宝塚『菅屋』の金覆輪【シェアしたい和菓子①】

個包装が主流で、「一人一個」が当たり前になった、昨今の手土産事情。
もちろんオフィスや大人数への差し入れなどは、そのスタイルの方が何かとスマートなのは間違いない。が、分け合うことさえ効率化されてしまったようで、少し寂しく感じることもある。

ときには包丁を入れる瞬間のワクワク感、断面の美しさに声を上げる驚き、「こっちの方が大きい」なんて笑いながら分け合う時間があってもいい。そんな豊かさを、もう一度手土産に添えてみてはどうだろうか。
兵庫県宝塚市に、そんな時間を運んでくれる和菓子がある。
『寶菓匠 菅屋』の代表銘菓、「金覆輪(きんぷくりん)」だ。

会話の生まれる手土産を

直径約7センチ、ずっしりと手のひらに重みを感じる円筒状の和菓子。
手触りの良い包みを開くとまず現れるのは黄色く輝く生地。上面の真ん中には金箔があしらわれ、なめらかに整えられた姿は凛としていて美しい。

金覆輪
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ぱっと見はハイブランドの石鹸のよう。
硬そうに思えるが、触れてみると、絶妙な加減で押し固められた砂像のような質感であることが伝わってくる。無意識のうちに扱う手つきがやさしくなってしまうはず。 これを、4つに切り分ける。

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包丁を入れると、黄色く輝く黄身餡のなかに十勝産小豆のこし餡の層が現れる。そして芯には、大粒の極軟栗がまるごと一つ。
「わあ、栗が入ってる」 「こんな大きいの、初めて見た」
「なんていうお菓子だっけ、えーっと…金輪際(こんりんざい)みたいな名前の…」
「金覆輪(きんぷくりん)だよ!もぉー、いい加減おぼえてよ(笑)」

切り分けた瞬間、自然と会話が弾む。それが、金覆輪の持つ力だ。

包丁を入れると、輝く栗が。
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一切れを崩れないように、そーっと口に含む。途端にさらりとほどけ、フワッと軽やかな黄身餡と小豆のこし餡が舌の上に広がっていく。
裏ごしした栗や卵黄を手芒豆(白インゲン豆)に加えた黄身餡は、甘さの中に動物性のコクがあり、どこまでもピュアな味わいの小豆こし餡に奥行きを与えてくれる。そして、極限までやわらかく仕上げた栗の食感と自然な甘み。それらが重なり合い、三位一体のハーモニー奏でる多幸感は一度味わえば、忘れることができない。

実は黒文字楊枝でも分けられるほど繊細で柔らかい。
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分け合うために生まれたお菓子

菅屋は1970年の創業より、地元・宝塚の人々に愛されてきた和洋菓子店だ。「法事やお祝いには必ず菅屋」という声も多い。
同店のスペシャリテとして3年の試行錯誤を経て、1992年に販売された「金覆輪」。その名は、高貴な方々の調度品に金箔の装飾を施したことに由来する。仕込みに5日間、手間を厭わず丁寧に作られるこのお菓子にぴったりの名だ。
漢字で書くと厳かな雰囲気があるが、声に出して読みたくなる音のかわいさとのギャップもいい。

金覆輪1個630円。化粧箱入り(2個)1430円。日持ち7日間(要冷蔵)。
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公式サイトには「四等分にお切りいただき、その場の皆様で和んでいただければ」という言葉が添えられており、この和菓子が、誰かと分け合うために生まれたことが伝わってくる。

四等分がベストではあるが、円形の良さは、多少切り分けの数が前後しても対応できるところ。
手土産としてもおすすめしたいポイントだ。
また、最後の最後で「シェアして食べたい和菓子」という主旨とは逆行してしまうが、ご褒美として独り占めするのもアリ寄りのアリである。

writer

かがたにのりこ

kagataninoriko

月に2度、あんこを炊くあんこ熱愛ライター。各種媒体での和菓子に関するインタビュー記事やコラムを執筆。ライティングの他にも、あんこの食べ比べワークショップや、和菓子イベントのコーディネート、商品プロデュースなど活動は多岐にわたる。