FOODIST 特別インタビュー『菊乃井』亭主・村田吉弘さん

菊乃井 村田吉弘

昨年11月、料理人初の文化功労者に選ばれた村田さん。
和食のユネスコ無形文化遺産登録を始めとする、様々な功績が認められた現在の思いとこれからを聞いた。

無形文化遺産登録を経て
日本の食は文化になった

「文化功労者の顕彰は僕一人やなくて、一緒に頑張ってきた日本料理アカデミーや全日本食学会の会員の代表として戴いたもの。これからは、後進を育て、さらに頑張ってくださいという意味も含んでいるやろうから、責任重大やね」。
村田さんらが尽力した2013年の和食のユネスコ無形文化遺産登録以降、日本の食を取り巻く環境は大きく変わった。56000軒だった日本料理店は123000軒に増え、インバウンドは全国で3・2倍、京都では5倍にまでなった。京都府立大学や立命館大学には食を総合的に学ぶ学部ができ、日本料理アカデミーでは今、日本料理の体系的な教科書『日本料理大全』を作っている。料理人や食の担い手を目指す人に門戸が開かれ、食の業界はますます躍進しようとしている。2017年には日本の食を文化や芸術の一つとするべく「文化芸術基本法」も改正された。
「国が食を文化と認めてくれた、ということ。これはとても大きなことです。ただ料理を作り、継承するだけでなく、料理人は研究者や文化人にもなれるし、料理を楽しむことは絵画や舞台を観るのと同じ扱いになったんやから。ここ数年、学会やアカデミーの連中はよく勉強していて、世界を舞台に活躍しているし、海外での日本料理の発信力はとても大きくなってます」。

サービスの価値向上を!
食の現場には課題山積

日本の食が文化、芸術として認められ、初の文化功労者も選出された料理界だが、村田さんは改善すべき課題も山積していると言う。
「海外に比べて日本のサービスの価値はまだまだ低く、その向上はかなり難題。まず料亭を風営法の範囲から外して「伝統的文化保存施設」とし、もてなしの本質を考え直さんと。おもてなしは“思ってもないことをなす”、つまり一つも二つも先を思って心を尽くすことで、マニュアル通りではダメ。せやから料理屋でサービスする人もソムリエと同様に認められる地位にせんと」。
食を芸術に高める国でありながら、一方ではそれを疑いたくなるようなことが日常まかり通っていることも気になると村田さんは言う。
「何年も先まで予約がいっぱいの店や、高級食材を羅列するような料理がもてはやされる風潮はいかがなものかと思う。それを美味しいとか、いい店と評価するお客さんは果たして食を文化的に楽しんでいると言えるのか。みんな自分の分限をわきまえ、食の楽しさをきちんと見極められる人間にならないとアカンわなぁ」。

公利を求め、人との繋がりを生み、
時代を前に動かす

日本の食の普及や発展に奔走する最中での今回の顕彰。現在、村田さんは、全日本食学会理事長、日本料理アカデミー理事長、和食国民会議の副会長を務め、出版事業、食育活動、海外でのプレゼンテーションなど、超多忙だ。さらに、12年に現代の名工、13年に京都府文化功労賞、14年地域文化功労者、16年日本遺産大使、17年黄綬褒章、と数々の栄誉を受けてきた。
「明治維新から150年、やっと食が文化として認められた。今回の顕彰は、まとまった組織や法人があったからで、本当に皆でよく頑張った。文化功労者になってよかったのは、いろんな場での発言権が持てたこと。これからは料理人だけでなく第一次産業や伝統産業の人たちとも繋がり、大阪や東京と一つになって活動していかんと。文化庁からも料理人の芸術会員の組織を作ってくれと言われてるしなあ」。
食は文化になった。それはようやくスタート地点に立ったということだと村田さんは言う。公利を求め、時代を動かす活動は続く。

撮影/内藤貞保 文/西村晶子


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むらた よしひろ●1951年京都生まれ。料亭『菊乃井』三代目。NPO法人日本料理アカデミー理事長など、数々の要職を歴任している。和食のユネスコ無形文化遺産登録に尽力し、和食を日本文化の一つとし、後世に伝え継ぐことをライフワークとしている。著書に、『割合で覚える野菜の和食』(NHK出版)、『京都料亭の味わい方』(光文社)などがある。