堺名物の穴子で全8品!『山海料理 仁志乃』のお手頃コース

先付からお椀にお造り、締めの蒸し寿司まで全8品。名物は、1尾丸ごとじっくり揚げた「野崎焼き」。堺市の『山海料理 仁志乃』では、唯一無二の穴子づくしが味わえます。締めて1人12000円ちょっと。地酒のスターを奮発して吉と出た!の巻。

だんじり祭りの街で1990年に創業

そろそろ笛や太鼓などの鳴り物練習が始まっている頃だろうか。堺市の八田荘(はったしょう)では、10月16〜18日にだんじり祭りが行われる。毎年、最後にだんじりを楽しめるのが、このエリアなのだ。
『山海料理 仁志乃』は、だんじりが方向転換する「やり回し」地点にある。勇壮な光景が2階の広間から間近に見物できるとあって、祭りの 3日間は予約で席が埋まるという。

『山海料理 仁志乃』外観と内観
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八田荘だんじり
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店主の西野保孝さんは、この地で生まれ育った。調理師専門学校を卒業し、大阪市内の『土佐料理 司』に入店。9年の修業を経て、1990年、実家の敷地内に『山海料理 仁志乃』を開業した。柔和で明るく、ノリのいいお人柄。きっと地元でもムードメーカーなのだろうと思う。

私と西野さんの出会いは、大阪の和食の料理人の勉強会(大阪料理会)。もう15年以上も前だ。還暦を過ぎた西野さんはベテラン会員だが、とても熱心で、若手からも慕われている。 今回、ご紹介する穴子づくしのコースは、この大阪料理会がきっかけで生まれたものだ。

『山海料理 仁志乃』店主・西野保孝さん
右が西野さん。1961年、堺市生まれ。勤続20年の相棒・平野敦久さんと。
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堺名物の穴子のコース、お造りはなんと生!

今から10年ほど前、大阪料理会で西野さんにあるお題が与えられた。「堺といえば穴子が有名だから、大阪らしい穴子料理を提案してほしい」。ところが、堺が穴子の名産地だったのは戦前のハナシ。西野さんが生まれた昭和の時代には、すでに穴子の漁獲量は激減。出島港の近くにあった穴子屋筋も、すっかり姿を変えていたという。

穴子
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とはいえ、かの北大路魯山人も「アナゴがうまいのは堺近海だ」と絶賛したという地元の食文化。次代に繋げる一助となればと、西野さんは老舗の穴子卸専門店『松井泉』の門を叩いた。地物でなくとも、この老舗の目利きで上質な穴子が安定して入手できるようになり、西野さんは様々な穴子料理を考案。かくして、『仁志乃』名物の穴子づくしコースが誕生した。

この日の先付は、穴子の肝の山椒煮。続いて、「沢煮椀」が供される。沢にはたくさんという意味があり、数種の具材を細切りにして煮たものを沢煮という。白ネギやミョウガなどの“沢”の中、大ぶりの穴子唐揚げが存在感を放っている。優しいだしにパンチを添えた、大阪らしい喰い味だ。

『山海料理 仁志乃』の沢煮椀
穴子づくしコース8000円は2人から予約可。沢煮椀には、ショウガやニンジンなど細切り野菜がたっぷりと。
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お造りは、なんと生の穴子。まさにレアな一品は、焼霜とへぎ造りの2種盛りが嬉しい。ぶりんっと力強い弾力に生命力を感じ、噛むごとに広がる野太い味わいに瞠目。脂の旨みの余韻が驚くほど力強い。
「大阪料理は“始末の心”で仕立てるものやからね」と、腸管や皮、肝も湯引きにして添え、穴子の旨みを余さず楽しませてくれる。

『山海料理 仁志乃』のお造り
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名物は丸1尾をじっくり揚げた野崎焼き

穴子づくしコース最大の見せ場は焼き物だ。名物「野崎焼き」は、なんと1尾がぐるりと輪になって登場。「頭から丸ごと食べていただけますよ」と、西野さんが恵比寿顔で胸を張る。

『山海料理 仁志乃』の名物野崎焼き
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実は、こちらの誕生譚にも大阪料理会が関わっている。生みの親は、運営委員でもある東天満『日本料理. 雲鶴』店主の島村雅晴さん。小鯛を頭から丸ごと食べていただこうと114℃の油で5〜6時間加熱する手法を編み出した。「野崎焼き」という料理名は、大東市の野崎観音周辺が菜種の一大産地だったことにちなんでいる。
→『日本料理 雲鶴』の「小鯛の野崎焼き」の記事はこちら

このオリジナリティに感動した西野さんは、『雲鶴』の了承を得て、穴子でチャレンジ。80gサイズを丸ごと油煮にし、インパクト大の名物を作り上げた。

穴子を骨ごとザクザク食べるなんて痛快だ。頭の香ばしさは格別で、脂の旨みを油で引き出すという手法の醍醐味が存分に楽しめる。

『山海料理 仁志乃』の名物野崎焼きの作り方
体長25㎝、80gの穴子のぬめりを取り、軽く塩をして菜種油に浸し、114℃で5時間。骨も内臓も丸ごといただける。
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季節野菜の炊合せは、暑中ならば冷製で。煮穴子に、万願寺唐辛子の焼き浸し、金糸瓜(そうめんかぼちゃ)、石川子芋、赤コンニャクを添えている。

『山海料理 仁志乃』の炊合せ
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蓮根蒸しは、甘めの煮穴子との取り合わせだ。泉州揚げと命名した揚げ物は、小魚をネギ醤油で食べる郷土料理にちなんだ穴子の天ぷら。希少な水ナスの原種「馬場なす」など地野菜の糠漬けが出て、締めのご飯は穴子の蒸し寿司。季節の果実を盛り合わせたデザートまで、きちんと手をかけている。

私が穴子づくしコースを堪能したのは酷暑の頃で、口開けの生ビールをクイーっとやったタイミングで、先付の肝の山椒煮が出た。となれば日本酒だ!とお勧めを尋ねると、なんと三重の「而今(じこん)」があるという。

日本酒「而今」
三重『木屋正酒造』の「而今 特別純米」の生酒。山田錦と五百万石で醸し、青リンゴのようなみずみずしい果実味が美しい洗練された1本に。4合瓶7000円。奥は「朝日」という酒米を使った火入れの純米吟醸で4合瓶1万円。
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西野さんは日本酒党で、大阪狭山市の地酒専門店『酒楽 掬正(きくせい)』でいいところを見繕ってスタンバイしている。「而今」は今をときめく地酒のスターゆえ、特別純米が4合瓶売りで7000円。原価を考えたら、実はとってもお得だ(新地あたりで飲んだら、はて、いくらになるのやら)。

連れと2合ずつなら1人3500円で、穴子づくしコース8000円に生ビールを入れてもお会計は12000円ちょっと。このチャンス逃すまじ!と奮発して、吉と出た。生のお造りから名物の野崎焼きまで、唯一無二の全8品はどれも飲ませる味ゆえ、美酒と共に味わうのが正解ですぞ。

飲んで食べてもだいたい10,000円!

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writer

中本 由美子

nakamoto yumiko

青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。

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