ザ・ポークSHOW──大阪『とんかつ康四郎』の「特上ロースかつ」

店主の川端友二さんは、焼きトンを関西に根付かせた立役者です。豚肉一筋30余年、その集大成として2023年、『とんかつ康四郎』を開店。カウンターで6品種の豚肉を食べ比べるとんかつコースは“ポークSHOW”のごとくエキサイティング。そのクライマックスに登場するワンデッシュが、「最近一番気に入っています」という“幻の豚”の特上ロースかつです。

衣の舞からサーブまで20分

中ヨークシャー純粋種のリブロースとロースは、すでに二口サイズにカットされている。打ち粉をし、溶き卵に潜らせたら、ふかふかの生パン粉のベッドへ。次の瞬間、店主の川端友二さんが魅せたのは、パン粉の舞だった!

「とんかつ康四郎」パン粉付け
打ち粉は小麦粉と「結着がよくなるので」卵白粉のブレンド。生パン粉は東京『中屋パン粉工場』からLかLLサイズの粗めを仕入れる。
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パン粉を付ける時に、豚肉を直接触らないようにしてるんです。全面にしっかり付着させながらも、空気を含ませたい。それで、パン粉を舞い上がらせながら付けるやり方を編み出しました。『康四郎』流? そうですね(笑)。とんかつ屋なので、パン粉もしっかりと味わってほしいと思ってます。『中屋パン粉工場』は発酵に時間をかけた生地から焼いてくれるので、パンに大きな空隙(くうげき)構造が生まれるんですね。そのパン粉を付けて揚げると、気泡に油が留まらず、油切れがよくなって、めっちゃ軽く仕上がるんですよ。

パン粉のベッドでしばし休ませてから、そーっと油に入れると…。
シーン。あの音が聞こえてこない。なんと油温は100℃という低温。その中で4分ほど“煮る”イメージで、まずは豚肉に優しく火入れをするのだという。

「とんかつ康四郎」100℃揚げ
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ジュッ! ようやく音が鳴ったのは、160℃の油に移した瞬間。バチバチッといい音色を奏でながら、揚げること1分。

「とんかつ康四郎」二度揚げ
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サーブまでに、さらにひと手間。旨そうな揚げ色が付いたとんかつをバットに上げると、そのままウォーマーへ。なんと、この温室の中で10分弱も休ませるという。

「とんかつ康四郎」ウォーマー
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100℃で“油煮”して豚肉にじっくり火を入れ、160℃で衣を仕上げます。最後に揚げ時間の倍以上、ウォーマーで休ませる工程が大事なんですよ。保温して余熱で火を入れながら、衣の油をしっかり落としていきます。とんかつという調理は、“衣から油をどれだけ出ていかせるか”が重要やと思うので。

豚で皆がしあわせに

ガシュッと衣を噛むと、リブロースにたどり着くまでがもう旨い。トーストを思わせる生パン粉の甘さと香ばしさが鮮烈だ。油のキレが素晴らしく、豚肉の脂だけを舌が感じ取る。そのリブロースの柔らかいこと! 溢れ出る脂の甘さに陶然となる。一方、ロースは弾力があって穏やかな旨みだ。リブロースとはパン粉の印象が異なる。改めて見比べてみれば、え! 色付きが違うではないか。

大阪「とんかつ康四郎」の特上ロースかつ
左がリブロース、右がロース。明らかに右の衣の方が色付きが薄い。
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うちでは、2%・4%・7%と糖度違いの3種のパン粉を使っています。糖度が高いと、揚げた時に色が付きやすく、風味も強くなるんですね。リブロースは味が濃いので、7%のパン粉を使ってたぬき色に揚げ、衣を主張させています。逆にロースは優しい味なので、肉の風味が負けないよう4%のパン粉を付けて、きつね色に揚げています。

