秋ナスを超簡単&超本格的なインド家庭料理で味わうの巻

秋ナスを超簡単&超本格的なインド家庭料理で味わうの巻

カワムラケンジの「スパイスな一皿」

2022.09.07

文 / 撮影: カワムラケンジ

秋ナスという品種があるのかと思いきや、どの品種であれ、9、10月に収穫するナスのことを言うんですってね。そして、これが真夏に収穫したものとは別物の美味しさでびっくり。ベリーシンプルなスパイス3種を使って、インド家庭料理にしちゃいましょ!

目次

ナスの切り戻しにドギマギ インド人が大好きなダル(豆)を使って 「秋ナスとダルの煮込み」レシピ スパイスは3種だけ、がポイント

ナスの切り戻しにドギマギ

どうも僕はナスを育てるのが苦手っぽい。
昨年は、病害虫に強いはずの接(つ)ぎ木苗の千両ナスを植えたのですが、直系10㎝ほどの丸型ばかりできて、なぜか実が破裂してたり、傷だらけだったり。切ると断面がすぐ茶色くなり、どうしたってアクが抜けず、とても食べられやしない。

畑の諸先輩たちに聞いてもみんな首を傾げるばかり。で、今年こそはと奮起して、3種類全16本の実生(みしょう)苗を5月上旬に定植したわけです。
6月下旬から、千両ナス、賀茂ナス、長い筑豊ナスの順に育っていき、おお!今年はイケてる、と思ったのもつかの間。7月に入った途端に傷や虫が増えて、特に千両は小粒だし、傷だらけだし、硬くて美味しくない。

腕を組んで唸っていると、ニシダ師匠のお仲間であるコダマ姐さんがやってきました。この方は有機無農薬・低農薬栽培の野菜を専門とする兼業農家です。

「もう葉も落ちてしまってボロボロやないの。これは肥料と水が足りてないねん。弱らせてしまうと虫もどんどんやってくる。ちょっと早いけど切り戻した方がええよ」。

切り戻しとは。ナスの場合、夏真っ盛りに成り疲れと言って勢いが落ち、実つきが悪くなることがあり、その際に枝をバッサリ切り落としてしまうこと。更新剪定(せんてい)とも言います。切り戻すことで再生させる、いわゆるリセットができるわけですね。

「お陽さんがよく当たるように、風通しも良くしてあげること。ナスは暑い時にぐんぐん大きくなるから、もしかしたらすぐに復活できるかもね」。

すると…コダマ姐さんの予言通り、切り戻して20日後の8月中旬、なんとなんと3種類とも紫色の花が咲き、ツルテカに光る立派なナスがぶら下がっているではないですか! まだまだ暑いけど、これを秋ナスとして僕は収穫したワケです。

カワムラケンジさんの育てた千両ナス

インド人が大好きなダル(豆)を使って

超せっかちの秋ナスは、皮が柔らかで、肉質しっとり。旨みも充実しています。焼きナス、オイスター炒め、麻婆ナス、味噌汁…と、なんでもござれですが、ふとインド料理のダルと煮物にしようと思いつきました。これだとカミさんの明日の弁当にもぴったりです。

ダルとはインドの言葉で豆のこと。インド人はベジ(菜食主義)もノンベジもみんな大の豆好きで、種類も料理法も数えきれないほど存在します。その中でも特に北インド家庭料理の定番といえるのが旬野菜とダルの煮物です。

ダルはムング、ウーラッド、チャナ、カブリチャナなど多種ありますが、今回はインドで最も愛されている豆の一つ、トゥールダル(Tool dal)を使います。簡単にネットで購入できて、1年でも平気で持つので、割安な1キロを買っておくとお得です。保管は密閉して冷暗所で。

日本語で「木豆」(キマメ)と名付けられているようですが、はて日本でどのように使われているのかな。起源はインド説が有力。他の豆と比べてもタンパク質や必須アミノ酸の含有量が極めて高く、常に栄養のことを大切に考えるインド人が好むのも頷けます。

