• amakara.jp
  • おいしいお店
  • 菓子を通じて人を結ぶ京都『有職菓子御調進所 老松』。有職菓子から広がる新たな世界

菓子を通じて人を結ぶ京都『有職菓子御調進所 老松』。有職菓子から広がる新たな世界

明治41年(1908)創業、四代目を迎える京都・上七軒の『有職菓子御調進所 老松』。宮中の儀式に関わる有職菓子の文化を受け継ぎながら、茶席の菓子から日々の手土産まで幅広く手がける。大切にしてきたのは、菓子そのもののおいしさだけではない。贈る人と受け取る人、作り手と食べ手を結ぶ役割を見つめ、時代に合った菓子のあり方を考え続けている。

宮中の文化から始まった菓子作り

京都最古の花街として知られる上七軒。北野天満宮との縁も深いこの町に店を構える『有職菓子御調進所 老松』は、明治41年(1908)に創業した。
太田家はもともと公家の家系で、有職故実に関わる仕事を担っていた家系だという。その背景から菓子作りへと転じ、宮中の行事や儀式に用いられてきた菓子の文化を今に伝えている。

老松暖簾
白い暖簾に墨文字で記された『老松』。趣ある佇まいの店先には、上七軒らしい風情が漂う。
10

店内には「北野天満宮御用達」や「御婚禮諸儀御菓子調進所」と記された木札が掲げられ、店が歩んできた歴史を今に伝えている。
宮中の儀式や年中行事に関わる有職菓子の文化を受け継ぎ、現在も茶会の注文菓子を数多く手がける。季節を映す意匠や色使いにも心を配り、茶席にふさわしい一品を仕立てる。

菓子は味わうだけでなく、もてなしの場を彩り、人と人を結ぶ役割も担っている。

老松木札
店内に掲げられた三枚の木札。北野天満宮や寺院との縁を伝える文字が並ぶ。
10

上七軒の人々が育てた手土産

花街に根を下ろす店らしく、菓子は人付き合いの中でも役割を果たしてきた。
お茶屋を訪れる旦那衆が持参する、気の利いた手土産。そうした需要から生まれた菓子の一つが、夏の名物「夏柑糖」だという。

もとは近隣の人々に親しまれていた菓子が、やがて広く知られるようになった。
北野天満宮との長い付き合いもあり、梅の植樹などを通じて地域との関係を重ねてきた。

四代目の太田達さんは、菓子を人と人との間を取り持つコミュニケーションツールと捉えている。
茶を点て、菓子を供することで会話が生まれる。贈り物に込めた気持ちもまた、菓子を介して相手に伝わる。上七軒で培われた商いのあり方は、その考えにも重なっている。

老松内観
奥へと続くショーケースには、季節の生菓子や銘菓が並ぶ。ゆったりと品定めできる、落ち着きある店内。
10
老松うちわ
店内に飾られた芸舞妓さんの名前が入った団扇。花街との長い付き合いがうかがえる、京都らしい光景だ。
10

手仕事に残る、譲れない加減

長年使い続けてきた木型は、店の仕事を物語る道具の一つ。代々受け継いだものに加え、廃業する菓子店から譲り受けることもあるという。木型に適した桜材が手に入りにくくなった今、古い道具を使い続けることにも意味がある。

製法も基本は変えていない。
「おいしいのは当たり前。その先にある価値を大切にしています」と話すのは『老松』取締役の片岡さん。接客や包装、菓子の意匠まで含めて、選んでもらえる店であることを重視する。

一方、注文菓子では客の希望をそのまま受け取るだけでなく、実現できる形を職人から提案する。受け継いだ技術を使いながら、求められるものに応える柔軟さも持ち合わせている。

老松木型
店内の高い位置にずらりと並ぶ木型。大きさも文様もさまざまで、眺めているだけでも楽しい。
10
老松片岡さま
長年にわたって店に携わり、菓子の魅力や店の歴史を熟知する頼もしい存在の片岡さん。
10

