和仏が交差する、祇園『レストラン 田むら』のフランス懐石

鱧の押寿司やパプリカのムースなどを盛り合わせた八寸仕立ての前菜が名物。京都・祇園にあるレストランは、和食とフランス料理のおいしい所取りをしたお箸でいただくコースが特徴です。

ルーツは西陣の料亭『萬重』?

古美術商が軒を連ねる京都・祇園の古門前通から、ほんの少し南に入った路地に建つ店がオープンしたのは2007年。扉を開くと、厨房に面したカウンターの奥には16席のテーブルも。予想以上に広々とした空間が広がっています。

「花街の一角にありながら、比較的人通りが少ない閑静な立地。落ち着いて過ごせるよう、ゆとりある間取りにしています」と、店主の田村彰吾さん。京都・西陣に暖簾を掲げて90年近くになる京料理店『萬重(まんしげ)』の次男として味の英才教育を受けた、自他共に認める食いしん坊です。

『レストラン 田むら』外観
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『レストラン 田むら』テーブル席
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『レストラン 田むら』店主の田村彰吾さん
「年を経ると共に、和の要素が強まっている気がしますね」と話す店主の田村さん。
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八寸が登場する、和仏融合のコース

京料理店の息子として育った田村さんがフランス料理に目覚めたきっかけは、10歳のときに京都・上七軒の欧風料理店『萬春(まんはる)※現在は閉店』で口にしたホタテのテリーヌ。「おいしさはもちろん盛付もお洒落で、新しい世界が開かれた瞬間でした」と田村さん。

和食材の使用で知られる『レストランおがわ』に8年身を置いて感性を磨き、実家での和食修業も経て独立。その手に成るコースは、和食とフランス料理が違和感なく同居しています。

中でもその特徴が色濃く感じられるのが、開店当初からの名物・八寸仕立ての前菜です。青ガラスの小鉢の中はサザエと赤オクラの辛子味噌ソース和え。その隣にあるのはスモークしたアジのマリネにクリームチーズを合わせたカナッペ。ポン酢に漬け込んだ玉ネギを添えた和牛ロースの網焼きや鱧寿司など、和洋の一品がバランスよく並んでいます。

『レストラン 田むら』の八寸仕立ての前菜
写真の料理はすべて昼コース9000円から。少しずつ色々味わえるのが楽しい、八寸仕立ての前菜。手前右は、白インゲン豆の煮込みを土台に敷いた牛肉と豚足のゼリー寄せ、奥のグラスの中はパプリカのムースです。
『レストラン 田むら』の冷前菜
この日の冷前菜は、淡路島産ハモの落としとタコのサラダ仕立て。鱧のだしをベースにしたポン酢ゼリーのソースが優しい旨みを奏でます。
『レストラン 田むら』の温前菜
「炊合せや椀物をイメージした温かい前菜です」と田村さん。鮎のコンフィと緑ナスの揚げ出しのあんは、カツオ昆布だしがベースの甘辛い味わいです。
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年中人気はビーフシチュー

昼夜共にコースはデザートまで含めて全8品前後で、メインの肉料理は3種の中から選べるプリフィクススタイル。季節の一品、ビーフシチュー、ステーキが用意されていますが、一番人気を誇るのが、ビーフシチューです。

「最初は冬場限定にしていたのですが、リクエストが多くて定番になりました」と田村さん。赤ワインにひと晩漬け込んだ近江牛ホホ肉を焼いてからフォン・ド・ボーで炊き、開店以来継ぎ足しているデミグラスソースを合わせ、計1週間以上かけて仕込んでいるそうです。

『レストラン 田むら』のビーフシチュー
ビーフシチューは小振りの鋳物鍋での提供。熱々を維持する心づかいが素敵です。
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通常はこの後に白ご飯と赤だし、漬物が出る流れですが、5月から8月末までは田村さんお手製の蕎麦が登場。こちらは2023年から始めたばかりですが、早くも「年中出してほしい」と熱望するファンが増えているそう。

「奇抜すぎない、程よい個性を心がけています」と穏やかに微笑む田村さん。かしこまらずお箸でいただけるフランス懐石は、店主の人柄同様に、優しく温かい味がします。