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ベテランシェフがもてなす完全予約制の隠れ家レストラン 兵庫・甲東園『l'Essence.b(レサンス. ベー)』

阪急今津線・甲東園駅から北東へ、閑静な佇まいの住宅や点在する畑の間の小道をたどると現れる一軒家。壁面の黒板にメニューやメッセージが描かれている店が、宮狹(みやさ)義幸さんが営む、1日1組の完全予約制のレストラン『l'Essence.b(レサンス. ベー)』だ。

1日1組に手間と技と心を込める

1日1組、4名まで。予約は予定日の3営業日前までに済ませる。以上がこの店で食事するための第1のハードルだ。予約客のためにこだわりの生産者からベストな食材を集めてメニューを考え、仕込みから最後の盛り付けまで完璧にこなした料理を、一人でサービスするために宮狹シェフが考え抜いた方式である。

第2のハードルは、料理とワインとのペアリングがコンセプトで、必ず1人1杯以上のワイン、ノンアルコールワインなどをオーダーが必要なこと。「お料理とワインとのマリアージュを楽しんでほしい」との宮狹シェフの強い思いによる決め事だ。その日の料理に合わせた、グラス2杯からのペアリングセットも用意されている。ワインありきの大人のための店だ。

『レサンス. ベー』店内
ダイニングの大テーブルも椅子も、「食事をするのに快適にと」宮狹シェフが考え抜いて備えたもの。
『レサンス. ベー』外観
店の周囲は住宅と畑。フランスの片田舎にありそうな、まさに隠れ家レストラン。2019年『ラ ターブル ド モンクール』から名前を変えてリニューアルオープン。
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料理とワインとのペアリングを楽しむ

ダイニングには、美しくセッティングされた、木目も美しい迫力の大テーブルが1台。温かみのある照明の下、最初の飲み物が運ばれ、その日の料理の説明が始まる。手元の小さなカードには「ビーツ・人参・真鯛・鴨胸肉」といったふうに、それぞれの食材が書かれているだけ。料理への期待が高まる。ワインのペアリングについても、好みを告げながらゆっくりシェフと相談できる。

コースがスタートすると、まずアミューズからシェフの料理の虜になる。ある時のアミューズは、ビーツを使ったふわふわのスフレ。指でつまんで、その手触りにまず感動。儚い口どけをスパークリングワインの泡が追いかける。
続いての前菜は「ニンジンのエチュベ ミント、ヴェルヴェーヌ、オレンジの風味」。ハーブの香りとオレンジの酸味に加えて、塩イチゴのピュレと人参葉を使ったグリーンのハーブオイルを添えることで、さらに金時人参の風味を際立たせている。金時人参を丸ごと、葉っぱまで使った一皿。宮狹シェフは、「塩気のある土地の野菜が好き」と、産地ではなく地質にこだわって野菜を選んでいると言う。

『レサンス. ベー』前菜
料理はすべて10000円のコースから。前菜「ニンジンのエチュベ ミント、ヴェルヴェーヌ、オレンジの風味」。ユニブラン100%のスパークリングワインを合わせて。
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魚料理は「真鯛の軽いポワレ」。シェフは「豆と一緒に味わってください」と一言。鯛の上品な風味に、鶏のジュで煮たガルバンゾー豆のまったりした旨みがプラスされてコク深い味わいになる。パリパリした鯛の皮の食感がアクセントだ。ソーヴィニョンブランのしっかりした酸味がよく合う。

『レサンス. ベー』魚料理
「真鯛の軽いポワレ」。ガルバンゾー豆は水で戻してバターソテーし、野菜のだしで乳化。さらに鶏だしを入れて乳化という手間をかけた一品。ソーヴィニョンブラン100%の白ワインと。
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続く肉料理は「鴨胸肉のバプール 燻香ビーツのピュレ カカオの風味」。鴨の胸肉がほのかに香るのは、リンゴの木を敷いて蒸しているから。表面に炭焼きの焦げ目をつけて、さらに香りを強めている。燻香をつけたビーツのピュレを添え、オニオンとドライキノコのジュを加えたカカオ風味のソースで味わう。
「香りを大切にしています。よくある見た目の一皿でも、食べた時、初めての香りと味を感じてもらいたい」。ワインを飲みながら味わうことで香りが何倍にも広がる。

『レサンス. ベー』肉料理
「鴨胸肉のバプール 燻香ビーツのピュレ カカオの風味」。オニオンとドライキノコのジュが隠し味。グルナッシュとシラーの赤ワインと。左は香り付けしたリンゴの木片。
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ここでは宮狹シェフが一人で接客し調理するのだが、それがなかなかスマートで手際が良い。客を必要以上に待たせることもなく、初めての客の緊張をほぐして、料理への期待を高めるスゴ技。聞けば、今はない名店、夙川『シェ・ヤマダ』でサービスも担当していたという。

「僕の修業時代には、ホテルやレストランのカトラリーはクリストフルだった。僕は、ペルスヴァルやクチポールなど、色々なカトラリーを揃えて料理で使い分けています」と語る宮狹シェフ。肉料理の前に、客の一人一人がステーキナイフを好みで選べる趣向も楽しい。

『レサンス. ベー』のナイフ
ティエールのナイフを揃え、肉料理の前に、ウッドハンドルやペルスヴァル社など、好きなカラーやデザインを選べる。
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「おまかせ3皿のコースはアミューズ+アントレ+メイン+デザートで、食後の飲み物、ミニャルディーズがセットになっています。お料理を楽しんでほしいから、パンはごく少量」。メイン料理を食べ終えても、チーズが出されたり、ミニャルディーズの演出が面白かったり。ハーブコーディネーターの資格を持つ宮狹シェフがセレクト、ブレンドしたハーブティーを飲みながら、料理について、ワインについて語らううちに時間が経つのを忘れてしまう。

自らが受け継いだ技や知識を次世代へ

修業時代に、アラン・デュカスやフィリップ・エチュベスト、ポール・ボキューズなど、様々なフレンチの巨匠の研修や講習を受けた宮狹シェフ。フランス滞在中、訪れたレストランから受けた影響も大きいと言う。
「ヌーベルキュイジーヌが僕の料理の原点。新しい創作の要素をプラスした、さらに新しい現代のヌーベルキュイジーヌを、ワインとのマリアージュで感じてもらいたい。これからワインについて知りたいという方に、ぜひ来てほしいですね。ワインの味わい方からレクチャーさせていただきます」。

フランス料理を、フランスワインを、そして食べることを愛してやまない人のための小さな店を、シェフは一人で守り続けている。シェフ一人でこなしているからこその完成度の高さとリーズナブルさに、客は甘えて楽しむことができる。駅からの小道をたどり、また再訪したくなった。

『レサンス. ベー』宮狹シェフ
宮狹シェフは『シェ・ヤマダ』の山田興助氏、『オープティ・コントワー』船橋俊夫氏に師事。ハーブコーディネーターやナチュラルフードインストラクターなどの資格も取得し、食育にも熱心に取り組む。
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『レサンス. ベー』のワイン
セラーには約200本のワインが。「カーヴにあるのはすべてフランス産で、7~8割がオーガニックワイン。クセのあるワインが好き」とシェフはワインの管理にも熱心。ワイン会も気まぐれで開催。
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