SDGsとガストロノミー 【万博の記憶】あの日、トップシェフは何を伝えたかったのか?『菊乃井』村田吉弘氏インタビュー①
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世界のトップシェフは『菊乃井』の研修生だった!?
世界各国の料理人が、日本の食文化を学ぶため、京都の料亭のスタジエ(研修生)になる。それがなんと20年以上も続いていることをご存じだろうか? デンマークの『Noma(ノーマ)』のレネ・レぜピ氏を筆頭に、その顔ぶれはそうそうたるものだ。
僕と一緒に万博のシンポジウムに参加してくれた南仏『Mirazur(ミラズール)』のマウロも、カリフォルニア『Single Thread(シングルスレッド)』のカイルも、うち(『菊乃井』)のスタジエやったよ。マウロは今や3つ星シェフで、2019年には『世界のベストシェフ100』で世界一に選ばれた。うちに最初に来たのは15年以上前。日本料理の庖丁仕事や季節感の表現、うつわまで興味津々やったね。
『Single Thread』のカイル・コノートン氏は、カリフォルニアのテロワールと日本の食文化を融合させた、独自の料理を展開している。なんと9歳の時、日本料理に触れ、それが料理人を目指すきっかけになったという。
カイルは、何回もスタジエとしてうちに来てたなぁ。夫婦で環境再生型農業をやっていて、サスティナピリティに対する意識が高い。日本の食文化へのリスペクトが強くて、京都がすごく好きでね。宮川町の『カペラ京都』内に、レストランをオープンしたばかりやわ。
和食は世界一サスティナブルな料理
関西・大阪万博で6月に行われたシンポジウムには、もう一人、タイから女性シェフ『Baan Tepa(バーンテパ)』のチュダリー・デバカム=タム氏も招聘された。村田さんは、先月、彼女のレストランを訪ねたばかりだという。
タムちゃんは、昔ながらのタイ料理を自分の解釈で新しいものにしている。そこに、日本の食材を取り入れてて。おばあちゃんの邸宅をレストランにして、菜園も自分でやっていて、素晴らしい料理やったよ。2020年にオープンして、いきなり2つ星を取った注目の女性シェフやね。実は、この日、集まってもらった3人のシェフの共通点は、農園をやっていることやねん。
この日のシンポジウムのテーマは、食のサスティナビリティも追求した、新しいおいしさの発信。自ら育てた野菜やハーブを料理に使うだけでなく、廃棄物ゼロを目指したり、環境再生型の農業を実践したり。持続可能性とガストロノミーを調和させる3人のトップシェフは、日本の食文化に強い関心を持っている。
環境に負荷をかけない美食の提案は、今、世界中のレストランがやっていること。その最先端を走っているのが日本やと僕は思っている。例えば、CO₂の排出量が一番少ないのは日本料理。素材を使い切る工夫をしてるし、油脂にも頼らない。油を一滴も使わずに作れるのは、日本料理しかないから。精進料理はベジタリアンやハラールにも対応できる。会席料理は全部食べても1000キロカロリー以下とヘルシーでしょう。フレンチに比べて半分以下やねんから。“軽さ”を求める現代ガストロノミーのヒントが、日本料理にはたくさんあるんやね。
うま味は最先端ガストロノミーの共通ワードに
世界のトップシェフたちが、最もリスペクトしているのは、和食の味の構成だと村田さんは言う。肝となるのは、だしだ。
他国のスープに比べて、だしはヘルシーで低カロリー。でも、グルタミン酸とイノシン酸の“うま味の相乗効果”によって深い味わいがある。うちにスタジエで来たシェフたちは、これからの時代に必要なものやとピンと来たんやろうね。うま味を軸にして、クリームもバターも使わずに独自の料理を作り始めた。それが、クリエイティブで現代的なガストロノミーとして世界的な注目を集めているわけや。今回のイベントは官民合同で、キッコーマン株式会社にもご参加いただいたけど、今や世界中のトップシェフが醤油のうま味も活用しているわな。
和食を学びにやって来たシェフたちは、自国に帰って、日本料理、店を開くわけではない。マウロ氏はフレンチ、カイル氏はカリフォルニア・キュイジーヌ、そしてタム氏はタイ料理に、日本料理のエッセンスを落とし込んでいる。
うま味のレベルを上げると、油脂に頼らなくても、満足度の高い料理ができる。それを彼らは日本料理を通して会得し、自分の料理として表現してる。うま味を中心に、料理を構成しているワケやね。うま味は発酵食品にもあるし、昆布とカツオ節以外の食材にもあるから。例えば、昆布のグルタミン酸はトマトにも豊富に含まれている。ドライトマトはだし素材になるんやね。カツオ節の代わりに、鶏節やジビエの節を使ってもいい。今、害獣が問題になっているから、鹿節とか熊節を工夫したら、食の課題解決に繋がるでしょう。

writer

中本 由美子
nakamoto yumiko
青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。
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