海藻が食の未来を救う! 【万博の記憶】あの日、トップシェフは何を伝えたかったのか? 『菊乃井』村田吉弘氏インタビュー②

大阪・関西万博で昨年6月に開催された食の国際交流イベント「おいしさでつながる世界」。その初日は、世界の星付きシェフ3人とのシンポジウムが開かれ、『菊乃井』三代目の村田吉弘さんは一つの食材の可能性を語りました。「海藻が食の未来を救う!」。そのココロを、今回はじっくり語っていただきます。

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日本は世界一の海藻大国

鯖の価格が高騰している。広島の養殖牡蛎は、昨年に引き続き、今年も大量に死滅してしまったという。ここ数年、海の問題は深刻化し続けている。「料理人として、どう向き合うか?」。関西・大阪万博のシンポジウムで、村田さんは世界のトップシェフたちと、どんなディスカッションを繰り広げたのだろう。

世界中が同時発生的に関心を持っているのは、海藻。南仏のマウロ(『Mirazur(ミラズール)』シェフ)は、「昔はヨーロッパ人は海藻を食べなかった」と言うてたけど、今やダルスという海藻でソースを作っている。なんでかと言うと、海藻は 海の環境や生物多様性の保全に貢献する、最も注目すべきサスティナブルフードだから。『菊乃井』でも、沖縄で「スーナ」と呼ばれるユミガタオゴノリや、赤いモズクみたいなミリンという海藻を取り入れてるよ。

マウロ・コラグレコ氏
フランス・マントン『Mirazur』のシェフ、マウロ・コラグレコ氏。シンポジウムの翌日に仁和寺で開催されたディナーにて。
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鴨とチェリー 海藻の香り
マウロ氏が『木乃婦(きのぶ)』とコラボした料理「鴨とチェリー 海藻の香り」。鴨のソースには、紅藻類のダルスが。焼くとベーコンのような風味があることから「海のとろけるベーコン」と称される。
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日本は四方を海に囲まれた島国。世界第6位の海域面積を誇る海洋国家だ。周囲の海では1500種を超える海藻が生息し、そのほとんどが食べられるという世界一の海藻大国でもある。官民合同の今回のイベントでは、“鉄を使った藻場の再生”に地道に取り組む日本製鉄も名を連ねている。

日本は、世界で最も海藻食文化が進んでる。我々は世界一、よく海藻を食べる国民なんやね。それが平成の間に“海藻離れ”が進んで、消費量が半減した。地球温暖化や環境の変化で、海の中は「磯焼け」が進んでいる。つまり、沿岸の岩礁(がんしょう)で海藻がなくなって“海の砂漠化”が起こってるワケや。そうなると、魚が産卵する藻場がなくなる。魚が獲れなくなっているのは、温暖化のせいだけじゃなく、藻場が失われたことで生態系が変わってしまったことが大きな要因なんや。

仁和寺レセプション風景
仁和寺で振る舞われた昼夜の料理は、村田さんが監修を務めた。
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海藻を食べることは海の再生に繋がる

関西・大阪万博のシンポジウムから2カ月後、村田さんは、一般社団法人「Ocean Forest Project(オーシャン フォレスト プロジェクト)」を設立。料理人と生産者、研究者、企業などが協働し、海藻を通じて海の再生と食文化の未来を考える取り組みを始めた。

天然の青海苔が絶滅の危機に瀕してるなんてこと、食べ手はまだ知りはらへんけどね。今、僕らの仲間である海藻ブランド「Sea Vegetable」がスジ青海苔の陸上養殖を始めている。少し前に静岡の海面栽培を見に行ったけど、彼らは全国30カ所で栽培に取り組んでるんや。目的は、海藻食文化を守り、発展させること。海藻を「食べる」ことは、海の再生に繋がるんや。

「おいしさでつながる世界」イベントの料理
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「おいしさでつながる世界」イベントの料理
仁和寺での昼のレセプションでは、京都の料亭と3人の海外シェフによる料理が披露された。『一子相伝なかむら』は、海藻類や海苔などを取り入れ、酢の物や干瓢巻を仕立てた。
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村田さんを筆頭に、国内外のシェフたちが注目している海藻。サスティナブルな食材としての魅力を、さらに具体的に聞いてみた。

海藻はCO₂の吸収量が陸上の植物より多い。海の中で、海藻は光合成をしてるから。つまり、地球温暖化に貢献できるワケ。そして、海藻はエサをやらなくても育つ。1tやった海藻が、ひと冬越したら10tになるんやから。 タンパク源として可能性も期待できるわな。世界の人口が増え続けると、地球中のたんぱく質が食い荒らされていく。でも、海藻を守り、育てておいたら、高たんぱく質の食材が確保できるでしょう。アメリカは昆虫食を“持続可能なスーパーフード”としてるけど、虫と海藻、食べるならどっちがええかって話やね(笑)。

「おいしさでつながる世界」イベントの料理
仁和寺でのイベントは、京都の料亭の若主人たち活躍。今回のテーマ「食のサスティナビリティの追求と最高峰の食の提案」は次代に受け継がれていく。
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未利用な海の幸を、料理人の手で食卓へ

私たちが身近に食べている海藻は10数種。1500以上が食用できるなら、残りは未利用な食材だ。その食べ方を指南するのも、料理人の重要な役割だと村田さんは言う。

有明で海苔が採れてないでしょう。これも生態系が変わったから。プランクトンの赤潮によって、海苔が色落ちするワケや。そうすると売り物にならない。「Sea Vegetable」が陸上養殖を始めたので、うまくいったら、その海苔をまず我々料理人が使ってあげないと。食べ方の提案を含めて、バイヤーや消費者に広めていく。そのためには、海を研究することも大事。「Ocean Forest Project」は、一般社団法人「Good sea」と組んで、海藻の海面栽培による生態系調査を進めてるんや。

『菊乃井』村田吉弘氏
京都の料亭『菊乃井』三代目主人。和食 日本人の伝統的な食文化」のユネスコ無形文化遺産登録、「京料理」の国の登録無形文化財への登録に尽力。2018年、文化功労者に選定される。日本料理アカデミー名誉理事長。
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村田さんは、海の問題の一つに食害があるという。その一つが“海の厄介者”と呼ばれるアイゴの存在。海藻を食い尽くして、磯焼けを引き起こす魚だが、適切に下処理すれば、意外と美味しい白身魚なのだそう。

アイゴは決して不味い魚じゃない。でも、食べる習慣がないから、漁師は獲ってもお金にならないんやね。それやったら、僕ら料理人がアイゴの食べ方を指南したらええねん。例えば、干物にするとか。それで、「アイゴを食べると、海の環境が保たれる」ってことを食べ手に伝える。「食べることで、海が守れる」って知ったら、みんな協力してくれはると思う。まだまだ伝わっていないんやね。でも、食べ手の方も、もうちょっと海の問題を知る努力をしてほしいな、と思うけど。

SDGsとガストロノミー 【万博の記憶】あの日、トップシェフは何を伝えたかったのか?

『菊乃井』村田吉弘氏インタビュー①

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writer

中本 由美子

nakamoto yumiko

青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。