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“賢い食いしん坊”になってほしい 【万博の記憶】あの日、トップシェフは何を伝えたかったのか? 『菊乃井』村田吉弘氏インタビュー③ 第3回(全3回)

昨年6月、世界のトップシェフを招き、大阪・関西万博で開催された食の国際交流イベント「おいしさでつながる世界」。『菊乃井』三代目の村田吉弘さんが「あの日、伝えたかったこと」を改めて語るインタビューの最終回。持続可能なガストロノミーを見極められる“賢い食いしん坊”になってほしい。村田さんが食べ手に贈るメッセージをお届けします。

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ガストロノミーの本質とは?

関西・大阪万博のシンポジウムで、『菊乃井』三代目の村田吉弘さんが世界のトップシェフたちと語り合ったのは、食のサステイナビリティも追及したガストロノミーのあり方だった。ガストロノミーとは何か。私たち食べ手は、その本質を理解しているだろうか。

日本語にすると「美食学」。高級食材を使ったリッチな食という意味ではないんや。ウン万円も払って、和牛にウニ、フグにキャビアをのせたような料理を食べるのが美食なのか?と僕は問いたい。『菊乃井』のお客さんは、伊勢エビやアワビもそら喜んでくれはるけどね。「このナス、ええ具合に炊けてて、おいしいなぁ」って、そういう料理の真価を分かってくれはる方も多い。料理屋は食材を食べに行く場所と違うんや。料理を食べに行くところなんやから。

京都『菊乃井』本店
大正元年(1912年)創業の京都屈指の料亭『菊乃井』本店。屋号は、豊臣秀吉の妻・北政所が愛用した高台寺近くの名水「菊水の井」に由来。
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では、食のサステイナビリティも追求したガストロノミーとは、具体的にどんなものか。今回、登壇した3人のトップシェフのレストランは、その最先端にある“未来型”だと村田さんは言う。

→SDGsとガストロノミー【万博の記憶】あの日、トップシェフは何を伝えたかったのか?『菊乃井』村田吉弘氏インタビュー①の記事はコチラ

3人とも菜園を持っていて、自分で育てた野菜やハーブを使って、クリエイティブな最高峰の料理を作っている。それは持続可能なカタチと言えるでしょう。牛肉や海鮮を使わずとも、うまいもんは作れる。「おいしさでつながる世界」イベントの2日目、仁和寺で行われたレセプションで、『菊乃井』とカリフォルニア『Single Thread(シングルスレッド)』のコラボ料理として振る舞ったのは「夏野菜の煮凝り」。野菜だけでも充分ご馳走ができるということが、参加者の皆さんに伝わったんと違うかな。

『菊乃井』と『Single Thread』のコラボ料理
『菊乃井』とカリフォルニア『SingleThread』カイル・コノートン氏のコラボ料理「夏野菜の煮凝り」。
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『菊乃井』村田吉弘さん
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国産ブランドを守るためのアクション

村田さんは、GI認証(地理的表示保護制度)の協議会の会長も務めている。地域独自の伝統や風土に育まれた品質・評価を持つ農林水産物・食品の名称を、知的財産として国が保護・登録するというものだ。

海の向こうには、中国産の“静岡メロン”があるそうや。静岡で作ってるから“静岡メロン”やのに、おかしな話やわなぁ。そういう模倣品から日本ブランドを守るためにも必要な制度やねんけどね。国内の産品の正しい価値を食べ手に伝えて、生産者を守るためのものでもある。今の日本の食料自給率は37%。50年後には19%になると言われている。僕はそのことに強い危機感を持っている。このままやと、未来の子供たちが飢えてしまうんやから。

『菊乃井』と『Single Thread』のコラボ料理2
仁和寺で行われたガラディナーで、『菊乃井』と『SingleThread』が披露したのは「GI京野菜 カリフォルニア・京都炊き合わせ」。
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『菊乃井』と『Single Thread』のコラボ料理3
同ディナーでは、『菊乃井』と『SingleThread』のコラボによる「万願寺甘唐のすり流し」も振舞われた。
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地球温暖化、海の“磯焼け”…と、生産者には逆風が吹き続けている。魚介や野菜の値段は上がり、品薄になる一方だ。記憶に新しいところでは、令和の米騒動がある。2024年の夏、売り場から米が消え、我々はパニックを起こした。

日本は7割が山で、米作りできるのは残り3割のわずかな耕作地。それやのに休耕田が少なくない。日本の人口は今、1億2065万人やけど、50年後には8000万人になると言われてて。その内訳は、60歳以上が45%、働き出す前の子供たちや学生さんが30%。25%が75%の人を食べさせる未来が、もうそこまで来てるんや。今、国内の食の生産性を高めるアクションをしないとアカン。そこには、食べ手の協力が不可欠なんや。

仁和寺でのガラディナーの光景
仁和寺のガラディナーは「食のサステイナビリティの追求と最高峰の食の提案」をテーマに開催された。
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食の未来のために、食べ手が今、できること

村田さんの言葉には説得力がある。どこか他人事だったSDGsを、身近な課題として伝えてくれる。では、食の未来のために、今、食べ手ができることは、どんなことなのだろうか。

百貨店でもスーパーでも、トマト売り場は充実してるでしょう。僕の小さい頃は、青っぽいトマトしかなかったんや。「完熟した甘いトマトが欲しい」という消費者の声が、市場を変えた好例やね。消費者の力は大きい。おいしくて新鮮なものを、適正な価格で食べたいと誰もが思うでしょ。そんな声を上げるためにも、食の現状をもっと知ってほしい。

『菊乃井』三代目主人・村田吉弘さん
京都の料亭『菊乃井』三代目主人。和食 日本人の伝統的な食文化」のユネスコ無形文化遺産登録、「京料理」の国の登録無形文化財への登録に尽力。2018年、文化功労者に選定される。日本料理アカデミー名誉理事長。
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そして、もう一つ。“賢い食いしん坊”になってほしい、と村田さんは言う。天然ものは養殖ものに劣る。例えばそんな意識を変えることも、サステイナブルな食の未来に繋がる。産地や銘柄がおいしさを決めるワケではない。感謝していただこうと思う人のところに“おいしい神様”はやってくるのだと。

魚介は最盛期の1/3になってるんやから、天然ものばかりが口に入るワケやない。これからの料理人は、養殖もんをいかにおいしく仕立てるかを考えていくんやから。地球温暖化で産地も変わりつつあるから、大間のマグロが一番というのも、もはや神話や。そもそも、そんなにいろんな産地のマグロを食べ比べたことあるのん?(笑)。客単価5万円以上のレストランが増え続けてるけど、それがガストロノミーの代表やないよ。サステイナブルな食材を使いながら美食を追求すれば、値付けも節度あるものになる。そういう店を見極められるのが“賢い食いしん坊”やないかな。

【万博の記憶】あの日、トップシェフは何を伝えたかったのか?

『菊乃井』村田吉弘氏インタビュー 第1回 はコチラ。

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