鉄板割烹の一椀──京都『祇園一道』の「フカヒレと鯨の尾羽 白味噌仕立て」
“鉄板割烹”の唯一無二のコース
食いしん坊は欲張りだ。「焼きそば作って~な」「ハンバーグやったら旨そうやな」「伊勢エビを豪快に焼いてほしいなぁ」。鉄板を前にしたお客のリクエストに、開店から数年、店主の関 孝明さんは可能な限り応えた。その柔軟さが功を奏し、『祇園 一道』の唯一無二のコースは出来上がった。先付に始まり、前菜にお椀、焼物からの焼きそばとミニハンバーガー、ステーキにすき焼きも供してガーリック炒飯、デザートで締める。豪華でエキサイティングな流れだ。
「和食のコースを鉄板で」というのが最初のコンセプトだったんですけどね。今は、炭水化物と体に悪い贅沢なもんばかりのコースになりました(笑)。僕は寿司屋の次男坊で、漠然とその道を行こうと思ってたんですが、左利きなので握る手が逆になるからと断念して。和食の勉強をしに京都に来て、ホテルに就職。配属されたのが鉄板焼部門で。10年以上経験を積ませてもらって、2011年に独立しました。
開店当初は、先付やお造り、お椀は王道の和食。そこに、鉄板で仕立てるステーキやガーリック炒飯を組み合わせたコースを供していた。それが“鉄板割烹”として話題を呼び、食いしん坊が続々とやって来て、連夜カウンター席を埋めた。
『水野真紀の魔法のレストラン』のプロデューサーだった本郷義浩さんは開店2年目から通ってくださいました。「普段やらないことに挑戦して」というオーダーをお受けして、番組で焼きそばとミニハンバーガーをご披露したら、そっちの方がお客様に受けまして(笑)。当初は同じ鉄板の上で魚介と肉を焼くことにすごく抵抗があったんですが、とあるお客様に「鉄板をその都度キレイにしたらええんちゃう?」と助言をいただいて。それなら、すべての火入れを鉄板でやってみようと思ったんです。
鉄板で焼き上げるフカヒレが椀物の主役
今回のワンディッシュは、6月のコースで供すお椀「フカヒレと鯨の尾羽 白味噌仕立て」。気仙沼の肉厚のフカヒレに粉を打ち、鉄板に太白ゴマ油とバターをしいて片面焼きに。途中で水を差して蓋をし、香ばしい焼き目を付ける。これを椀物の主役に据えるのだからアバンギャルドだ。しかもこのフカヒレ、鉄板にのせるまでに4日も仕込みに要すると言う。
日本料理のお椀は澄んだだしが美点ですけど、うちは鉄板で火入れするので、油脂を使いますし、吸い地が濁るのは仕方ないんです。でも、油とフカヒレは相性がいいですし、香ばしさという魅力も備えられる。これが、うちのお椀のスタイル。それでいいと割り切れたんで、椀種を季節ごとに変える定石にもとらわれず、年中、基本的にはフカヒレをお出しします。冬は九条ネギのあん、春なら筍と鯨ベーコン、先月は毛ガニのあんかけにしていました。
6月のお椀は白味噌仕立てだ。京都では鯨のコロの白味噌椀が親しまれているからと、この一椀にも鯨を合わせている。尾羽はさらし鯨、オバケとも呼ばれる尾ビレ。シャクッとした独特の弾力ある歯ごたえが小気味よいアクセントになる。そこに、たたきオクラをたっぷりと。鮮やかな緑が映える、初夏らしいビジュアルだ。
日本料理は”引き算”が大切と言われますが、うちはめっちゃ”足し算”の料理(笑)。一椀の中にいろんな風味や食感を重ねた方が楽しいかなと思って。一口目に白味噌の汁を味わっていただき、途中でたたきオクラを溶かしてもらうと味変にもなります。
ショーマンシップで一道をいく
白味噌の汁を口に含んで、ほっと一息。フカヒレを箸で持ち上げ、圧巻の厚みに目を瞠りつつガブッといく幸せよ。ジャクジャクッと耳に届く音色もまたご馳走。その中から貝柱の旨みがにじみ出てくる。オバケの歯触りも心地よく、たたきオクラを汁に溶けば青い香りが口中を満たす。表情がくるくる変わって面白いなぁ。なんともアトラクティブな一椀だ。
鉄板でしかできない火入れと、目の前で調理を楽しんでいたくライブ感がうちの独自性だと思っています。鉄板は3㎝の厚みがあるので、温度を一定に保てるのが利点で。時間をかけて食材にストレスを与えずに、ジューシーに焼き上げることができる。丸ごと魚を焼いたり、湯気が立ち上る中で焼きそばを作ったり。粛々とコースが進んでいくというより、わ~!と何度も歓声を上げたりしながらワイワイ召し上がってもらって、ディズニーランドにいるみたいな楽しい気分になっていただきたいんですよ。
ウニやカニの上にキャビアを重ねた一品を「痛風メニュー」と称して笑いを取ったり、トレードマークのメガネをプリントした小さな旗をミニハンバーガーの上に立ててみたり。焼きそばに、これでもかとトリュフを削り入れたり。贅沢に旨いもんを貪りたいという大人の本音に応えたコースは、関さんの軽妙なトークも大きな魅力だ。そのショーマンシップに磨きをかけるため、来年には改装を考えているという。
有難いことに、今年、15周年を迎えることができました。開店からずーっと走り続けてきて、僕も48歳になりましたし、もう少し設えをよくしようと思って。実はうつわが好きで、樂や古染付などの骨董も買い集めてきました。そんな名品を飾るスペースも欲しいな、と。今は8席ですけど6席に絞って、お客様とコミュニケーションを取りながら、食事の時間をよりエキサイティングにしていきたいと考えています。
ホテルライクな鉄板焼きでもなく、粉もんをワインと楽しむ鉄板ビストロでもない“鉄板割烹”。開店当初は、追随する店が続々と出てくるものだと思っていた。ところが、未だ孤軍奮闘。「語り合える仲間がいないんで、寂しいんですよ」。フレンドリーでノリのいい関さんがポツリと言った。前にも後にも行く人のいない一道を歩き続ける。そんな覚悟が、新しい舞台には満ちているに違いない。
data
- 店名
- 祇園 一道
- 住所
- 京都府京都市東山区祇園町南側589 ぎをん松本ビル1階
- 電話番号
- 075-561-1949
- 営業時間
- 18:00~20:00入店(22:30閉店)
- 定休日
- 木曜、週1回不定休あり
- 交通
- 京阪本線祇園四条駅から徒歩3分
- 席数
- カウンター8席
- メニュー
- コース36300円。グラスワイン2200円~、ハイボール1100円~。

writer

中本 由美子
nakamoto yumiko
青山学院大学を卒業し、料理と食の本を手掛ける東京の「旭屋出版」に入社。4年在籍した後、「あまから手帖」に憧れて関西へ。編集者として勤務し、フリーランスを経て、2010年から12年間、編集長を務める。21年、和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉〜WA・TO・BI」を立ち上げ、25年に独立。フリーの食の編集者&記者に。産経新聞の夕刊にて「気さくな和食といいお酒」を連載中。
recommend






