菓子に宿る、発酵の旨み。京都『松屋藤兵衛』の「紫野松風」
甘さの中に塩味を添える独自の味
「松風」という菓子自体は古くから伝わるものだが『松屋藤兵衛』の「紫野松風」は、大徳寺納豆を用いることで独自の風味を生み出している。
生地に使うのは、小麦粉、白味噌など。発酵食品である白味噌のまろやかな甘みの中に、自家製の大徳寺納豆を散らすことで、時折感じる塩味が甘さを引き立てる。
味を決めるのは職人の見極め
材料を混ぜて焼くだけに見える「紫野松風」。しかし、その工程で最も重要なのが「寝かせ」の時間だという。
季節や天候によって、生地の状態は微妙に変化する。湿度や気温によって仕上がりが変わるため、決められた時間だけでは判断できない。
現在は夏期には冷蔵庫で温度管理を行うが、かつては井戸の中に吊るして自然の温度変化を利用していたという。
また焼き上げにも時間と手間を要し、時には一日中「紫野松風」を作り続けることもある。大量生産を目指すのではなく、目の届く範囲で丁寧につくることを大切にしているからこその仕事だ。
現在、店を訪れる客の半分以上が求めるのも、この「紫野松風」。店名よりも「松風さん」と呼ばれることがあるほど、この土地で長く愛されてきた看板菓子である。
「最後は人間の目で見るしかない」と九代目の前野恒治さん。
ミキサーやオーブンなど一部の機械は導入しているものの、味を左右する部分は昔ながらの感覚を守り続けている。
もっちり食感、奥深い余韻
口に運ぶと、最初に感じるのは白味噌のやさしい甘み。続いて、大徳寺納豆の塩味が全体を引き締め、白胡麻の香ばしさが余韻を添える。
「カステラとは違う、しっかりした食感」。
見た目以上に生地の密度があり、もっちりとした弾力のある食感も印象的。それでいて甘さは控えめで後味はすっきりとしているため、甘いものが得意でない人にもすすめやすい。
もともとは携帯食のような存在だった「松風」が、時代とともに茶席に合う菓子へと変化してきた背景もあり、現在も抹茶だけでなく、コーヒーや紅茶、ビールにも合いそうだ。
店頭だからこそ出合える味わい
「紫野松風」は、現在も店頭販売を大切にしている。
量産するために機械化を進めるのではなく、目の届く範囲で丁寧につくることを選ぶためだ。華やかさを競うのではなく、長く受け継いできた製法をしっかりと守る。その積み重ねが、一つの菓子に確かな存在感を与えている。
焼き上がりの時間も日によって異なり、時には品切れになることもあるため、事前予約をして訪れるのが望ましい。
また同店では、もう一つの看板菓子である「珠玉織姫」のほか、生菓子も事前注文で用意している。現在も茶会などで使われる機会が多く、茶の湯とともに育まれてきた菓子文化を支えている。
変えない味が、未来へつなぐもの
「紫野松風」を求めて訪れる客にとって、楽しみは菓子を手に入れることだけではない。前野さんとの会話も、店を訪れる醍醐味のひとつだ。店内に掲げられた仏教の教え「顔施(がんせ)」という言葉の通り、笑顔や穏やかな表情で人と接することを大切にしている。
また十代目の友彬さんは、和菓子づくりを通して職人の感覚の重要性を実感しているという。
「分量や作り方は決まっていますが、最後は手に触れた感覚や香りなど、五感で判断することが多い。これからもその技を磨きながら、先代から受け継いだ味を守り続けていきたい」。
同店の菓子には素材の力だけでなく、長い年月をかけて培われた職人の感覚と、人から人へ受け継がれてきた京菓子の精神が込められている。
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- 店名
- 松屋藤兵衛
- 住所
- 京都府京都市北区紫野雲林院町28
- 電話番号
- 075-492-2850
- 営業時間
- 9:00~18:00
- 定休日
- 木曜(月1回水曜不定休)
- 交通
- 京都市バス⼤徳寺前バス停から徒歩すぐ
- メニュー
- 紫野松風(1箱20個入)2,000円※事前予約が望ましい、珠玉織姫(1箱)3,000円※袋入りは100g 800円
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