兵庫・元町『MOTOMACHI CAKE』。家族集まる中心にいつもあるケーキ「ざくろ」

「ママの選んだ元町ケーキ」というフレーズでお馴染みの『MOTOMACHI CAKE』。創業は1946年。今年で80周年だが、これは伝え聞く話から推測できる、おおよその創業年だそう。とはいえ戦後間もない頃から今日に至るまで神戸の人々に愛されるスイーツを届けてきたことに間違いはない。

神戸っこ定番のケーキは生年不明⁉︎

3代目店主の大西達也さんによればーー。『元町ケーキ(現MOTOMACHI CAKE)』創業者の向井克昌さんは、和菓子の丁稚修業に出ていた。その後の経緯は不明ながら、戦前、洋菓子の技術指導を行うため中国に渡り、そのまま青島に店を構え、繁盛していたという。
戦争が起こり、一時は捕虜にもなったが、なんとか帰国できた。神戸の空襲の後、今の北野界隈で拾ったオーブンを使って菓子づくりを始めたのが『元町ケーキ』の起こりとのこと。物がない時代。手に入る素材で作ったシュークリームやエクレアをリヤカーに乗せて売り歩いていた。2代目の向井和人さんの幼少期の記憶を聞いた話だ。

“ママが選んだ”というフレーズも、創業者の考えた言葉だろうと大西さん。お母さんが子どもに食べさせたいと思えるような菓子を作るという信条から、店名の枕詞として付け、それが定着したもの。 店を代表するケーキの「ざくろ」も、いつから作られ始めたのか、定かではない。

兵庫・元町『MOTOMACHI CAKE』ざくろ
看板商品の「ざくろ」は390円。
10
兵庫・元町『MOTOMACHI CAKE』外観
元町商店街の外れにある店。初代は当初、近くの米屋の一角を間借りしてケーキを作り、リヤカーで売りに行っていた。その後現在の場所に店舗を構えることができた。
10

平日でも800〜1000個製造

見た目が、熟したざくろの実が弾けた形に似ていることから初代が名付けたケーキだ。
今でも時折「ざくろの果汁や実が入っているんですか?」と聞かれることもあるという。

スポンジケーキの中に生クリームを包み、中心にイチゴを1つ。仕上げに粉糖を掛けたシンプルな構成の生ケーキ。和菓子の包餡作業をヒントに洋菓子に置き換えて考えられたものだ。これが大ヒット。家庭用に買い求める人が多く、平日でも800〜1000個。家族が集まる年末年始の帰省の時期がピークで1日2000個製造する。

魅力は、ペロリと平らげた後、もう1個食べたいなと思わせる絶妙なバランス。食後感が重すぎず軽すぎず。普通の日、ちょっとした自分へのご褒美として食べたいケーキ。知人宅を訪ねる時や「お茶の時間にどうぞ」と、取引先へ差し入れするにも気張りすぎずちょうどいい。

兵庫・元町『MOTOMACHI CAKE』ざくろ
シンプルで、子どもから年配の方まで食べ手を選ばない。
10
兵庫・元町『MOTOMACHI CAKE』
ショーケース中段はすべて「ざくろ」だが、取材時も、平日にも関わらず次から次に来店し、ほとんどの人が「ざくろ」を購入。
10
兵庫・元町『MOTOMACHI CAKE』看板
元町本店には、セルフサービスのカフェがありイートインも可能。
10

作り続けるからおいしくできる

土台のスポンジは、ジェノワーズ生地。平板に流し込んで焼いて、1個分のサイズにカットする。その中心にナイフでバツ印に切り込みを入れて、生クリームを絞って包む。

空気を含んだジェノワーズ生地の口当たりはふかふかと軽く、味わいは卵のコクを感じる。生クリームは3種類をブレンドしたもので、時間が経っても脂っぽくならないように調整している。「風味はあるけれど、脂肪分が出過ぎないようにバランスをとっているので、生クリームが苦手な人でも食べられます」と大西さん。往年のファンが多いため、配合を見直す際も何度も何度も試作して「味が変わった」と言われないように気を遣う。

「ざくろ」の製造は大西さん含め、4〜5人の職人の手作業で行っている。これほどの数を手作業でとは脱帽だ。生地を合わせた時、店舗へのお客さんの出入りが多い日などは、厨房内の気温も微妙に下がるそうで、そういう場合は仕立て温度を微調整する。「毎日作っているからこそ、分かることもあるし、おいしく作れるようになるんです」と語る。

兵庫・元町『MOTOMACHI CAKE』ざくろ、俯瞰
10

買い求めやすい価格を維持する

2025年の秋に値上げをしたという「ざくろ」は、1つ390円だ。全ての原材料が値上がりしているこの時代に、500円を超えないケーキはむしろ希少。
20年前は1個245円で販売していたという。それが時代に応じて260円になり、280円、295円、330円とできるだけ小刻みに価格を抑えて粘ってきた。それは「毎日家族で食べられるように」という先代からの菓子づくりの信条によるもの。

取材時に3世代で来店したお客さんも「人数分、あ、お父さんのお仏壇にも1個お供えせな怒られるね!」と笑顔で話しながら、お父さんもかつて好んだのであろう「ざくろ」を人数分プラス1個買って行った。こんなにも長く家族の物語のなかに居続ける生ケーキがあるだろうか。

兵庫・元町『MOTOMACHI CAKE』ざくろ、ショーケース
10

「ざくろ」が買える場所は

『MOTOMACHI CAKE』元町本店のほか、芦屋店と、大丸神戸店でも購入できる。
生ケーキのため要冷蔵で、賞味期限は当日中。

兵庫・元町『MOTOMACHI CAKE』店内
10

編集部選☆間違いない関西手土産

詳しくはこちら

writer

三好 彩子

Miyoshi Ayako

愛媛県生まれ。関西の飲食店の皆様に育てられ、丸々成長した食いしん坊フードライター&編集者。特技はレストランの厨房に潜入取材をすることで、調理師免許も取得。イベント司会や企業のプロモーションも担う。共著書に『ご当地グルメコミックエッセイ まんぷく神戸』(株式会社KADOKAWA)がある。