シンプルisパワフル!──大阪『トラットリア パッパ』の「スパゲッティ イワシのペーストソース」

剛速球で押し寄せる、イワシの内臓の旨み。大阪・新町『トラットリア パッパ』松本喜宏シェフのワンデッシュは、アラを丸ごとソースにした極太スパゲッティです。2002年のオープンから四半世紀、魚介イタリアンはシンプルさを増し、ますますパワフルに快進中。

陽キャラシェフの“開かれた”レストラン

“魚介オンリーのパワフルイタリアン”で知られる『トラットリア パッパ』が、大阪・新町に誕生したのは2002年。当初はカウンターにその日の魚介を並べ、「赤貝はカルパッチョ、サザエはパスタにしましょか」なんて会話をしながら料理を決める割烹スタイルを目指していたという。「でもねぇ…お客様と話してたら料理ができないと気が付いて(笑)。今はコースが主流になりました」と松本喜宏シェフが笑う。

「トラットリア パッパ」の鮮魚
この日、松本シェフが市場で仕入れたピカピカの魚介。赤貝やアワビ、サザエなどの貝類や甘鯛、金目鯛、ノドグロにスルメイカ、丸々と肥えたイワシなど。
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でも、アラカルトは残してますよ! パスタや魚料理は、食材やソースと調理法を組み合わせてカスタマイズできるスタイルが定着してて。「貝でいろいろ作って!」みたいな常連さんもいらっしゃいます。その一方で、6000円のコースを食べに来てくれる若い子も大事なんですよね。レストランの語源は、回復させるという意味の「restaurer(レストーレ)」。だから僕は「元気になりました!」って言われるのが一番嬉しい。広い客層の広いニーズに応えるレストランであり続けたいと思ってます。

松本シェフは、明るくポジティブな陽キャラだ。出身は北海道の旭川出身。高校生の時、原宿でスパゲッティ専門店の「エビのクリームソースパスタ」に感動してイタリアンの道へ。1984年、麻布十番の老舗リストランテ『ラ・コメータ』に入店し、鮎田淳治シェフの薫陶を受けた。バブルとイタ飯ブームの真っただ中、職人気質で行動派の師匠の下で、忙殺されながらも濃密な7年間を過ごしたと振り返る。

「トラットリア パッパ」の松本喜宏シェフ
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営業が終わった夜に車を走らせて北海道の産地に行ったり。取材も多くて、シェフが口述するレシピの分量を確認して書き出したり。出来が悪い方だったんで、よく怒られました。自分はどこがダメなのか、ノートに書き出しては落ち込んで…。今より30キロ以上細かった(笑)。けど、師匠のことは好きやったんですよ。いろんな経験をさせもらって感謝してます。今の僕があるのは、間違いなく師匠のおかげです。

魚介オンリーの気さくなイタリアン

大阪にやって来た松本シェフは、ホテルのイタリアンに入店。その5年後、阪神・淡路大震災が起こった。ホテルの避難客のために料理を作る日々の中、とあるレストランのオーナーに誘われ、小学校の炊き出しに参加。雪の降る日だった。寒さで手足を震わせながらパスタを作るシェフに、被災したおばあちゃんが自分のカイロを手渡してくれたという。

あの瞬間、僕の料理人人生は変わりました。ホテルではなく町場で、人に喜んでもらうレストランをしようと。そのオーナーのお力で、1995年にカジュアルな『イタリア食堂ピノ』を開店。当時は高級イタリアンも多かったので、逆張りが功を奏して繁盛しました(笑)。グラスやデキャンタで気軽にワインを飲むスタイルも喜ばれて。でも、統括シェフになって店舗展開をするより、僕はお客さんと接してる方が性に合ってたんで、2002年に独立しました。

『トラットリア パッパ』内観
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お客さんに背を向けて料理をしたくないとオープンキッチンに。「おいしい笑顔が見たかったし、僕も見られたかったし(笑)」長いカウンターを設え、舞台を整えた。当時は炭火で肉も焼いていたというが、1年後、魚介に特化。その英断が『トラットリア パッパ』を繁盛店へと押し上げていく。

市場に行くのが好きだったんですよ。当時はホントに活気があって、毎朝、ワクワクしながら仕入れしてました。イタリアンは肉がメインやけど、僕は魚の方が好きだし、振り切っちゃおうかな、と。右向け右、みたいなのは性に合わないのかも…。意外と天邪鬼なところがあるんですよ(笑)。

イワシのアラと内臓の旨みがさく裂!

大羽イワシ
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松本シェフが選んだワンデッシュは、イワシのペーストのスパゲッティ。「今日のはいいですよ!」。丸々と肥えた大羽(大ぶりのサイズ)の身は、名物のカルパッチョに。残った内臓や頭、骨などを使ってパスタのソースを仕込むという。「SDGsでしょ?」。松本シェフがニマッと邪気なく笑う。

ベネト産ホワイトアスパラガス
大羽イワシのカルパッチョは1人前990円。『トラットリア パッパ』のカルパッチョは12種。盛合せもウエルカムだ。
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イワシは年中どこかしらで揚がるし、僕の大好物だし。ある程度の量を仕入れるので、余った頭や内臓をソースにしたら絶対に旨いと思って。修業時代からの教えで、トマトも湯むきしたら皮や種も捨てずに使うし、魚のアラは焼いてストックしてだしを引いています。その方がおいしいものできるから。SDGsって言ったけど、もったいないからじゃなくて、ずっとやって来たことを続けているだけ。いい食材を仕入れたら、捨てるとこなんてないんですよ。

大羽イワシのソース
大羽イワシのアラと内臓を180℃で30~40分焼く。ニンニク・玉ネギの蒸し焼き、白ワインと合わせて約40分煮込み、トマトソースを加えてさらに20分。裏漉ししてペースト(画像右)に。
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「マンチーニ」のスパゲッティ
2.4㎜のスパゲットーニは「マンチーニ」製。「ソースの濃度を茹で汁で調整するから」と茹で汁に塩を加えないのが松本シェフ流。袋の表示より1分短く12分茹で、温めたイワシペーストと合わせる。
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イワシペーストとパスタを絡める
イタリアンパセリとオリーブ油、塩を加えて、1分煮込んで完成。
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極太の麺は「マンチーニ」。小麦の香りが強く、もちもちとした食感が、松本シェフのお気に入りだ。表面がざらついているので、イワシのソースをしっかりと絡め取るのも利点。内臓の香ばしさを持ち上げ、ほろ苦さを抑える名脇役はトマトソースだ。凝縮されたこっくりと深い旨み中に、少しの“抜け感”があって、次の一口が止まらなくなる。

見た目もグロいし(笑)、こんなソース作る料理人、あんまりいないでしょう。イワシ好きには響くけど、かなりニッチなワンデッシュ。でも、その方が面白いじゃないですか。ここ数年は、万人受けする料理でなくていいかな、と思うようになって。思い切って引き算できるようになったんで、料理がどんどんシンプルになってます。

『トラットリア パッパ』のスパゲッティ イワシのペーストソース
マンチーニスパゲッティ 大羽イワシのペーストソース1980円。
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「パスタはソースで煮込んだ方がおいしい!」というのが、松本シェフの持論。その塩分を考えて、茹で汁に塩を加えない。そんなオレ流を積み重ね、“魚介オンリーのイタリアン”はますます凄みを増してる。シンプル is パワフル! それが松本シェフの現在地だ。

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writer

中本 由美子

nakamoto yumiko

青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。