中華フグコースの主菜──大阪『空心伽藍堂』の「手羽先と河豚白子」

“前衛的中華”と称され、インパクトある独創性をさく裂させてきた大阪・北新地の『空心 伽藍堂(くうしん がらんどう)』の大澤広晃さん。昨年から始めた1・2月のコースは、なんとフグづくし。その主菜が今回のワンデッシュです。フカヒレ煮込みを詰めた手羽先を、白子のソースで。ひらめきを重ねて独立から21年、大澤さんが“創作の本質”を語ります。

中華でフグづくしのコース!?

北新地の中国料理店『空心 伽藍堂』では、フグをテーマにしたコースを1・2月に供している。中国では古代からフグを食してきたというが、その調理法は日本ではほぼ知られていない。あの淡く繊細な持ち味を、中国ではどんな料理にするのだろう。「実は、僕も知らないんですよ」。店主の大澤広晃さんが事も無げに笑って言うから驚いた。

中国の伝統的なフグ料理を僕なりにアレンジして…というアプローチではなく、日本人としての感性で一から考えてみました。大阪人はフグ好きですし、中華のフグコースってあまり聞かないから面白いなと思って。淡泊ながら深い旨みと、独特の弾力。トラフグの個性をきちんと表現できなければ中国料理にする意味がないので、かなり難しかったんですけど…。ゼラチン質の皮や、まろやかな白子も生かして、変化に富んだコースができたと思います!

大阪・北新地『空心 伽藍堂』の品書き
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前菜の「九品膳」には皮の煮凝りの一品を加え、客家(ハッカ)風と謳うスープはアラから取っただしで。身はアサツキの新芽とレアに炒めて、繊細な持ち味とプリッとした弾力を楽しませる。そして4品目。「フグコースの主菜です」と大澤さんが胸を張るのが、今回ワンデッシュ。主役は“海の宝石”と称される豊満な白子だ。

トラフグの白子
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白子なんで、白いものを合わせようかなと(笑)。白身肉である鶏の手羽先にフカヒレ煮込みを詰めて揚げ、白湯(パイタン)で煮た白子を裏漉しして滑らかなソースにしました。間には白いゆり根を忍ばせています。昨年、福井で若狭フグの養殖場を見学したんですよ。海で育てているので天然に近い身質と味わいで、白子もたっぷり入ってました! このトラフグでコースを仕立てています。

「空心伽藍堂」の「手羽先と河豚白子」
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白子を主役に、白を重ねる

白子のソースを絡めて、まずは飴色の艶やかな手羽先をガブリと一口。クリスピーな歯ざわりと、手羽の強靭な身質のコントラストが鮮やかだ。とろっと蕩け出たのは、フカヒレ煮込み。1本ずつの繊維を明確に感じつつ噛みしめれば、プンッと花椒の辛味が鮮烈に駆け抜けていく。

:「空心伽藍堂」のフカヒレ煮込みを詰めた手羽先
上湯(シャンタン)と金華ハムで煮込んだフカヒレを、骨を抜いた手羽先に詰める。口を閉じ、湯をした後、水飴をかけて乾燥させること一晩。卵白を塗って、さらに6時間ほど乾燥させたものが左。
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フカヒレ煮込み手羽先を揚げる
低温の油から徐々に温度を上げて、じっくりと揚げる。一度、油から上げ、余熱で火を入れる。
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フカヒレ煮込み手羽先の二度揚げ
油の温度を上げ、表面をパリッとさせるべく二度揚げして完成。
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フカヒレ煮込みを詰めた手羽先の一品は、中国ではお祝いの席や豪華な宴の料理として知られています。主菜ですから、手間をかけた贅沢な一品にしたくて。パリッとした歯触りを楽しんでいたくのに、水飴でコーティングして1日半は乾燥させてから揚げてます。旨みが凝縮されてますから、それに負けないよう、白子のソースは白湯で煮てから、さらに上湯を合わせて、リッチに仕上げました。

フグ白子のソース
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『空心伽藍堂』の上湯は、金華ハムと干し貝柱、親鳥、牛肉、豚の塊肉を6時間かけて煮出した“旨みの塊”だ。その贅沢なスープを白子のまったりとミルキーな味わいに重ね、主役感を高めている。しみじみと深い滋味の余韻が、驚くほど長い。そこに、白のサプライズ。シャキシャキ感に目を瞠ったのは、ゆり根。その甘みの強さに、さらに驚嘆。まるで果実だ。

熟成ゆり根なので、甘みが強烈でしょう。一瞬だけ油で火入れして、食感のポイントにしました。 僕は、外食の料理にはエンタメ性が必要やと思うんですよ。美味しいだけでなく、面白い!と楽しんでいただきたい。それで「誰もやっていないこと」にチャレンジし続けてきたのですが、ここ数年は日本らしい季節感をもっと取り入れたいなと考えていて。春の山菜や鱧、鮎など日本には魅力ある食材がいっぱいあるので。フグコースは昨年から始めたのですが、冬の定番にしていきたいですね。

ゆり根を揚げる
高温の油に熟成ゆり根を入れてほんの数秒。この瞬間火入れがシャキシャキ感を創る。
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ひらめきを重ねて“創作の本質”へ

大澤さんは、型にとらわれない料理人だ。なんと中国料理は独学。自由に、奔放に、そして大胆に、定番中華を大澤流に創作してきた。角煮風の酢豚や、タラの白子を使った麻婆、ピーマンと牛の塊肉を盛り合わせた青椒肉絲。インパクトあるアラカルトを次々と展開し、2005年に開店した新町『酒中花 空心』は、瞬く間に人気店へと駆け上がっていった。

小さい頃、外食で中華に行くと楽しかったんですよ。家族もみんな喜んでいて。その姿を見て、中華の料理人になろうと決めました。調理師専門学校に2年通って、中国料理店に就職したんですけど、すぐ辞めてしまって…。先輩と小籠包店をやることになって、上海で半年ほど学んだくらいで、あとは独学です。その店が3年で閉店したので、27歳で独立。修業という修業をしていないので、僕にはバックボーンがない。逆にそれが強みになりました。思いついたことは何でもやってやろう、という気概で今日までやって来ました。

「空心伽藍堂」店主・大澤広晃さん
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2022年、新町から北新地へ移転拡張し、アラカルトからコースへ。屋号を『有 伽藍堂』から『空心 伽藍堂』へ変えたり、ソムリエによるペアリングを展開したり。ここ3年でも変化がすさまじい。大澤さんの下を巣立った料理人は、西天満『月泉』や谷四『中国料理 食生々』などの人気店の主ばかりだが、その誰もが口を揃えて「大澤さんのひらめきは凄かった!」と述懐する。

有難いことに、前衛的やとか、イノベーティブなんて言われましたが、狙ってやって来たワケではなくて(笑)。ふざける、と言ったら聞こえが悪いですけど、面白いことを考えるのが好きなんですよ。“誰もやっていない”料理っていうのが、独学の僕の原動力だったかも。今は“創作中華”が自分のフィールドだと思ってます。

大阪・北新地「空心伽藍堂」の店内
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ひらめきを武器に、前人未到の中華を次々と展開し、独立から21年。「手羽先と河豚白子」は確かに独創的だが、「白子の持ち味を生かすスープの加減が難しかった」と語るところに、大澤さんの現在地がある。素材の個性を輝かせてこそ、創作。思い付きを重ねてたどり着いた“創作の本質”が、中華のフグコースには散りばめられている。

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writer

中本 由美子

nakamoto yumiko

青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。