大阪・本町『うどん処 重己(しげみ)』のグビグビいきたい冷やかけ

大阪・本町『うどん処 重己(しげみ)』のグビグビいきたい冷やかけ

曽束政昭の「一麺口福」

2022.09.05

文:曽束政昭 / 撮影:下村亮人

うだるような暑い日が続いた2022年の夏。ビジネス街での蒸し暑さは凄まじかった…。いかに食いしん坊ライターを名乗るこの身であっても、アスファルトから立ち上る熱気は食欲をすっかり奪ってしまうのでした。が、そんな記憶とバテた身体をシャキッと覚醒させてくれるのが、キンと冷えたこの一杯。

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うどん激戦区の大阪・本町に新たなる風 最後の一滴まで飲み干したい、黄金だし 店舗情報

うどん激戦区の大阪・本町に新たなる風

猛暑に限らずご時世もあって、マスクがあるものだから、呼気でメガネが曇って視界まで奪われ、ある意味幻想的な世界感さえあった。だが、延びた麺のようになった心身をリセットしてくれたのが、この「冷やかけうどん」だ。

関西讃岐うどん店の中でもまだ若い店なれど、店主・小川友作さんは、大阪・中津の『たけうちうどん店』などで修業した後、本場香川の名店『一福』でも経験を重ねた。そして、2018年に船場センタービル内に『うどん処 重己』をオープン。

大阪・本町『うどん処 重己』店内『うどん処 重己』店内の様子。カウンター6席、テーブル16席。

『うどん処 重己』では、センパイ格の大阪・梅田『きすけ』の影響で、途中から九州産小麦「チクゴイズミ」を導入した。博多のうどんといえばやわやわであるが、こちらはなかでもモチモチで、だし絡みがよいタイプ。九州地粉の特性上、モチモチでしなかやかなコシのうどんになるのである。

ここ数年、関西讃岐うどんの世界では「ドゥルン」とした食感のうどんが流行しており、粉を選んだり、圧力釜を導入するなど工夫を凝らす店も増えている。さらには、本場讃岐でも剛麺ではなくしなやか系の麺を打つ新店が増えている。ガシガシの剛麺の時代から、新しい食感のうどんを求める人が増えており、この店は数歩先をいっていたのだ。

最後の一滴まで飲み干したい、黄金だし

大阪・本町『うどん処 重己』冷やかけ750円冷やかけ750円。シンプルの極み。ダシもうどんもよく分かる。

艶やかで少し透明感があるうどんは、唇に触れるとひたひたとした快感で、もっちりしながらも跳ねてくれる。口の中で踊らせた後、喉を過ぎるも、チュルリとした二度目の快感が訪れる。

そして着丼からすぐに予感していた“だし感”が共に広がる。この黄金のだしがキンと冷や冷やで、スモーキーな風味が漂う。関西人の口に合うよう、イリコを用いずに昆布、ウルメ、鯖節を合わせてある。讃岐で覚えただしが、大阪の水では思うように出なかったため、結果的に関西人向けの味になったという。

薬味も最小限でよく、ネギとショウガが別皿で添えられるが、途中ほんの少し足す程度で充分だ。

むっちりとした鯛ちくわ天と、じゃこご飯などをセットで食べた。うどんをすすり終わった後に腹具合は充分満たされているのに、最後にだしを飲む。最後の最後までいいだし感は、頭部全体を旨い風味のオーラで包んでくれるかのようだ。

大阪・本町『うどん処 重己』冷やかけの薬味(ネギ・ショウガ)、セットの鯛竹輪の天ぷらと、じゃこご飯。冷やかけの薬味(ネギ・ショウガ)(左)、セットの鯛ちくわ天180円(中央)と、じゃこごはん300円(右)。

真夏のかき氷が暑さを吹き飛ばすなら、この冷やかけのだしは、身体の隅々にまでミネラル、カルシウム、塩分を運び、暑さで失われたものを補充してくれる。

いいだしを飲むとカラダが喜ぶ体質で、指先にまで覇気がみなぎり、「その瞬間だけ大阪マラソンを完走できる気になる」ほど。そんな風に小川さんにも伝えたが、食べる度に言うと「また同じこと言うてるわ」とあきれられてもいけないので、最近は控えている。

■店名
『うどん処 重己』
■詳細
【住所】大阪市中央区船場中央2-1-4 船場センタービル4号館B2
【電話番号】なし
【営業時間】11:30~14:30
【定休日】木曜、日曜、祝日
【お料理】ぶっかけ750円、きつね800円、肉うどん1300円。瓶ビール中580円。

あまから手帖/2021年5月号

ランチの答え

古民家レストランや郊外ランチ、実力店の移転情報など、美味しいもので心を満たしたい今にぴったりのランチをご紹介。

Writer ライター

曽束 政昭

曽束 政昭

Masaaki Sotsuka

京都府出身。関西のラーメンを中心に、うどんや蕎麦にも精通する、言わずと知れた麺ライター。「最近は食が細くなった」と話すも、「2杯ずつ連続2軒の取材なら守備範囲」。コメンテーターやレポートなどマルチに活躍中。

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