できたての粘りを味わう、『京都北野 煉屋八兵衛』の「黒本蕨もち」

黒みを帯びたわらび餅をスプーンですくえば、つややかな生地がゆっくりと伸びる。希少な秋田県産本蕨粉を100%使い、釜で火を入れながら仕上げる「黒本蕨もち」は、弾力と口どけを両立させた食感が持ち味だ。時間とともに変わる菓子だからこそ、できあがりからのひとときまで含めて味わいたい一品である。

看板菓子を生んだ材料への探究心

2012年5月に開業したこちらは、蕨もちを中心に、プリンなどまで手がける菓子店。店主は、もともとは別の仕事をしていたが、親戚が始めた店を手伝ううち、そのまま店を担うことになった。また菓子の素材に関する知識もあったことから、店を引き継いですぐに菓子づくりを始めたという。

開業当時、本蕨粉を100%使ったテイクアウトの蕨もちはまだ珍しく、「看板メニューになるな」と商品化されたのが「黒本蕨もち」だ。ところが、蕨もちは時間が経つと、でんぷんの老化によって粘りや食感が変化する。そこで蕨粉について検討を重ね、現在使っている秋田県産の本蕨粉にたどり着いた。

秋田県産の本蕨粉はわずかしか採れず、原料そのものが希少だ。「世の中に出回るのは鹿児島県産が多いんですが、秋田県産のものは自然の味みたいなところがある」とのこと。素材を知り尽くしてきたからこそ選んだ一品だ。

煉屋八兵衛内観
アットホームな店内。店主1人で製造から販売まで担う。
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煉屋八兵衛看板
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火入れで決まる、艶と弾力

「黒本蕨もち」の仕込みは、釜で少量ずつ練り上げる釜練り製法。量が多い場合も一度に仕込むのではなく、熱の入り方を見ながら2〜3回に分けることがあるという。気温によっても仕上がる速さが変わるため、決まった時間だけ火にかければよいというものではない。

特に重要なのが火入れだ。蕨もちは火の入り方や水分量によって、時間が経った後の状態が変わる。同店が目指すのは、作った直後だけおいしい配分ではなく、持ち帰った後もできるだけ食感を保てる仕上がりだ。

練り終わる頃には、驚くほどの粘りが出る。その状態を重さや感触から見極めるのも、手仕事ならではのところ。一定以上の火入れをしながら、納得できる状態まで練り上げる。

しっかり火を入れることで、生地には光沢が生まれる。つややかな見た目に加え、弾力がありながら口どけは軽やか。機械で練るのとは異なる、釜練りならではの粘りとコシが、この菓子の大きな特徴になっている。

煉屋八兵衛黒本蕨もち
艶やかな黒みを帯びた「黒本蕨もち」。釜練りによる粘りとコシが持ち味だ。
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黒本蕨粉100%の味わい

口にすると、まず感じるのは、ぷるんとした柔らかさの中にある確かなコシ。スプーンですくうと生地がまとわりつくように伸び、口の中ではゆっくりほどけていく。わらび餅らしい弾力を楽しみながら、後には重さを残さない。

秋田県産本蕨粉ならではの風味も特徴だ。甘味をつけた菓子でありながら、原料そのものを感じさせる風味がある。黒みがかった自然な色合いも、着色によるものではなく、本蕨粉そのものを生かしたものだ。

おすすめは、できあがってすぐに持ち帰り、常温でいただくこと。練り上がった直後はまだ少し温かく、冷めてくるにつれてコシが出てくるため、食べるタイミングによっても印象が変わる。

添えられるきな粉は、砂糖は加ず焙煎による香ばしさを生かしている。蕨もちそのものに甘味があるため、きな粉を重ねても甘さが強くなりすぎず、香ばしい風味が後味を引き締める。温かいお茶を添えれば、黒本わらび粉の風味ときな粉の香りをゆっくり楽しめそうだ。

煉屋八兵衛黒本蕨もち2
スプーンですくうと、柔らかな生地がゆっくりと伸びる。できたてならではの表情。
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煉屋八兵衛本蕨粉
「黒本蕨もち」に使う秋田県産の本蕨粉。希少な素材を100%使って仕上げる。
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煉屋八兵衛きな粉
「黒本蕨もち」に添えるきな粉。砂糖を加えず、焙煎による香ばしさを生かしている。
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できたてという時間も味の一部

「黒本蕨もち」は予約の時間に合わせて仕込む。先に作っておいて受け渡すのではなく、購入する人が来る時間を見ながら釜にかけるため、注文の数だけ仕上げるスタイルだ。

おいしく味わえる目安は、練り上げてから約6時間。時間が経つと粘りが少しずつ失われ、食感も変化していく。これは保存性を高めることより、できあがった蕨もちのおいしさを優先した結果ともいえる。

一方、通常のわらびもちには本わらび粉にほかのでんぷんを合わせ、日持ちを2日間にしている。日常のおやつとして選びやすい存在だ。対して「黒本蕨もち」は、時間を合わせて受け取り、その日のうちに楽しむ菓子。食べるまでの時間まで含めて、一つの商品として設計されている。

煉屋八兵衛わらびもち
きな粉と抹茶をまとったわらびもち。通常のわらびもちも店の味として人気。
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煉屋八兵衛わらびもち2
こちらも最高級の国産黒本蕨粉を使用するというこだわり。
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菓子を残すため、手間を惜しまない

「黒本蕨もち」は価格帯もあって通常のわらび餅ほど数が出る商品ではないが、遠方からわざわざ求めに来る人もいるという。

同店が気にかけているのは、菓子そのものだけではない。材料を採る人や職人が減れば、これまで作られてきた菓子も続けられなくなる。「素材が絶えるということは商品が絶えるということ」。その言葉には、菓子を作る技術だけでなく、それを支える材料まで含めて残していきたいという考えが表れている。

希少な材料を使い、手間のかかる釜練りを続ける「黒本蕨もち」は、そんな姿勢を最も端的に伝える一品なのだ。

できたてならではの粘り、秋田県産本蕨粉の風味、釜練りによる艶とコシ。時間が経てば食感が変わるからこそ、手にしたその日のうちに味わいたい。京都でしか出合えない蕨もちを求めて足を運ぶなら、予約の時間まで含めて、この一菓との出合いを楽しみたい。

煉屋八兵衛店名
店先に掲げられた「京都北野 煉屋八兵衛」の看板。素朴な木の風合いが印象的。
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編集部選☆間違いない関西手土産

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