女性職人が手焼きする瓦煎餅と野球カステラ。神戸・兵庫区『えみり堂』

神戸名物・瓦煎餅。大正から昭和初期には市内に80軒ほどあった店は、高齢化と後継者不足で、現在十数店にまで減ってしまった―。そんな中、2024年3月にオープンした『えみり堂』。神戸に新しい煎餅屋ができるのは、およそ25年ぶりだという。

昔ながらの手焼きを守る女性職人

店の扉を開けると、すぐ目の前で店主の和田絵三子さんが瓦煎餅や野球カステラを手焼きしている。神戸の商店街や市場でかつてはよく見られた光景だ。大きなボウルに入れた生地を、ガス台にのせた鉄板に流し込み、左から右へ、くるくると回転させながら焼き上げていく。

『えみり堂』の野球カステラ焼く作業
暖簾がかかった扉を開けるとすぐ焼き場が。鉄板をリズミカルに回転させて焼き上げる様子は見ていて飽きない。
10

地元・兵庫区出身で、瓦煎餅は小さい頃からよく食べていて大好きだと言う絵三子さん。「コロナ禍があったこともあり、子どもと一緒にいられるように自営したい、自分が働く姿を子どもに見てほしいと思うようになって」。
縁があり、2021年5月から春日野道にある『手焼き煎餅 おおたに』の三代目の大谷芳弘さんの下で3年余り修業した。「すぐにできそうなくらい簡単そうに見えるんですが、なかなかできない。最初に焼いた煎餅は、まっくろけでした」と笑う。独立するにあたり、神戸煎餅協会に加入したことで廃業した煎餅店やアンティークショップにあった焼き型や焼き印、バーナーなどが提供され、開業を果たした。

『えみり堂』の店主・和田さん
歴史ある瓦煎餅の神戸初の女性職人である和田さん。お姉さんの堀内眞由美さんが接客を担当している。
10

「タネは小麦粉と卵、砂糖やハチミツを練って作ります。配合や火加減は、気温と湿度に合わせて調整。焼き型を火から上げるタイミングで焼き色が変わるので、焼いているときは、すべてに細かく気を配り、集中力を切らさない」と絵三子さん。重いものは4kgもあるという鉄板を回転させながら、ガス火の上を順にずらしていく作業は見た目以上に重労働。3、4時間座りっぱなしで焼き続けることもあるという。まさに職人の世界だ。

懐かしい味と、新味のオリジナルも

瓦煎餅というと、硬いというイメージを持つ人が多いかもしれないが、こちらの瓦煎餅はハチミツをたっぷり加え、カリッサクッと軽い歯ざわりに焼き上げている。「硬い煎餅が苦手という年配の方にも喜んでいただいています」と絵三子さん。焼印も「えみり堂」のマークのものはもちろん、各国の「ありがとう」の言葉とハート形を入れたもの、港町・神戸らしい錨模様が入ったものなどを新たに作ってお店の看板商品にした。

『えみり堂』の焼印を押す作業
瓦煎餅は焼印を押して、季節やその店らしさを表現する。取材時は梅の焼き印で。焼き台の周りには焼印がいっぱい。
『えみり堂』の焼印
10

ピーナッツ、空豆、グリンピースと、それぞれの豆の食感や持ち味が楽しめる豆入り、格子模様が入った「格子せんべい」、さらには「みそせんべい」など、昔ながらの種類が色々。「懐かしい」と買っていく客も多い。
珍しいところでは、生地にココアを入れた「ショコラ」は、マーマレードやピーナッツをプラスして洋風に。「柚子&ぶぶあられ」は爽やかな柚子の香りに驚く。「赤しそ五色あられ」は、シソの風味が利いていて、日本茶にぴったり。3種類の豆と七味が入った「ピリ辛七味」は、お酒のアテにおすすめ。絵三子さんが工夫したオリジナルのフレーバーが実に楽しい。

『えみり堂』の瓦煎餅
瓦煎餅は一袋300円~。オリジナルは、右上から「ショコラアーモンド」「ピリ辛七味」「金柑アールグレイ」「赤しそ五色あられ」「ゆず&ぶぶあられ」、瓦煎餅の下が「黒糖くるみ」。
10

大人気! 野球カステラ

売り切れ御免の大人気の逸品が「野球カステラ」。1915年に全国中等学校優勝野球大会(現在の夏の甲子園大会)が始まってからの野球人気にあやかって、煎餅屋で「野球カステラ」は作られるようになったとか。グローブ、バット、ボール、帽子などの形をした愛らしい一口カステラ。神戸市内でも何軒かで焼かれているが、『えみり堂』のものは、袋を開けるとふわっとハチミツの香りがするのが独特。ふんわりしていて、噛むともっちり。一度で虜になる。

『えみり堂』の野球カステラ
「野球カステラ」1袋350円。焼いている時は、表に「野球カステラ焼いています」の看板が出る。
『えみり堂』の外観
10

「お煎餅はもっといろいろできると思う。自分らしい新しいものにもチャレンジしたい」と絵三子さん。『えみり堂』らしい、新しい煎餅が次々に登場するに違いない。

『えみり堂』の店内
地下鉄上沢駅と大開駅の中間あたり。甘くて香ばしい匂いが目印ならぬ鼻印(笑)。
10