柔らかな落雁に包まれた「御所車」

その姿勢がよく分かるのが、三代目が改良を加えた、代表銘菓の「御所車」だ。
牛車の車輪をかたどった文様が印象的で、餡を落雁で包み、三枚型の木型で仕上げる。特徴は表面からわずかに透ける餡の色。白く覆い尽くしても、餡が表に出すぎてもいけない。落雁の量とあんの大きさを見極める加減が、職人の腕の見せどころとなる。

「真っ白では駄目なんです。程よく餡が見えるようにしています」と片岡さん。

口にすると外側は思いのほか柔らかく、中にはしっとりとした粒あんがたっぷり。小豆の粒感もしっかりあり、見た目の繊細さとは対照的に餡の存在感が際立つ。

老松御所車
「御所車」は表面に浮かぶ細かな文様も見どころ。ひと口サイズながら、存在感のある京菓子だ。
10

伝統の味を受け継ぐ「松風」

一方、贈答品として親しまれてきた「松風」は生地の中に蜜漬けの桃を忍ばせて、白味噌と生姜を隠し味に使った焼き菓子。
味噌は昔から京都の石野味噌を使い、素材や仕入れ先も変えていないという。カステラを思わせる生地だが、洋菓子のスポンジとはまた違った食感。

白味噌と生姜は強く主張するのではなく、味に奥行きを添える存在だ。ホールサイズが中心だが、最近は少人数でも買いやすい4分の1サイズも登場。昔からの製法を守りながら、今の暮らしに合った楽しみ方を提案している。

老松松風1
表面に焼き色がついた「松風」。丸く焼き上げた姿も印象的で、茶菓子にも贈答品にも選ばれている。
10
老松松風2
切り分けた断面から、蜜漬けの桃が顔をのぞかせる。生地の黄色と桃の色合いが食欲を誘う。
10

次の百年へ、菓子の可能性を広げる

太田さんは商社での勤務経験を持ち、現在は大学で和菓子文化を伝える役割も担っている。
店では受け継いだ技術を大切にする一方、従業員全員に商品を企画する機会があり、考案した菓子を期間限定で販売することもある。

さらに、奈良や和歌山の生産者との縁から、希少な日本原産の柑橘「橘」を菓子に生かす取り組みも生まれた。種が多く、菓子作りには扱いにくい素材だが、作り手との信頼関係が新しい商品につながっている。

今、店では五代目への引き継ぎも視野に入る。
「私たちが楽しく仕事をすることが一番。それがお客様にも伝わると思っています」と片岡さん。
次の百年を考えるときも、客のために菓子を作る姿勢は変わらないという。

親が通った店に今度は子が訪れる。そんな客も多いという『老松』。
茶席を彩る一品も、誰かに贈る手土産も、そこには食べる人だけでなく、その先の相手を思う仕事がある。菓子を選ぶ時間まで楽しくなる。そんな一軒だ。

老松外観
昔ながらの格子戸に、白と紺の暖簾が映える『老松』。通りに面した店構えは、上七軒の町並みにもよくなじむ。
10

recommend

読まれている記事

『あべのハルカス近鉄本店』お菓子売り場がリニューアル。百貨店初&関西初が続々!

兵庫・伊丹『KUROPURI』。フレンチのシェフが手がける「クロワッサン」と「プリン」の専門店

京都『和菓子&ワイン 養老軒』が届ける フルーツ大福とワインの楽しみ方

「りくろーおじさんのチーズケーキ」おいしい理由&並ばず買える方法も

安田淳一監督【前編】待ってました! 日本アカデミー賞「侍タイ」スピンオフドラマ放送。独占インタビュー

『資さんうどん』広報がこっそり教える!「実はコレも食べてほしい」隠れた名物

『粟玄』の和洋[大阪]老舗おこし屋のモダンな名品

絶対に失敗しない「くたくたブロッコリーのタラコスパゲッティ」『寺町コロンボ』のひと手間レシピ

【番外編】俳優・津田寛治さん絶賛の「おたべ」。進化系、変化球に驚き!

ギネスビールが生む深いコク。大阪・中津『IRISH CURRY』の名物ポークカレー