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一人ひとりの声に応える、京菓子の老舗。京都『御菓子司 亀末廣』が守り続ける商い

京都・姉小路通に佇む『御菓子司 亀末廣』。江戸時代後期の創業以来、京菓子を作り続けてきた老舗は、今も客との対話を大切にする商いを貫いている。用途や好みに合わせて菓子を選び、細やかな希望にも応える。歴史ある店構えの奥には、一人ひとりの客と向き合いながら育んできたこの店ならではの付き合いがある。

姉小路通に続く京菓子の老舗

烏丸通から姉小路通を東へ進むと、重厚な木造の店構えが目に入る。
『御菓子司 亀末廣』は文化元年(1804)創業と伝わる京菓子の老舗。初代はもともと釜師をしていた人物で、京都へ移り住み菓子店を始めたという。当初の屋号は『亀屋末廣』だったが、四代目の頃に現在の『亀末廣』へと改められた。現在の建物は明治時代にはすでにあったといい、手入れを重ねながら大切に使われている。

亀末廣暖簾
淡い色の暖簾に染め抜かれた、亀をあしらった屋号。店先に掲げられた昔ながらの意匠が、通りを行く人の目を引く。
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長い年月を経た木の温もりが感じられる店内には、腰を下ろして菓子を選べる椅子もある。店が大切にしているのは、客と直接言葉を交わしながら菓子を届けることだ。
百貨店への出店やオンライン販売は行わず、店頭での対面販売を基本としている。
祝い事や仏事など用途によってふさわしい菓子は異なり、贈る相手の好みもさまざま。客の話に耳を傾け、希望に応じて菓子を選ぶスタイルは昔から変わらない。

亀末廣内観
昔ながらの趣を残す店内には、客と向き合う木製のカウンターが。会話を重ねながら、一人ひとりに合った菓子を提案する対面接客を大切にしている。
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亀末廣飾り棚
店内のガラス棚には、古い道具や菓子にまつわる資料、愛らしい置物などが並ぶ。一つひとつに目を向けながら眺めるのも楽しい。
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客との縁が支える商い

こうした一人ひとりとの付き合いを大切にする姿勢には、店の歴史も関わっている。
戦前は50人ほどの職人を抱え、料理屋などにも菓子を納めていたが、戦争によって職人や材料の確保が難しくなり、一時休業を余儀なくされた。
戦後、営業再開をためらっていた六代目を後押ししたのは、菓子を待ち望む客たちの声だったという。

その経験から、六代目は客との関係をより大切にするようになったそうだ。
売る側の満足よりも、買った人に喜んでもらうことを第一に考える姿勢は、現在の商いにも受け継がれている。
長く通う客の好みを知り、贈り物の相談にも応じる。店頭での何気ないやり取りを重ねることが、同店の商いを支えてきた。

亀末廣カウンター
磨き込まれた天板には、長年使い込まれてきた木ならではの艶がある。
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季節を映す「京のよすが」

『亀末廣』を代表する菓子の一つが、六代目の考案による「京のよすが」。
茶室の四畳半に見立てた箱に、草花や京都の風物をかたどった干菓子などが美しく並ぶ。蓋を開けたときの華やかさも魅力で、贈答品や手土産として親しまれている。

この詰め合わせには、四軒の別家が携わっている。それぞれが菓子を作り一箱に収めることで、さまざまな形や色、味わいが揃うのだ。中身は季節に応じて少しずつ入れ替わり、菊から柿、椿、梅へと、訪れる時期によって異なる意匠が楽しめる。

季節の切り替えを判断するのは、八代目の吉田かな女さん。暦だけで決めるのではなく、その年の気候や季節の進み具合も考えながら、少し先の季節を感じられるようにしているという。小さな菓子に映し出される四季の移ろいは、京菓子ならではの楽しみだ。

亀末廣京のよすが
秋の「京のよすが」。稲穂や小芋の葉、萩、光琳菊などをかたどった菓子が並び、黄色や緑、淡い紅色が箱の中を彩る。
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一休寺納豆を使った干菓子

もう一つ、個性的な味わいで知られるのが「絹のしずく」。
京都府京田辺市の酬恩庵一休寺で作られる一休寺納豆を用いた菓子だ。一休寺納豆は、大豆を塩水などに漬け込んで発酵させ、長期間熟成させたもの。一般的な糸を引く納豆とは異なり、黒く締まった豆には独特の塩気と深い旨みがある。

一休寺では、昔ながらの製法を守り、約一年間の天日干しと約一年間の熟成を経て仕上げているという。手間と時間をかけて作られた一休寺納豆の塩気が、菓子の甘さを引き立てる。京都の寺に伝わる食文化を、京菓子として味わえる一品だ。

亀末廣絹のしずく1
木箱にきっちりと収められた「絹のしずく」。白い生地に点々と見える黒い一休寺納豆が、見た目にも印象的な一品。
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亀末廣絹のしずく2
器に盛ると端正な姿が際立つ。賞味期間は約12日間。
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次代を担う八代目の想い

かな女さんは幼い頃から家業を継ぐことにプレッシャーを感じ、当初は積極的に継ぎたいと思えなかったという。歴史ある店を背負うことへの負担もあり、家業から気持ちが離れた時期もあったが、家族や店の人々は無理に答えを求めず、見守ってくれていたそうだ。

転機となったのは、店の番頭が一時体調を崩したことだった。“自分にも何かできることがあるのではないか”という思いから、家業に向き合うようになった。そこには、これまで支えてくれた人々への感謝もあったという。現在は主に接客を担当し、客の用途や好みを聞きながら菓子を届けている。

代々守ってきた菓子の味についても、譲れないことがある。材料は昔からの仕入れ先のものを使い、価格が高騰しても品質を落とすことはしない。長年食べ続けている客は、わずかな味の違いにも気づくという。製法も基本的には変えず、甘さなどを時代に合わせて微調整する程度にとどめている。

一方で、羊羹の包装を密閉できる形に改めるなど、買い求めやすさにつながる工夫も進めている。スタッフが考案する新しい生菓子にも目を向けている。従来の定番品や季節の菓子に加え、若い世代ならではの発想も少しずつ取り入れていきたいとかな女さんは話す。

まずは、これまで親しまれてきた味を変わらず届けること。そのうえで、時代に合った工夫を少しずつ重ねていきたいという。長く通う客との付き合いを大切にしながら『亀末廣』は次の代へと暖簾をつないでいく。

亀末廣スタッフさま
かな女さん(左から2番目)をはじめ、店を支えるスタッフの皆さん。明るい笑顔で日々の仕事を担っている。
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亀末廣勅題菓略図控
「勅題菓略図控」。菓子の意匠が描き留められた古い資料からは、図案を記録し、後世へ残してきた仕事ぶりがうかがえる。
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