街の喧騒から解き放たれる、京都の隠れ家レストラン
contents
季節の恵みを丁寧に映した料理
オーナーシェフの安部大樹さんは京都生まれ。国内での有名店を経て、ヨーロッパへ渡り、アムステルダムなど現地のレストランで研鑽を積んだ。帰国後も自身の価値観と重なる場所を求めて、各地で料理をしながら辿り着いたのが京都のこの場所だった。
「ヨーロッパの料理を学びたかったというより、文化を見たかった」という言葉が印象に残る。
食べることは、その土地の風土や歴史、暮らしと切り離せない。市場のあり方、農家との距離感、季節を楽しむ感覚。ヨーロッパで目にしたのは料理そのものだけではなく、食を支える文化の豊かさや食卓を囲む家族の姿だったのかもしれない。
イタリアンやフレンチなどいろいろな料理の経験を持ちながら、あえてコース仕立てではなく、アラカルトで味わうスタイルにしたのは「自分が行くなら、おまかせコースではなくて、食べたいものをチョイスできる自由度があったらいいな」という思いから。
食材の旬には敏感だ。春なら菜の花や山菜のほろ苦さを生かし、夏にはみずみずしい野菜の香りを引き出す。魚料理も肉料理も、ソースや技法が前に出るのではなく、素材が持つ個性をどう届けるかに重きが置かれている。
目にも麗しく、素材の美味しさを引き出し、食べ終えた後にじんわりと残る余韻も心地良い。
時がゆっくりと流れる食空間
古民家の建物も古い欄間を残し、空間を活かしながら、“レストラン”という新しい価値を加えている。
料理も、生産者とのつながりや土地の恵みを受け取りながら、新しい表現へと変えていく。その姿勢は店づくりにも料理にも一貫していることが伝わってくる。
窓の外を見ると、目の前の公園で思い思いに過ごす人々の姿が。子どもたちが無邪気に遊び、かたわらで話し込む人、本を読む人、そんな何気ない日常がやさしく美しく見える。
『ikuta』があるのは、車の行き来が多い西洞院通りなのだが、気づかずに素通りしてしまう細い路地奥に入っただけで、不思議と空気や時の流れがかわる。観光客で賑わう京都でもなく、暮らしの延長線上にある場所にあって、隠れ家のような特別感がある。
季節が変われば、公園の景色も変わる。料理も変わる。その変化を求めて、またこの路地奥をふらりと訪ねたくなる。店を後にしても、じんわりと優しいオルガンの音色が流れ続けているような、そんな心地よい余韻を残してくれた。
data
- 店名
- ikuta(イクタ)
- 住所
- 京都市下京区綾西洞院町736-4
- 営業時間
- 17:00〜23:00(20:30最終入店)
- 定休日
- 日・月曜
- 交通
- 市バス四条西洞院停留所から徒歩4分
- メニュー
- 料理はアラカルトのみ(メニューは季節や仕入れによる)。ナチュラルワイングラス1300円〜、ボトル7000円〜。
- 備考
- 要予約
writer
中野 弘子
Nakano Hiroko
京都コーディネーターⓇ&フリー編集者。京都の月刊情報誌「Leaf」編集長時代に「町家でごはん」を企画。京都の日常暮らしから全国の伝統文化、エンタメなどを多数取材。著書「よそさんが心地いい京都」(交通新聞社)、ペンネーム古瀬ヒロ著「京都謹製きもの和こもの」「京都いっぴん日用品」(淡交社)などがある。
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