華やかさよりも栗の香りを届けたい。 『京都くりや』が描く菓子のかたち

色鮮やかな京菓子が並ぶ京都で、あえて栗そのものの味わいにこだわり続ける一軒がある。主役はいつも栗。余計な装飾を加えず、ほっくりとした食感や自然な甘みを引き出すことに心を砕いてきた。素朴だからこそ奥深い、栗菓子の世界が広がる。

栗ひと筋に歩んだ百余年の歴史

『京都くりや』は、栗菓子ひと筋に歩み続けてきた老舗である。
1855年創業の本家「くりや」をルーツに持ち、大正年間に京都府園部町の本家から暖簾分けされる形で現在の店が誕生した。屋号は、栗を主に扱っていたことから先先代が名付けたものだという。

京都には四季折々の華やかな京菓子が数多く存在するが、同店が大切にしてきたのは“栗そのもののおいしさ”。素材の持ち味をまっすぐ表現する栗菓子づくりを貫き、長きにわたり多くの人々に親しまれてきた。

くりや外観
季節の菓子が並ぶ店内。飾らない佇まいにも、素材本位の店らしさがにじむ。
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京菓子といえば華やかな見た目や繊細な意匠が魅力だが、同店が目指してきたのは栗本来の風味を生かした菓子づくり。

厳選した国産栗を使用し、余計なものを加えずに仕上げることで、ほくっとした食感や自然な甘み、豊かな香りを引き出している。

派手さはなくとも、素材そのものの魅力がまっすぐ伝わる素朴な味わいこそが、長く愛される理由となっている。

くりや素材
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栗の魅力を凝縮した代表銘菓

看板商品の「金の実」は、“栗が主役”という店の哲学を最も象徴する一品だ。

使用するのは厳選した大粒の国産栗のみ。風味や食感、コクの深さに優れた国産栗にこだわり、一粒ずつ丁寧に炊き上げた後、蜜にじっくり漬け込んで仕上げている。
黄金色に輝く美しい姿はその名の通りまさに「金の実」。栗本来の味わいを存分に楽しめることから贈答用はもちろん、自宅用としても重宝されている。

くりや看板
店先に掲げられた「金の実」の看板。
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くりや金の実
厳選された国産栗を独自の製法で蜜漬けにした代表銘菓「金の実」。栗そのものの風味を味わいたい。
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一方、夏には「若鮎」が店頭を彩る。薄く焼き上げたカステラ生地で求肥を包み、一枚ずつ手焼きで仕上げる季節菓子だ。鮎の尾を表現した独特の形も愛らしく、初夏の訪れを知らせる存在として親しまれている。
また秋限定の「栗おはぎ」は定番の栗菓子とはまた異なる魅力があり、訪れるたびに新たな味との出合いがある。

くりや若鮎
一枚ずつ手焼きする夏の風物詩「若鮎」(1個)227円。
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素材と向き合い続ける職人の信念

三代目として30年以上菓子づくりに携わる中で、店主の山名清司さんが大切にしてきたのは素材本来の風味を生かすことだという。

これまで、栗をはじめとした素材の甘みや香りが自然に伝わる味わいを追求してきた。華やかな細工や装飾で魅せるのではなく、風味や食感、口どけといった素材そのものの魅力で勝負する。

シンプルだからこそ職人の技や素材の質が表れやすく、その積み重ねが長年愛される理由になっているのだろう。

「何より嬉しいのは、一度にたくさん買ってもらうことよりも“また来たよ”と日々足を運んでくれるお客様の存在です」と話す山名さん。世代を超えて親しまれ、ご年配には懐かしく、若い世代には新鮮に映る。そんな普遍的なおいしさを、これからも変わらず届け続けていく。

くりや店主
「自然の風味を伝えたい」と話す三代目店主・山名さん。
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店内に目を向けると、一枚の古い賞状が飾られている。
1957年、第14回全国菓子大博覧会で金賞牌を受賞した証だ。栗ひと筋に歩んできた店の歴史を伝える大切な一枚である。

しかし2022年、その歴史が途絶えかねない出来事が起きた。店舗を火災が襲い、山名さん自身も大やけどを負ったのだ。
とりわけ菓子づくりに欠かせない左手の損傷は深刻だった。「もう仕事は続けられないかもしれない」。病室でそう覚悟したという。

それでも幸い機能は回復。さらに営業再開を待ち望む常連客たちの声が背中を押した。店内に飾られた手拭いもその一つで、再出発への思いを込めて贈ってくれたものだそうだ。

同年11月、店は営業を再開。百年以上受け継がれてきた栗菓子の味は、今日も変わらず守られている。
「こうしてまたお菓子を作れること自体が奇跡だと思っています」と語る山名さん。その表情には、菓子づくりへの感謝と、お客様への深い思いがにじんでいた。

くりや賞状
第14回全国菓子大博覧会で金賞牌を受賞。
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くりや手拭い
店と人とのつながりを物語る手拭い。
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