
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kashiya陳列
店頭のショーケースには、季節の素材を使った菓子が並ぶ。訪れるたびに新しい味との出合いも。
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変化をきっかけに増えた焼菓子

開店当初から続く菓子がある一方、店の品揃えは少しずつ変わってきた。大きな転機となったのがコロナ禍である。店内での飲食が難しくなり、持ち帰りの菓子を充実させることになった。

そこで増えたのがクッキーやサブレ。なかでも「味噌とくるみのクッキー」は、甘さの中にほんのり塩味があり、くるみの食感も楽しい。バターの濃厚さを前面に出すのではなく、軽やかで、つい次の一枚に手が伸びる味わいだ。お酒のおつまみに選ぶ客もいるという。

こうした菓子は、客との会話を生むきっかけにもなっている。「何が入っているの?」「どんな味がするの?」。意外な素材の組み合わせに興味を持ち、店頭で尋ねる人も少なくない。

「ほかのお店でも買えるものを、わざわざうちで作る必要はないかなと」。 中崎さんの言葉からは、ここでしか出合えない味を届けたいという思いが伝わってくる。新しい菓子を増やすことも、単に品数を揃えるためではない。店ならではのおいしさを探し続けた結果なのだ。

kashiyaクッキー類1
個包装されたクッキーやサブレは、持ち帰りのおやつにもぴったり。今では店の定番となった。
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kashiyaクッキー類2
左から「アマゾンカカオのクッキー」400円、「味噌とくるみのクッキー」400円、「塩キャラメルの大豆サブレ」350円。
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日常のひとときに利用したいカフェ

店内はカフェとして気軽に利用でき、フランス料理で培った技術を生かした本格的なデザートを提供。繊細な盛り付けが目を引く美しい一皿は、テイクアウトの菓子とはまた違った楽しみを与えてくれる。ゆっくり過ごしたい午後には、コーヒーとともに味わいたい。

kashiyaコーヒー
一杯ずつ丁寧に淹れるハンドドリップコーヒー。香りを楽しみながら、店内で提供される美しいデザートとともに味わいたい。
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客との会話がつなぐ店のこれから

中崎さんは客一人ひとりに合わせた心地よい距離感を大切にしている。そんな日々の接客を通じて自然と顔なじみになる客も増え、何気ない会話が生まれることも。菓子を味わう時間とともに、気取らない雰囲気もこの店の魅力となっている。

実は二人とも京都に縁があったわけではない。それでもこの土地で商いを続ける中で、人と人とのつながりの強さを感じてきた。伝統を大切にする京都の菓子文化に触れながら、自分たちらしい菓子作りを続けている。

おいしい菓子を食べ、誰かと言葉を交わし、帰る頃には少し気分がよくなっている。そんな店でありたいという思いは、これからも変わらない。この店で唯一無二の菓子を味わいながら、ゆっくり過ごしたくなる一軒だ。

kashiya内観
カウンターの奥に広がる落ち着いた客席。木造家屋の温かみを生かした空間には、ゆっくりとお茶を楽しめる時間が流れている。
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