京菓匠『鶴屋吉信』代々“ヨキモノ”を創り続ける

京菓子が今に近い姿になった江戸時代後期に創業。明治維新後には、代表銘菓のひとつになっている「柚餅」を3代目が創案。創業以来“ヨキモノを創る”という理念を掲げ、京菓子文化を継承しつつ、現在の7代目は新ブランドの立ち上げやゲームメーカーとのコラボも行うなど、新しい京菓子も追及し続ける老舗です。

伝統を守り、同時に挑戦も続ける

享和3(1803)年の創業以来、「ヨキモノヲツクル為ニ材料、手間ヒマヲ惜シマヌ事」という家訓を代々受け継いでいる菓匠。3代目創案の「柚餅」を始め、「福ハ内」や「京観世」など、数多くの銘菓を世に送り出し続けています。

一方で、「星のカービィ」や「ANNA SUI」とのコラボ商品が大きな話題を呼ぶなど、斬新な取り組みでも知られますが、そんな挑戦も『鶴屋吉信』にとっては“昔ながらの伝統”。数多くの功績で知られる4代目は、大正時代にプリンのレシピを書き残していたそうです。

京都『鶴屋吉信』外観
景観に配慮した建築であることから、京都市都市景観賞を受賞した本店建物。京都の伝統建築である町家と数寄屋建築の粋が取り入れられている。
京都『鶴屋吉信』店内
ショーケースに使われているのは、樹齢数百年の栗の一枚板。日本栂(とが)で造られている腰掛台もある1階店舗ではゆったりと買い物が楽しめる。
京都『鶴屋吉信』ウィンドウ
年始の新春飾りからクリスマスツリーまで、ウィンドウには季節や行事を表現した工芸菓子などが飾られ、行く人の目を楽しませてくれる。取材時は、すり琥珀で作られた祇園祭の鉾が。
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2階には趣ある茶寮や実演コーナーも

平成4(1992)年に竣工した本店は、数寄屋造の名建築家である中村外二氏がデザインを手がけました。樹齢数百年と言われる欅の一枚板に4代目と親交が深かった文人・富岡鉄斎氏が揮ごうした大看板、折節の趣向が楽しめる入口のウィンドウ、信楽焼の大陶板を敷き詰めた販売スペースなど、随所で伝統的な建築様式や建材の美しさが堪能できます。

2階にある茶寮に向かえば、フランスの古城で使われていたレンガを敷き詰めた和洋折衷の美が楽しめるエレベーターホールが。その一画に設えられた「菓遊茶屋」は茶室を思わせる静謐な佇まいで、和菓子職人の美しい手さばきを眺めた後に生菓子がいただける実演カウンターになっています。

京都『鶴屋吉信』実演
実演カウンター「菓遊茶屋」はオンライン予約が可能。実演は1枠40分制で、空きがあれば予約なしでも利用できる。生菓子は2種類から選べるが、+770円で両方味わえる。抹茶とのセット1760円、煎茶のセット1650円。
京都『鶴屋吉信』季節の生菓子とお抹茶
季節の生菓子(つゆくさ)とお抹茶1760円。この日は、夏に青い花を咲かす「つゆくさ」と“こなし”製の夏の花「石竹」を実演。
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つぶ餡を丸めて作った玉に、“通し”と呼ばれる裏漉し器を通してそぼろ状にした餡をふんわりまぶします。青紫と黄色に色づけした“こなし”を乗せ、朝露をイメージした琥珀を散らせば、夏の菓子「つゆくさ」が完成。職人さんとのコミュニケーションも楽しい時間が過ごせます。出来たての生菓子は、お抹茶又は煎茶と共にその場で味わえます。

茶寮には北山杉の床柱と皮付赤松の床框の取り合わせが見事な茶室「游心」もあります。その周りにはテーブル席があり、季節の生菓子とお抹茶のセット、かき氷(夏季限定)、くずきりなどのメニューが味わえます。

ここで味わいたいのが「京(みやこ)セット」。『鶴屋吉信』の代名詞的存在でもある3種、京観世と柚餅、万葉集にも登場した「しみじみと、心ゆくまで」という意味を持つもちもちの焼菓子“つばらつばら”がお抹茶とともに楽しめる大満足セットです。

京都『鶴屋吉信』京(みやこ)セット
京(みやこ)セット1540円。能楽の家元・観世家(かんぜけ)ゆかりの観世稲荷社にある井戸を表現したロングセラー銘菓「京観世」、香りさわやかな求肥菓子「柚餅」、銅板で焼き上げる皮で十勝産小豆の小倉あんを包んだ“つばらつばら”のセット。1540円。+33円で、備中白小豆と北海道産の手亡豆を使用した白羊羹にオレンジピールを加えた、京観世オレンジ(5月中旬~8月中旬限定)に変更することができる。
京都『鶴屋吉信』2階店内
緑が美しい中庭を望む茶寮店内には、工芸菓子が展示されていることも。写真は、2025年に旭川で開催された「第28回全国菓子大博覧会・北海道」で農林水産大臣賞を受賞した「京のいろどり」。菓子で作られた椿、紅葉、桜、紫陽花は本物と見紛うほど。
京都『鶴屋吉信』茶寮入口
茶寮へは、1階店舗横の暖簾をくぐって向かうのもおすすめ。
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老舗菓匠が手がける、ナチュラルテイストのカフェ『tubara cafe』

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