コース7700円から! ビル路地奥のなにわの名割烹、北新地『割烹 味菜』

北新地の粋な割烹は、到底アラウンド1万円じゃあムリでしょと思っていたら、意外にも! 季節を感じさせる旬の野菜に上質な魚介類、庖丁冴える料理人の技を楽しめるコースがなんと7700円から! 北新地に暖簾を掲げて40余年の老舗割烹は、案外懐に優しいの巻。

老舗がねらい目なワケ

老舗は、長年通い来る常連さん相手に急な値上げがしにくいため、案外、新店に比べてリーズナブルなお店が多い。これ、食通の間での暗黙の了解事項。とはいえ、常連が幅を利かせている老舗に、初見の客は肩身が狭いし、格調高い雰囲気で敷居が高い?ご安心を。こちらの大将は、実は面倒見の良いあったかなお人柄。ちょっと勇気を出して、暖簾をくぐれば、口福が待っている。

『味菜』の外観
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北新地のメインストリート・本通りに面したビルの一番奥。渋い店構えが歴史を感じさせる。コの字のカウンターの中に立つ店主・坂本 晋さんは、大阪中日本料理人が切磋琢磨する勉強会「大阪料理会」の重鎮として知られる存在。「大将」という呼称がよくお似合いだ。
大将は、岐阜県高山のご出身。岐阜の旅館を経て20歳で大阪へ。北新地の有名店にて8年修業し、28歳で独立した。「若くしてお店を構えたんですね」と言うと「結婚を機にね」と照れ臭そう。
「北新地の14席ほどの地下の店で3年やって。船大工通りのビルの2階へ移りました。そこは大広間もあってね」。連日宴会が入って賑やかなお店だったよう。有名人もちょくちょく訪れたそうだ。「そこで20年やって、今の場所に移ってまた20年経ちました」。舌の肥えた新地の客に揉まれて半世紀。いつ訪れてもとびきり上質な食材を揃えておられるのも納得だ。

『味菜』の店主坂本さん
コの字カウンター前にて“大将”坂本さん。長いおしながきから本日のおすすめをオーダーしたい。
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カウンターで季節を知る

グループなら掘りごたつ式の小上がりがいいが、コの字のカウンター右側は、大将の庖丁捌きを目の前に眺める特等席。
毎日手書きする和紙の品書きを眺めつつ、「今日一番のおすすめは?」と訊ねて大将とやり取りするのも楽しいが、初見なら、おまかせ会席「桜」を頼めば安心。前菜、造り3種盛り、焚き合わせ、焼き物、小鉢、酢の物、ごはん、留椀、香の物、水物(デザート)まで付いて7700円だ。

この日の「桜」コース、まずは、車エビとハマグリに、山ウドや菜の花など春を盛り込んだ先付が登場。純白の泡のソースは…おお!ハマグリ味だ!「吉野葛と太白ゴマ油で乳化させたハマグリのだしです」と大将。大阪料理らしい遊び心を感じさせる。車エビのブリブリムッチリとした力強い食感と、ふくよかな旨みが口中に溢れる柔らかいハマグリが好対照。山菜のほろ苦さがアクセントになって、食欲に火が付くスターターだ。

『味菜』の先付
料理はすべて取材時の7700円のコースから。車エビとハマグリに、山ウドや菜の花など春を盛り込んだ先付。
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これぞなにわ割烹! 大阪食材と滋味深いだし

造り盛りは真ん丸な氷の器にて。「氷を敷いてもすぐ溶けるからね。かき氷を大小の器に詰めて作ってます」という手作りの器。さり気ない心配りが嬉しい。この日は、香住の甘エビと、島根の本マグロのトロ、和歌山のカンパチ、明石タコまで盛り込まれてきた。どれも上質。さすがの目利きだ。
蒸し物は小芋とグリンピースの茶巾絞り。桜の花びらに模したユリネが可愛い。茶巾の中からエビ、銀杏がゴロゴロと出てきて食べ応えも十分。

『味菜』のお造り
造り盛りは氷の器で。とろり蕩ける甘えび、ジューシーな明石ダコなど。
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『味菜』の蒸し物
淡い色に春を感じる蒸し物、子芋とグリンピースの茶巾絞り。
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なにわの伝統野菜や淀川の天然ウナギなど、大阪の食材も積極的に使いつつ、底味のしっかりしただしが、これぞ大阪料理といった味わいを楽しませてくれる。
「夏になったらなにわの伝統野菜の1つ、毛馬キュウリが出回ります。あれは身質がしっかりしてるから天ぷらにしても美味しいんですよ」。キュウリの天ぷら!それはぜひとも食べてみたい。夏にきっとまた。その前にもまた気軽にランチに来てしまいそうだけど。

『味菜』の小上がり
煤竹の天井も小粋な掘り炬燵式の座敷も。
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writer

団田 芳子

danda yoshiko

食・旅・大阪を愛するフリーのフードライター。その地の歴史や物語を感じる食べ物・気質・酒が好物。料理人さんに“姐さん”と呼ばれると、己の年齢を感じつつもちょっとウレシイ。著書に『私がホレた旨し店 大阪』(西日本出版社)、 『ポケット版大阪名物』(新潮文庫・共著)ほか。