「とんかつ康四郎」の3種のパン粉
左から糖度2%・4%・7%のパン粉。揚げると色付きが違い、それを「うさぎ色」「きつね色」「たぬき色」と表現。
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豚肉の持ち味に合わせてパン粉の糖度を変えるとは、川端さんのとんかつ愛には脱帽だ。聞けば、飲食業界に入ったのは17歳。地元・東大阪市のとんかつ屋のバイトからだったという。2003年、『焼きとん たゆたゆ』を天下茶屋に開業し、店舗展開をする中で、スペアリブや焼売の専門店も手掛けた。HPに記したキャッチフレーズは、「豚で皆がしあわせに。」。その集大成として2023年に大阪・南船場にオープンしたのが、『とんかつ康四郎』だ。

康四郎は、うちの親父の名前で。高校時代にとんかつ屋のバイトを紹介してくれたのが、親父だったので。そのまま就職して、21歳で「南海サウスタワーホテル大阪(現・スイスホテル南海大阪)」の洋食部門へ。精肉店が手掛ける“焼きとんとプチフレンチ”の店で豚ホルモンに出合って、31歳で専門店を開きました。今、僕は54歳やから、よぉ考えたら30年以上、豚肉と共に生きてますね(笑)。

大阪「とんかつ康四郎」の川端友二さん
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とんかつ6種、品種の食べ比べ

『とんかつ康四郎』のコースは全10品ほどで、6種のとんかつを軸に展開する。品書きには「岩中ポーク」や「薩摩茶美豚」「放牧どろぶた」などの銘柄豚の名が連なるが、川端さんが重視するのは品種。今回のワンデッシュに選んだのは、中ヨークシャー純粋種だ。はて、どんな豚なのだろうか。

中ヨークシャー純粋種
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イギリス原産の白色豚で、明治期に日本に初めて入ってきた豚です。かつては日本の豚肉の主流やったけど、昭和の時代に三元豚が導入されると急速に衰退して…。1995年には7頭まで減って“幻の豚”に。それを、豚博士と呼ばれる『富士農業サービス』の桑原 康さんが復活させたんです。柔らかくて、脂身に甘みがあって、融点が低いのでとろけるスピードが速い。僕が最近、一番気に入っている品種です。

『とんかつ康四郎』では、その日提供する豚肉の品種を、生肉を披露しながら解説。「三元豚は、ランドレース種と大ヨークシャー種、デュロック種の3品種を掛け合わせた交雑種で。日本人が一番慣れ親しんでいきた豚なんですよ」。銘柄よりも品種の方が個性が分かりやすいからと、寿司屋のように1カンずつ食べ比べを楽しませるコースを展開。その独自のスタイルが確立したのは、なんと『とんかつ康四郎』オープンの3カ月後だったという。

「とんかつ康四郎」の豚肉ラインナップ
左から、中ヨークシャー種、満州豚、三元交雑種(三元豚)、デュロック種、上級三元交雑種。この日は入手がなかったが、バークシャー(黒豚)も定番で置いている。
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僕は焼酎にもずっと注力してきたのですが、コロナ禍を経験して「酒を飲まない世の中になるかも…」と考えるようになって。それで自分の原点であるとんかつ屋をやろうと思い立ったので、初めはロースとヒレのカツ定食を売り出したんですよ。とんかつの現在地を知ろうと食べ歩く中で最新の技術に触れ、桑原博士の勉強会にも参加して。そこで1切れずつの食べ比べを経験し、これや!と思ったんです。「豚肉の味の半分は品種で決まる」という桑原博士の教えから、品種に注目して豚をラインナップするようになり、今のスタイルにたどり着きました。

特上ロースかつを豚醤で
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『とんかつ康四郎』には、今、とんかつ専用の焼酎がある。中ヨークシャー純粋種リブロースのタレは、裏なんばの『大阪焼売珍』開業時に探し求めた、なんと豚醤(とんしょう:豚肉から作った醤油)。好奇心旺盛に、ポジティブに、豚肉街道をひた走って30余年。その中で出合ったすべてのものが、川端さんの“ポークSHOW”を盛り立てている。

大阪・南船場「とんかつ康四郎」店内
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writer

中本 由美子

nakamoto yumiko

青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。