京都『京菓子司 亀廣永』。祇園祭とともに歩み、家族で守る京菓子の味

京都・高倉通に店を構える『京菓子司 亀廣永』。昭和11年(1936)の創業以来、家族で商いを続けてきた京菓子店である。祇園祭の菊水鉾と縁の深い銘菓「したたり」は、京都の夏を彩る菓子として知られる。寡黙な職人だった先代の教えを胸に、受け継いだ味を守る二代目と三代目。変わりゆく街の中で、昔からの客にも新しい世代にも親しまれる店の姿がある。

家族でつないできた商い

昭和11年(1936)創業の『京菓子司 亀廣永』。
滋賀県の農家に生まれた西井新太郎さんは、大阪や京都の菓子店で丁稚奉公を経験した後『亀廣永』の長女・祥子さんと結婚。家業を支えながら腕を磨き、二代目当主となった。 現在も新太郎さんと祥子さん夫妻が店頭に立ち、三代目の息子・孝明さんが菓子作りを担う。孝明さんの妻も店を支え、家族で暖簾を守り続けている。長年通う常連客との会話も弾み、店内には和やかな空気が流れる。

三代目は幼い頃から祖父や父の働く姿を見て育ったものの、当初から家業を継ぎたかったわけではない。祇園祭が近づくと粽の袋詰めを手伝い、休みの日も作業に追われていた。 転機は祖父が突然倒れたこと。家業に入ることになり、27歳頃から本格的に菓子作りに携わるようになった。今では三十数年。幼い頃には煩わしかった仕事が、日々の暮らしそのものになっている。

亀廣永暖簾
昭和11年(1936)の創業以来、高倉通で商いを続ける『亀廣永』。店先には、屋号を染め抜いた白い暖簾が掛かる。
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菊水鉾と歩んだ歳月

「したたり」の誕生を語るうえで欠かせないのが、祇園祭の菊水鉾との関係だ。
昭和27年(1952)に菊水鉾が復興した際、鉾の維持費を賄うために茶会が催されることになり『亀廣永』にも菓子の注文が舞い込んだ。当初は百人に満たない小規模な集まりで、店からは数種類の生菓子を納めていたという。

やがて茶会を本格的に開催することになり、菊水鉾にふさわしい菓子が求められた。そこで新太郎さんが考案したのが、黒糖を使った寒天菓子「したたり」の原型だった。

その名は、菊水鉾ゆかりの謡曲『枕慈童(菊慈童)』に由来する。菊の葉に記された経文から滴る露を飲み、不老長寿を得たという故事にちなみ「菊の露の滴」から名付けられた。菓子の生まれた背景にも、その名にも、菊水鉾の歴史が深く関わっている。

かつて茶会の運営を担っていたのは、主に鉾町の人々だった。やがて評判が広がり訪れる人が増えるにつれて、販売を手伝う人も加わるようになった。今では祇園祭の時期になると朝から晩まで忙しさが続くという。

茶席で使う皿は毎年色や種類が変わり、それを楽しみに集う人もいる。菓子を味わうだけでなく、毎夏の茶会そのものを心待ちにする人々がいるのだ。『亀廣永』と菊水鉾の縁は、半世紀以上にわたって続いている。

亀廣永菊水鉾
店内に飾られた祇園祭・菊水鉾の粽。二代目が考案した「したたり」は、菊水鉾の茶席で供される菓子として誕生した。
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変わらぬ味を作るために

「したたり」は、沖縄産の黒糖や阿波和三盆糖などを使った寒天菓子。
見た目は深い黒色だが、光に透かすと美しい琥珀色を帯びる。つるりとした口当たりと黒糖の風味が特徴だ。

ただ、長年同じ味を作り続けることは容易ではない。黒糖は産地や収穫時期によって風味や色合いが異なり、同じ材料を使っても仕上がりに差が出る。孝明さんはその都度、配合や炊き方を調整しながら、食べ慣れた人が求める味に近づけている。

製法を受け継いだからといって、父とまったく同じ作り方ができるわけではない。道具も火力も時代とともに変わっていく。何より「したたり」は鍋のそばを離れず、炊き上がりを見極めなければならない菓子だ。経験を重ねて培った感覚が、毎日の仕上がりを左右する。

亀廣永したたり
沖縄産の黒糖や阿波和三盆糖などを使った「したたり」1,500円。濃い褐色の菓子は、光に透かすと美しい琥珀色を見せる。
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初代から受け継ぐ「古都大内」

「したたり」と並び同店で長く親しまれてきたのが、初代が考案した「古都大内」だ。

紅白の落雁で特製の粒あんを包んだ菓子で、木型に打ち込んで形を整えた後、一晩置いて生地と餡をなじませる。
落雁といえば硬く、口の中でほろほろと崩れる印象があるが、こちらは半生ならではのしっとりとした柔らかさが特徴。中の粒あんも、この菓子のために特別に仕立てたものだ。 生地と餡が一体となった口当たりは、一般的な干菓子とはひと味違う。紅白の色合いから祝い事の贈り物にも選ばれ、きちんと気持ちを伝えたいときの手土産としても重宝されている。華やかさを競うのではなく、手間をかけて作り上げた味で応える。初代から続く菓子作りの姿勢が、今も変わらず受け継がれている。

亀廣永古都大内木箱
初代が考案した「古都大内」。紅白の落雁で特製の粒あんを包んだ菓子で、木箱入4,200円は贈答用にも選ばれている。
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亀廣永古都大内紙箱
「古都大内」の紙箱入2,400円。木箱入りよりも気軽に購入でき、ちょっとした手土産や家庭で楽しむお茶菓子にもおすすめ。
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亀廣永古都大内
ころんと丸みを帯びた愛らしい姿。木型で形を整えた後、一晩置いて生地と餡をなじませることで、しっとり柔らかな食感に。
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先代の教えを胸に

「業者さんに感謝しなさい」。

寡黙な職人だった先代の言葉は、今も新太郎さんの心に残っている。菓子が売れても驕らず、材料を届ける人や包装を担う人たちへの感謝を忘れない。長年付き合いのある仕入れ先を大切にしてきたのも、そんな教えがあったからだろう。

その姿勢は、商いのあり方にも表れている。かつては百貨店への納入に慎重だったが、担当者が何度も店に足を運んだことから、取り扱いが始まったという。販売先が広がった今も、商いの中心は高倉通の店にある。昔なじみの客の中には、菓子を求めるだけでなく、二代目夫妻との会話を楽しみに訪れる人もいる。長年の付き合いから生まれる親しさも、代々続く店が育んできたものだ。

店頭では長年の常連客との会話が弾み、奥では菓子作りが続く。高倉通の店には、今日も変わらぬ日常がある。菊水鉾の茶会から始まった「したたり」の物語は、祭りの季節だけでなく、菓子を求めて店を訪れる人々との間にも続いている。

亀廣永内観
木の温もりを感じる店内には、昔ながらのガラスケースが並ぶ。二代目夫妻との会話を楽しみに訪れる常連客も少なくない。
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亀廣永外観
歴史を感じさせる店構えが印象的。親子三代で京菓子の味を守り続けている。
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