鮮魚の“和伊料理”復活!──大阪・同心『alcentro』の「魚料理3種盛り」

“和食とイタリアンの融合”を謳い、魚介を軸に季節感ある料理で話題をさらった『alcentro(アルチェントロ)』が、2025年10月、創業の地である大阪・同心に帰ってきた! 当初からのコンセプトはそのままに、店主・本窪田雅文さんがワンオペで挑む原点回帰。和食の仕事を巧みに取り入れた魚料理3種盛りに、“和伊料理”極まれり。

料理本を片手に始めたイタリアン

天神橋商店街を東に入った同心に、“和食とイタリアンの融合”を謳うトラットリア『alcentro』がオープンしたのは1997年。関西がイタリアンブームに沸いていた最中のことだった。1年も経たぬうちにランチ時に行列ができ、マスコミを賑わせ、本窪田雅文シェフは一躍時の人に。2000年には『スフィーダ』、翌年にはブーランジェリーとパティスリーの『レガーロ』を手掛け、瞬く間に店舗を展開。最盛期は、はて何軒あったのだろう。その勢いは凄まじかった。

炭焼きイタリアンに、寿司とイタリアンの『海櫻(かいおう)』、カフェも、テイクアウト専門店もやりましたね。ウニ料理とトリュフ卵かけご飯の『T.T.T』に、関空のパスタ屋…。10店舗以上はあったと思います。でも、コロナ禍の前に全て手放しました。仲間と焼肉店を開いて、難局をしのいで…。ジェットコースターみたいな料理人人生ですよ(笑)。

『alcentro』店主・本窪田雅文さん
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学生時代の本窪田シェフは、かなりヤンチャだったらしい。高校を退学し、10代半ばで職を求めて地元の兵庫・龍野から大阪へ。ミナミの飲食店にバイトで入り、昼間は営業から運転手まで、食うためには何でもやったと笑う。「雑用係でしたけど」和食店にも2年。「まかないで肉が食べられるかなと思って」ステーキハウスで働いたり。あらゆるジャンルを経験し、イタリアンに行き着いた。

オープンしたばかりのイタリアンを手伝ったのがきっかけで。経験がなかったので、「イタリア人のイタリア料理」という本を片手に、見様見真似でやりました(笑)。いろんな店にも食べに行って、刺激を受けて。そんな中で、パスタって美味しいなーとしみじみ思ったんですよ。イタリアンってカッコいいし、やれるんちゃうかなと、27歳で独立。同心は年配の人が多いと勝手に思い込んで、魚料理をメインにしたんですけどね。無謀なスタートでしたねぇ。

「alcentro」の外観
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和食の仕事が光る 3種3様の魚料理

当時、『alcentro』の近くにとてもいい鮮魚店があった。和食の心得があった本窪田シェフは、牛の生肉で作るヴェネツィアのカルパッチョを魚介で大胆にアレンジ。今ではすっかり定着したスタイルだが、90年代は斬新な発想だった。「こんな魚、イタリアンで使うの?」と驚いていた鮮魚店の主も、その一品を食べて納得。上物を回してくれるようになり、本窪田シェフの魚介料理は充実の一途を辿っていく。

イタリアで修業したわけでもなく、名店の出身でもなかったので、お客様に随分と鍛えていただきました。食通の名士が集うワイン会の方々が通ってくださって、「ええ塩を使った方がいい」「こういう料理はできへんか?」と助言をくれて。その方々にイタリアワインをお勧めするため、猛勉強もしました。魚介を軸にして良かったなと思っています。季節感を表現できますし、本場とは違う僕らしいイタリアンを突き進めてもいけたので。

大阪「alcentro」の魚料理
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今回のワンディッシュは、3種3様の旬の魚介料理の盛合せだ。主役の金目鯛は、なんと和食の蓮根饅頭の生地を塗って焼き上げている。その生地に忍ばせたパルミジャーノが蓮根の香ばしさをググッと持ち上げ、旨みを倍増させている。

金目鯛の蓮根饅頭焼き
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ムチっとした食感は、毛ガニの真薯(しんじょ)。これまた、和食の仕事だ。天然の真鯛ですり身を作り、蒸した毛ガニのほぐし身と合わせる。足の身にのせ、茶巾にして蒸す。そのまま煮物椀の椀種にしてもおかしくないほど、真っ当に手をかけている。

毛ガニの真薯
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サワラは真鯛のだしでヴァポーレ(蒸し煮)にしています。僕は鯛でも丸1尾買うので、頭を湯通し、中骨は軽く焼き、昆布で15分ほど煮出して、だしを取るんですよ。今はここに兵庫の八代オクラを刻んで加え、そのとろみでまとめています。真薯も一緒に軽く炊いて、盛り合わせました。

サワラのヴァポーレ
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季節感のある“和伊料理”の向かう先

サワラは中心部がレアで、しっとりと絶妙な火入れだ。オクラの粘りがとろみとなって、真鯛のだしがしっかりと絡み、旨みに奥行きを与えている。真薯は心地よい弾力で、噛めばほわっと毛ガニの風味が広がる。皿の底に忍ばせたのは、スダチの品のいい酸味と香味。金目鯛の蓮根饅頭焼きのパルミジャーノと、仕上げに回しかけたオリーブ油でイタリアンテイストにまとめた和伊折衷。本窪田シェフの真骨頂だ。

3種の魚介は、焼く、蒸す、煮ると調理法を変えてます。食感の違いを楽しんでほしいなと思って。僕がちょっとずついろいろ食べたい方なので、魚料理は盛合せが定番になってます。今は料理を作っているだけで楽しいんですよ。でも、ほぼワンオペですから、お客様をお待たせしないように必死ですけどね。

大阪「alcentro」の店内
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『alcentro』は、2025年10月、創業の地に戻ってきた。多店舗展開をし、経営者としても手腕を発揮した本窪田シェフだが、今はここ一軒に全勢力を注いでいる。調理もサービスもほぼ一人。50代半ばでの再スタートだ。コンセプトは独立した時と同じ。魚介を軸に、和の要素も取り入れた“和伊料理”。コースには、あの鮮魚のカルパッチョも健在だ。

ここを最後の店にしようと思っています。もう一度、『alcentro』をやりたかったんですよ。センター(中心)という意味のイタリア語は、ヨーロッパの街の中心にある広場のイメージで。子供から30年来の常連さんまで、いろんな人が気軽に集ってくれたら嬉しいなと思って。いずれは、お勧めの食材をお伝えして、即興で作るアラカルトもやりたいんですよ。それが僕の目指す最終形ですね。今は6席を回すだけで精一杯ですが、少し落ち着いたら若い子を雇って、一人でも、二人でも育てていけたらと思ってます。

「alcentro」看板
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実は、かつて本窪田シェフが店舗展開をした背景には、人材育成があった。魚介の扱いをきちんと教えようとプロを雇って魚の処理を行う『魚雅』を作り、パン屋をやりたい子がいれば、パン職人を雇ってブーランジェリーを開き、学びの場を作る。その繰り返しだった。すべてを手放すという難局を乗り越えてなお、人を育てたいと本窪田シェフは破顔する。再始動した“広場”には、ポジティブで温かな気が満ちていた。

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writer

中本 由美子

nakamoto yumiko

青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。

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