繋ぐための穏やかな変化。京都・伏見『京料理 清和荘』4代目が目指す形

京都・伏見で約70年続く料亭の店主が2024年に代替わり。古き佳き館の風情と日本料理の伝統を重んじる老舗に、穏やかな変革が訪れている。

1957年創業。風情ある数寄屋造りの料亭

近鉄伏見駅から歩いて5分。京都・伏見の住宅街の一角に悠然と佇む『京料理 清和荘』の創業は1957年。ここだけ時が止まったかのような1000坪の広々とした敷地内に建つ数寄屋造りの屋敷は、昭和初期の建築。手入れのための改装・改築を重ねながらも往時の風情を残した雅な空間に響くのは、池の水音や庭木の葉擦れ、小鳥のさえずり。照明を落として庭の美しさを際立てたさりげない演出が心地よい。

『京料理 清和荘』店内
天ぷら(カウンター)以外の食事は、すべて個室。足の悪い方でも寛げる、絨毯敷きの椅子席や掘りごたつ席になっている。年中緑が映えるよう調えられた日本庭園に面した桃山の間(写真)は、特に人気が高い。
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料理長の雄大さんが4代目に就任

「代々守り続けてきた伝統や技術を大切にしながら、必要な変化を加えていきたいと思っています」。そう話すのは、3代目・竹中徹男さんの長男の雄大さん。

京都市内の料理旅館や鮮魚店での修業を経た後に店に戻り、2024年冬から料理長に就任して約1年。今は4代目として自分の色を描くべく、自然なアプローチを重ねている最中だ。

『京料理 清和荘』料理長の竹中雄大さん
京都の老舗『炭屋旅館』で和食の基本やもてなしの心を、錦市場の鮮魚店『丸弥太』で魚の目利きや扱いを学んだ後、家業へ戻った竹中雄大さん。
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だしの配合を改めて、より素材感を重視

敷地内に湧く井戸水「清和の井」を使うことと、伝統的な会席料理を出す姿勢は守りながら、味わいの点で大きく変えたことがひとつある。それが、一番だしの配合だ。

これまでは天然の利尻昆布と本枯節だけでとっていたものに、マグロ節をプラスした。
味の土台となるだしを変えるのはなかなか勇気のいることだが、「マグロ節は、しっかりした旨みがあるけれどカツオ節に比べて香りは穏やか。食材そのものの味を一層引き立てる狙いです」。
店を繋いでいくためには、攻守どちらも欠かせないと語る。

平日限定の昼会席は健在

老舗料理旅館での修業を経て腕を振るう雄大さんの料理をまんべんなく味わいたいのなら、平日限定の昼会席がおすすめだ。

内容は月替わりで、とある晩秋の一日なら、先付はショウガ酢のジュレでいただくズワイガニ。錦秋の彩りを思わせる八寸は、柿とホウレン草の白和え、南瓜カステラなど8品がズラリ。お造りはゴマの香りを纏わせて味を膨らませた本マグロで、焼き物はイチジク味噌を絡めていただくカマスの朴葉焼。素材感を重視しながら必要に応じて適度に手を加えた渾身の10品をサービス料含めて約1万円でいただける料亭は、今やかなり貴重な存在だ。

『京料理 清和荘』昼会席の先付
先付のズワイガニのショウガ酢ジュレがけ。カニの旨みを引き立てる穏やかな酸味が上品な味わい。梨や壬生菜の松の実和えと共に。
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『京料理 清和荘』昼会席の八寸
八寸は穴子小袖寿司、車海老、鴨ロースなどの定番のほか、季節の料理が盛り込まれる。
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『京料理 清和荘』昼会席の向付
向付は2種盛合せ。紅葉鯛はごく薄く塩をあてて1日寝かしたもの。練りゴマで和えてコクと香りを添えた本マグロはふくよかな味わい。
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『京料理 清和荘』昼会席の煮物碗
小蕪の粕汁仕立ては真冬よりも酒粕の量を控えたすっきりめの味わいに。黄柚子の香りと山椒が利いた七味唐辛子の香味が素敵なアクセント。
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『京料理 清和荘』昼会席の焼き物
カマスの朴葉焼。カマスには下味が付いているのでまずはそのままいただき、脇に添えられたイチジク味噌を絡めて味の変化を楽しむ仕立て。
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海老芋の炊合せや舞茸やシメジがたっぷり入ったキノコの炊き込みご飯にほっこりした後は、甘味が和洋2種類現れる。持ち帰りもできる名物・わらび餅と共に供されるのは、3代目の竹中徹男さんが始めたという愛らしいプリンアラモード。しっかり固めながらも滑らかな口どけのプリンは徹男さんの配合そのままかと思いきや、「卵の量やカラメルの焦がし具合を変えています」と雄大さん。

同じように見えて、ひっそりとマイナーチェンジ。さりげない変化への挑戦を続ける4代目の存在が頼もしい。

『清和荘』の甘味
脚付きグラスへの盛付けも可愛らしいプリンアラモードは、今ではわらび餅に負けない人気。2万円以上の会席になるとアイスも付いたパフェ仕立てにグレードアップされる。
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