シャリッとほどけて、小豆香る。京都『紫野源水』の「松の翠」
先代から受け継ぐ菓子を自らの名で
『紫野源水』の創業は1984年。店主の井上茂さんは江戸時代創業の老舗『源水』で修行し、父や兄弟とともに働いた後に独立した。「自分のお菓子を一軒で試してみたい」。そんな思いも店を構えるきっかけだったという。
「松の翠」のもとになったのは、店主の修行先で作られていた菓子。父の代から続く製法を受け継ぎ、独立後に自ら名を付けた。松は縁起のよいもの。そのうえで「みどり」という言葉の響きにも惹かれ、「松の翠」としたという。
小さな四角形に仕立てられた姿も印象的だ。表面には大納言小豆が顔をのぞかせ、すり蜜が細かな凹凸を描く。飾り立てるのではなく、素材そのものが意匠になる。手に取ったときから、ひと口の中に何が待っているのか気になる菓子である。
小ぶりな菓子から伝わる力強い表情
目を引くのは、表面に生まれた独特の凹凸。松の幹を思わせる意匠で、白いすり蜜の間から大納言小豆が顔を出す。端正に整えすぎない姿が、かえって印象に残る。
作り方は羊羹に大納言小豆をあしらい、その上からすり蜜をかけて固めるというもの。細かな配合は井上さんだけが知るところだ。
なかでも気を配るのが水分量。気温や湿度が変われば、当然菓子の状態も変わる。夏と冬では加減を変えながら、出来上がる味は一年を通して同じところへ到達させる。ごまかしがきかない小さな一菓なのだ。
シャリ、ほろりの意外性
口に運ぶとまず感じるのは、表面を覆うすり蜜のシャリッとした歯ざわり。そこから羊羹地がほろりとほどけ、大納言小豆の粒感が加わる。見た目から飴のような硬さを想像していると、そのやわらかな口当たりに少し驚かされる。
さらに噛み進めれば、すり蜜の甘みの奥から小豆の風味がじわり。ひと口の中で食感が移り変わるため、小ぶりながらも単調にならない。
そのまま味わうのはもちろん、合わせるなら抹茶や煎茶などの日本茶を。すり蜜と餡の甘みを味わった後にお茶を含めば、口の中がすっと整い、もうひとつへと手が伸びる。小ぶりだからこそ、菓子とお茶を交互にゆっくり楽しみたい。
一年を通して贈れる菓子
季節ごとに姿を変える菓子が並ぶなか「松の翠」は通年で作られている。
ひとつから購入はできるが、正方形の箱に収められる10個入りが人気。また季節の干菓子と組み合わせた詰め合わせもあり、自宅でのお茶請けはもちろん、贈り物にも選びやすい。
箱を開けると、小ぶりな「松の翠」と色や形の異なる干菓子が並ぶ。一つずつ味わうだけでなく、季節の菓子とともに眺められるのも詰め合わせならでは。食べる前から、京菓子らしい楽しさがある。
受け継ぐ味、新しく生む菓子
井上さんが作るのは、父の代から製法を受け継ぐ「松の翠」だけではない。
もう一つの看板菓子が「有平糖」。こちらは本家から技術を受け継いだものではなく、同店で手がけてきた菓子だ。季節のモチーフを表現する菓子だが、暑さや湿気の影響を受けやすいため、製造できるのは10月末頃から翌年4月頃まで。材料の分量が少し変わるだけでも、その透明感に違いが出るという。
井上さんは日頃から、目にしたものを「和菓子に使えるのでは」と考えているという。これからもアイデアを出していきたいという気持ちは変わらない。
父の代から続く製法を受け継ぐ「松の翠」と、自ら手がけてきた「有平糖」。一方は変わらぬ味を保ち、一方は季節の姿を飴に映す。
受け継ぐ仕事と、新しく生み出す仕事。その両方が『紫野源水』の菓子を形づくっている。
「松の翠」を購入できるのは店頭のみ。事前に電話で予約することもできるが、せっかくなら店を訪ねてみたい。
菓子の話になると職人らしいこだわりをのぞかせる井上さんと、店頭に立つ奥さんとの会話も、この店を訪れる楽しみのひとつ。菓子を選びながら交わす言葉から『紫野源水』の飾らない空気にも触れられるだろう。
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- 店名
- 紫野源水
- 住所
- 京都府京都市北区小山西大野町78-1
- 電話番号
- 075-451-8857
- 営業時間
- 10:00~17:00
- 定休日
- 日・月曜、祝日
- 交通
- 地下鉄北大路駅から徒歩10分
- メニュー
- 松の翠(1個)180円、松の翠(1箱10個入)1,990円、松の翠と干菓子詰め合わせ2,150円〜

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