京都『七條甘春堂』夜空をイメージした工芸菓子が大人気

豊臣秀吉が自身の威光を示すため、奈良の大仏以上に大きな大仏を建立したことでも知られる方広寺の近くにある京菓匠『七條甘春堂』。大仏建立の際、秀吉が訪れて庭の古藤を鑑賞したとの逸話が残る旧家です。近年は、先代が考案した独創的な佇まいの京羊羹が大きな話題を呼んでいます。

慶応元年創業。4代目が上生菓子に力を注ぐようになり、5代目の際には現在の製造基盤を完成させました。7代目に当たる先代は百貨店などへも積極的に出店。8代目を継承する木ノ下晃帆さんは「父は数年前に亡くなったのですが、アイディアが豊富で、本当に面白い人でした」と話します。

京都『七條甘春堂』外観
“京の七口”のひとつである「伏見口」で創業。店舗近くの製造場所にある東山の水を使って菓子作りを行っている。
京都『七條甘春堂』内観
10

涼を呼ぶ、目にも鮮やかな工芸羊羹

そんな先代が、琥珀羹の中に季節の風物詩を閉じ込める工芸菓子を得意としてきたことから約30年前に誕生させたのが京羊羹「天の川」です。七夕の頃の夜空を映した群青色の琥珀羹には、よく見ると星に見立てた銀箔がキラリ。その下にはもちっとした食感の味甚羹(みじんかん)と小倉羹の層を重ねています。

1本1本手作りしているため、カットする場所によって見える景色が異なるのも魅力。まさに涼を呼ぶ菓子です。

京都・北白川にある珈琲焙煎所『旅の音』とコラボした「コーヒーゼリーの花ようかん」も人気。最高品種のエチオピア産コーヒーを使った香り高いゼリー羹に、ミルク羹とコーヒー羊羹を重ねます。表面には、ラズベリー入りのさわやかな甘さのミントゼリー羹を流し、花を表現しています。

「普段、羊羹を食べ慣れない世代にも楽しんでもらいたい、そんな思いで作っています」

京都『七條甘春堂』天の川
6月1日~8月末日限定の「天の川」。1本1512円。店頭ではハーフサイズ(810円)も販売されている。冷やして味わいたい。
10
京都『七條甘春堂』花ようかん
通年販売されている「コーヒーゼリーの花ようかん」、1本1512円。ハーフサイズ810円
10

復活した門前の名物

ショップの横には『且座(しゃざ)喫茶』と命名された茶寮を併設。江戸末期に建てられたと伝わる、風情ある家屋で甘味や軽食が楽しめます。「天の川」のイートインも夏季限定で可能。抹茶とのセット、白玉ぜんざいや吉野葛の葛切りなどと合わせた菓子膳も用意されています。

イートイン限定の名物が「東山大仏餅」。
秀吉によって造られた初代大仏は大地震で崩壊しました。その後、4代目の大仏が昭和48年に火災で焼失するまで、辺りには参拝客に向けて大仏餅を商う店が点在していたそうですが、大仏が姿を消したことで閉業。「そのことを残念に思った祖父が復活させたのが『東山大仏餅』です」と木ノ下さんは話します。

やわらかい求肥で粒あんを包み、焼き印を押した餅は素朴な味わい。小ぶりなので2個でもペロッと食べられます。ちなみに、『七條甘春堂』が位置する大和大路七条交差点の角に建つ交番は今も「大仏前交番」の名称で親しまれています。

京都『七條甘春堂』大仏餅
伸びの良い求肥で、甘さ控えめの粒あんを包んだ東山大仏餅。抹茶とのセット、1100円。
京都『七條甘春堂』茶寮内部
『且座喫茶』の2階では、熟練の職人による京菓子手作り体験教室を実施。3種類4点の上生菓子が作れる。事前予約制、一人3300円
京都『七條甘春堂』暖簾
10