米とトゥールダル左がお米、右がトゥールダル。

「秋ナスとダルの煮込み」レシピ

カワムラケンジ「秋ナスとダルの煮込み」

【材料(4人分)】

・トゥールダル…100g
※水3カップに1時間以上漬けておく。途中、2~3回水を入れ替える。
・秋ナス…400g(大きめ3~4本、乱切り)
・万願寺唐辛子…100g(5~6本、ぶつ切り)
※シシトウやパプリカなどでも可。
・玉ネギ…100g(中1/2個、粗みじん切り)
・トマト…150g(小1個、粗みじん切り)
・ショウガ…5g(小さじ1、粗みじん切り)

・水…4カップ
・塩…適宜
・サラダ油…大さじ2

〈スパイス〉
・ターメリック…小さじ2/3
・レッドペパー…小さじ1/5
・クミンシード…小さじ1/2

【作り方】

水を切ったトゥールダル、水4カップ、塩小さじ1/4、ターメリック、レッドペパーを鍋に入れ、弱~中火で煮る。アクが出たらざっくりと取る。圧力鍋の場合はここから圧力をかける。
通常の鍋の場合は蓋をして吹きこぼさない程度の弱~中火でじっくりと30~40分煮る。
フライパンにサラダ油とクミンシードを入れてから火にかけ、小さな泡が出ててきたら玉ネギ、ショウガを加える。焦がさないようにヘラなどで軽く混ぜながら中火で炒める。
うっすらと色づいてきたらトマトを加え、ひと混ぜして秋ナスを入れる。焦げそうになったら少し水を足すこと。ナスに7~8割火が通ったら、塩小さじ1/2、万願寺唐辛子を加える。
②のダルの形がほぼ崩れ、とろみが出ていたら④を加える。まだダルの形が残り、水分が多いようなら、マッシャーなどで潰す。ここで水分を飛ばしたい時は火を強める。
⑤を5分ほど煮て、塩味の微調整をしたら火を切る。水分がどんどん揮発していくので食べるまで蓋をする。水分が多すぎると感じたら蓋をせず置いておく。

カワムラケンジ「秋ナスとダルの煮込み」の作り方左は手順④。玉ネギは色づくまで炒めます。右は手順⑤。ダルが潰れて、とろみの出た状態。

スパイスは3種だけ、がポイント

トゥールダルはクセがなくしっかりと深い味わいがあるので、秋ナスを引き立てつつ旨みでもってしっかりと支えてくれます。ちょっと手間がかかりますが、一度やってみるとめちゃ簡単だと分かってもらえると思います。

ポイントは、スパイスを極力控えること。それこそが本場インド式です。1種類でも10種類でもできますが、今回は入手しやすいターメリック、クミンシード、レッドペパーで。この3種はインドの究極の基本スパイスです。

黄色のターメリックは、ショウガ科で秋ウコンのこと。鮮やかな黄色で甘みが強いものが良質です。抗菌剤・防腐剤としても使われ、胃痛や皮膚の傷薬にもなります。
クミンシードは、整腸作用があるスパイス。夏バテで食べ物を受け付けない時は、潰して白湯で飲むといいですよ。

レッドペパーは唐辛子のこと。酷暑で頭がボーっとしてきた時の気付け剤として、また発汗により相乗的に冷涼感を得られるのが特徴です。蒸し暑い時期や地域では辛くすることが多いですが、今回は優しい辛みに。

ご飯はもちろん、パンとも相性良しで、チャパティ、ソフトトルティーヤ、バケット…と何でも来い。水分を飛ばして、食パンのトーストに載せて食べるのもサイコー。
付合せはサワー漬けやインドのハードなピクルスもいいし、生トマトも合います。意外なところで冷奴も、いやホンマ。

このレシピは、秋ナスに限らず、旬野菜なら何を使ってもOK。ニンニクを入れたり、ダルの種類を変えたり、ギー(バターでも可)、ココナッツオイルなどの油脂を加えたり。カレーリーフやヒング、マスタードシード、グリーンチリなどスパイス類を変えるのもアリです。

旬野菜はなんぼ組み合わせてもらってもいいですから。
おてんとさま、ご馳走様です。

Writer ライター

カワムラケンジ

カワムラケンジ

Kenji Kawamura

ライター&スパイス料理研究家。『スパイスジャーナル』編集長。幼少の頃は近所の家々を食べ歩き、16歳から数々の飲食の現場で働き、ライターに。昨年からは夢だった畑も。「うまいものがあって、おもしろい人がおったらどこへでも!」。www.kawamurakenji.net

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