ガストロ的“畑の景”──京都・木津『リストランテナカモト』の「季節の野菜の一皿」
木津近郊の旬野菜30~40種を最適調理
フライパンで菊芋やキノコなどを油焼きしながら、炭床を操る。アスパラやネギは背後のスチコンで蒸し焼き。調理台をくるっと回って、湯気を上げる鍋の中で葉野菜を茹で上げる。お隣の揚げ油の中、ジュッと音を上げたのは白ネギの根。仲本章宏シェフが幾つもの火入れを駆使して仕立てるのは、京都・木津『リストランテナカモト』のシグネチャーディッシュ「季節の野菜の一皿」。
30~40種の旬の野菜をそれぞれ最適に調理して、一皿に盛り合わせていきます。その日の顔触れを見て、考えながらやっているので、同じ野菜でも昨日と今日では火の入れ方を変えたりします。山芋は生でもおいしいので片面だけ焼いたり。菊芋ならシャリッとした食感を生かすように軽い火入れで。逆にナスは強めに焼いて、甘みを引き出して。毎日作る一皿ですが、毎日違うから楽しんですよ。
細長い板皿に、まずは白、紫、オレンジ、黄色と4色のレンコン。繊維感を感じさせる薄切りだ。その上に、焼きナスや椎茸、チンゲン菜、舞茸など存在感あるものを重ねていく。その土台の上に、彩りよく、様々な形の野菜や山菜をピンセットで次々と配し、パン粉と黒オリーブを添え、燻製リコッタチーズをたっぷりと。ドレッシングのシートを被せたら完成だ。
木津の地野菜を軸に、京都南部から奈良の五條や天理までの間で採れたものを主として使っています。農家さんから直接いただいたり、道の駅で仕入れたり。わざわざ食べに来てくださるのだから、ここでしか味わえない一皿をお出ししたいと思って、オープン時から作り続けている一皿です。コロナ禍の時にこの板皿を作っていただいて、ここ2~3年で、ようやく今のカタチが出来上がりました。
故郷への想いが漲る、おまかせコース
ドレッシングのシートを割って、上から順に食べていく。フレッシュな葉物もあれば、炭の香りを纏った根菜もある。焼いたり、蒸したり、揚げたりで、食感も様々だ。取材時は春だったため、そこにほろ苦さが加わったり。シートや生野菜に絡めた軽い酸味が、野菜の個性を鮮やかに感じさせる。チーズや黒オリーブのアクセントも手伝って、盛りだくさんな野菜の丘がするすると胃に収まっていく。
優しい酸味があると、野菜の風味の輪郭が感じられるので、カラマンシーという東南アジアの柑橘と白ワインビネガーでシートを作っています。細長く盛るようになって、なんだか畑みたいだなと思ったんで、じゃあ土もいるなと(笑)。この辺は砂地で畑の土の色が淡いので、そのイメージで。黒オリーブを乾燥させてパン粉と合わせたものを添えています。
『リストランテナカモト』は、昼夜共におまかせコースのみ。通年供す「季節の野菜の一皿」以外にも、「ここでしか味わえないものを」と魚は琵琶湖や京都の海から。肉も京都府笠置(かさぎ)の「田舎どり若様」や奈良の榛原(はいばら)牛を使う。パスタは得意の手打ち。コースのどの一品にも、故郷への仲本シェフの強い想いが漲っている。
この場所はかつて祖母が始めた『仲本食堂』があって、僕は18歳までここで育ちました。奈良のイタリアンに務めた後、20歳で渡伊。イタリア人は誰もが地元を誇りに思っていて、オレの故郷はこんな食材が名物だとか、自慢ばかりするんですよ(笑)。でも、その姿がすごく素敵で、カッコよかった。「僕の地元だって負けてない!」と思うようになって、木津で地産地消のイタリアンをやろうと心に決めて、修業時代を過ごしました。
15年目のローカルガストロノミー
イタリアに渡った仲本シェフは語学学校に通い、バゴガという街のトラットリアに住み込みで入った。「星付きレストランで働きたい」という想いを叶えるべく、なんとイタリア中のリストランテに手紙を書いて送ったという。念願叶って22歳で、フィレンツェの名店『エノテカ・ピンキオーリ』に入店。4年間の修業は刺激的だったが、毎日、膨大な仕事量に追われる日々だった。
1年後に大改装があって、パスタ場のシェフに村田 卓さん(大阪・谷町『a canto』)が抜擢されたんです。イタリア人の感覚を持ちながらも、仕事は丁寧。すごく尊敬できる方で。大量の手打ちパスタを一人で仕込む過酷な日々でしたが、一緒に仕事をし続けたかったので、歯を食いしばって頑張りました。3年後、村田さんが帰国されて、僕は憧れのN.Y.へ。ガストロノミーレストランで1年半働いて帰国し、東京の『il desiderio(イル・デジデリオ)』でスーシェフを経験させてもらい、31歳で木津に戻ってきました。
東京で新店を任せたいという申し出を断り、退路を断っての帰郷。京都の街中からも、大阪からも電車で1時間、奈良との県境にある木津川市で「ガストロノミーなレストランをやりたい!」という仲本シェフに、「800円の定食をやらんかったら地元の人は来いへんで」と両親は大反対。シェフ仲間からも心配の声が上がったという。
ローカルガストロノミーの流れを感じてましたし、「料理がよかったら、お客さんは来てくれる」と信じてたんですよ。まずは地元を知ろうと動き始めたのですが、木津川市は畜産物がなく、海も遠くて…。畑しかなかった(笑)。でも、その制限があったからこそ「季節の野菜の一皿」を生み出すことができた。SNSで見る都会のシェフの活躍がまぶしくて、ブレそうになった時期もありましたけど…。あんなにしんどい思いをしてイタリアで身に付けてきたことがあるのだから、それをベースに、ここでしかできない料理を作る。目新しいことはしなくても、得意なことをやり続けたらいい。そんな想いで、この一皿を作り続けています。
2011年開店の『リストランテナカモト』は今年、15年目を迎える。イタリアで得た技術と愛郷心をもって、仲本シェフは今日も「季節の野菜の一皿」に地元の畑の景を描く。春の芽吹きのものが終わり、今は初夏の生(な)りものが、このワンデッシュを彩っていることだろう。
data
- 店名
- リストランテナカモト
- 住所
- 京都府木津川市南垣外122-1
- 電話番号
- 050-3134-3550
- 営業時間
- 12:00~13:00入店(15:00クローズ)、18:00~20:00入店(23:00クローズ)
- 定休日
- 不定休
- 交通
- JR大和路線・奈良線・学研都市線木津駅から徒歩5分
- 席数
- テーブル10席(個室1室あり、2~4名)
- メニュー
- 昼コース15400円~、夜コース22000円~(どちらもノンアルコールペアリング・サービス料込)。アルコールペアリングの場合は、昼+3500円、夜+4500円。

writer

中本 由美子
nakamoto yumiko
青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。
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