播磨の自然、季節、人とつながる、姫路・イタリアン『Trattoria piccola sicilia』

兵庫県播磨地域は、播磨灘の海の幸、そして加古川や揖保川などが育む肥沃な大地の山の幸・畑の幸に恵まれた、まさに食材の宝庫です。姫路市街に、播磨食材を活かした現代的な感性の料理で、地元のみならず、遠方からも多くの客を惹きつけるイタリアンがあります。

播磨を基盤としたコース料理を提供

姫路駅から南へ車で数分、徒歩なら15分ほどの住宅街に、『Trattoria piccola sicilia(トラットリア ピッコラ シチリア)』はあります。
この店を1人で切り盛りする山本豪一さんは、東京のイタリアンで約10年腕を磨き、2015年、地元で自店を構えました。開店後しばらくは、シチリア伝統の味を軸としていましたが、近年は、「生産者とのつながりが深まり、“播磨”という大きな基盤の上で料理を表現するようになりました」と語ります。
メニューは昼夜ともに予約制のおまかせコースのみ。一皿一皿に播磨の豊かな恵みを駆使した山本さんの料理は、この土地のおいしさと力強さを独特の世界観で雄弁に語りかけてきます。

『Trattoria piccola sicilia』の店内
オープンキッチンの小体な店内には、地元のアーティストの作品、ドライハーブ、野菜などが飾られ、アトリエのような雰囲気を醸し出しています。
『Trattoria piccola sicilia』の店主・山本豪一さん。
一皿一皿、対話するように仕上げる山本豪一さん。生産者や食のプロ、地域の人たちと積極的に関わり、様々なイベントも参画しています。
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豊潤な海と大地が皿の上でひとつに

手渡されたこの日の品書きには、日本の繊細な季節の移ろいを映す七十二候の名称が記され、その下に並ぶのは、「枝豆 ハリイカ」「ズッキーニ メジナ」などの食材名。そして最後に「全て播磨の恵み」の文字。これらの食材がどんな料理となって現れるのか、想像するだけで心が躍ります。

『Trattoria piccola sicilia』枝豆 ハリイカ
料理は全て昼夜同じでおまかせコースの価格によって品数やプレゼンテーションが異なります。枝豆のフムスとハリイカのカルパッチョの料理は、鮮やかな夏の味にポエジーが宿る一品。
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供されたのは、思わず見とれてしまうほど芸術的で繊細な美を湛えた料理。「枝豆 ハリイカ」のメニューは、枝豆のフムスとハリイカのカルパッチョで、それに、ゴーヤ、ズッキーニ、ピーマンなど夏野菜と古代米のサラダ、ハーブ、オクラの花も美しく盛り込まれています。ふわりと纏うエスプーマは、“豆々しさ”を追求して豆乳を使用。仕上げには、春にたくさん採れたグリーンピースのサヤを乾燥させたパウダーをパラパラと。春から季節を繋ぎ、一気に勢いを増した、瑞々しい夏のエネルギーを感じる一皿です。

「ズッキーニ メジナ」は、脂の乗ったメジナを炙り、ズッキーニのソースと合わせた一品。共に盛られた手打ちのクスクスには、メジナのアラ出汁に山椒やコリアンダーが香るスープをたっぷり吸わせ、その上には、スベリヒユ、ツルムラサキ、花ディルなど日ごとに移ろう畑の恵みがふんだんに盛り込まれています。

『Trattoria piccola sicilia』ズッキーニ メジナ
「グレ」とも呼ばれるメジナを使った力強い味わいの一品。「脂の乗った白身がおいしいので、皮は香ばしく、身はレアに仕上げています」。
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「魚介は、播磨魚介のポテンシャルを活かす水産のプロ集団『播磨海洋牧場』から。野菜は、近所のオーガニックファームで西洋野菜を育てる池田君、夢前町でワイルドな野菜を作る島袋君、在来種に強い市川町の『牛尾農場』さんといった、個性豊かで熱心な播磨の農家さんから分けてもらっています」と、山本さん。開店から10年の間で、地元の生産者や食の関係者との交流が深まり、日々対話を重ねてきた彼の語り口は、生産者や食の関係者への敬意と、自然や土地への慈愛、そして誇りに満ちています。旬の新鮮な食材はもちろん、盛りの時期に多く収穫のあった食材は、保存食にするなど余すところなく使い切り、播磨の自然を丸ごと投じたような一皿に。播磨の海と大地の恵みは、山本さんの見事なクリエイションで唯一無二の料理として昇華されます。

『Trattoria piccola sicilia』池田君の洋野菜
店から5分のテクノファームで池田 光さんが作る西洋野菜。フィレンツェのナス、サンマルツァーノなどイタリア品種も。
『Trattoria piccola sicilia』島袋君のワイルド野菜
夢前町で島袋隆史さんが作る野菜は、野趣あふれる風情と味わい。
『Trattoria piccola sicilia』の乾燥コリアンダー
たくさん実ったコリアンダーの種は、半分は新鮮なうちにピクルスにし、残りは乾燥させて料理に使用。これらの保存食が季節を繋ぐバトンに。
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鹿・猪・鴨など播磨ジビエも登場

また、肉類は全て、鹿、猪、鴨などの播磨ジビエを使用しています。この日いただいたのは、鹿のスネ肉が入ったジャガイモニョッキのラビオリ。トマトを加えてギュッと詰めた夏カボチャのペーストや鹿肉のスープと合わせ、仕上げには、塩漬けしてから干して燻した“鹿節”を削り落として。口に含むと、もっちりとしたニョッキ生地から鹿肉の上品な赤身の旨みが広がり、それに拮抗するように鮮やかなカボチャペーストの風味が重なり合います。

『Trattoria piccola sicilia』播磨鹿 ニョッキのラビオリ
播磨鹿と手打ちニョッキのラビオリ。鹿のスネ肉にはビワと芥子菜(カラシナ)の種で作ったモスタルダーを合わせ、鹿肉特有の赤身の旨みを底上げしています。
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料理に寄り添うナチュールワインは、産地にこだわらず気に入ったものを厳選。加西市の新進ワイナリー『ボタニカルライフ』のものなど、地元だからこそ出合える一杯もあります。

店主の話に耳を傾けながら、播磨の豊潤な恵みを五感で味わう時間は、驚きや感動に加え、自らもこの播磨の風土と一体になるかのような特別な感覚をもたらします。播磨がぐっと身近になり、播磨の人や自然からパワーをもらって自分自身も元気になる、そんなひとときをぜひ味わってみてください。

『Trattoria piccola sicilia』の外観
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amakara.jp編集部

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関西の食雑誌「あまから手帖」(1984年創刊)から生まれたwebメディア「amakara.jp」を運営。カジュアル系からハレの日仕様まで、素敵なお店ならジャンルを問わず。お腹がすくエンタメも大好物。次の食事が楽しみになるようなワクワクするネタを日々発信中。